ダメージを和らげる損害保険の種類

リスク管理
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予期せぬダメージを緩和

会社を経営していると、予想もしなかったリスクを背負うことがある。それは、経営陣や主要メンバーのけが・病気、得意先の倒産、従業員が起こす事故、地震などの自然災害と多種多様に及ぶ。2020年から始まった新型コロナ感染症による事業停止リスクを背負った会社もある。リスクには敏感な有名大企業でも、さすがに「パンデミック(感染拡大)」を想定していたところがほとんどないことが露呈した。

経営者や従業員の生命・身体に及ぶ危険については生命保険により対処できる。それ以外の、例えば社屋や工場、店舗、車両といった動産・不動産への対処、不慮の損害を被った場合の補償には損害保険の出番となることが多くなる。

会社にとってダメージとなるリスクとして、真っ先に挙げられるのは「得意先の倒産」だ。この場合、経営者は連鎖倒産への危機感を持つことになり、なにがしかの準備がないと最悪の事態を回避できない。次いで、「社長の病気・けが」「工場・オフィスの火事」などがあり、これらは一時的な損害以上にその後の社業へのダメージが大きい。

このほか、経営者や建物などへの損害以外では「販売商品の欠陥による賠償」「重要情報の紛失・個人情報の漏洩」なども考えられる。特に「販売商品の欠陥」については、製造物責任法(いわゆるPL法、平成6年法律第85号)が施行されて以降、かなり敏感で重大なリスクという認識になった。

会社経営を行ううえで発生する可能性のあるさまざまなリスクについて、それらを完全に予防することはできない。できるのは、リスク発生時の会社のダメージを和らげることくらいだ。損害保険は、リスクが発生した場合の被害を最小限に抑える目的で導入を検討すべきものだろう。

今回は、スモールビジネス経営に役立ちそうな損害保険の全体像を眺めてみて、代表的な種類とその特徴をまとめてみたい。


会社が加入する損害保険

損害保険をざっと眺めるのに、その対象を「人」と「モノ」に分けてみる。会社が加入する損害保険としては、以下の保険が代表的だろう。

■人を対象にしたもの

  • 普通傷害保険
  • 団体傷害保険
  • 交通事故傷害保険
  • 労働災害総合保険
  • 所得補償保険
  • 積立型(普通傷害、交通傷害など)
  • その他の「人」を対象にした損害保険

■モノを対象にしたもの

  • 普通火災保険
  • 店舗総合保険
  • 動産総合保険
  • 盗難保険
  • 機械保険
  • 貨物・運送保険
  • 積立型(火災・動産など)保険
  • その他の「モノ」を対象にした損害保険

■その他の会社が加入する損害保険

  • 利益(休業補償)保険
  • 損害賠償責任保険
  • 自動車保険
  • その他の目的別損害保険

主な損害保険の種類と特徴

上述のように、会社が加入する損害保険の代表的なものだけでも非常に種類が多いことが分かる。ここでは、各種損害保険の中から、企業や企業経営者、従業員にかかわるものを選び、その特徴と概要をまとめておく。

火災保険

■普通火災保険

(1)一般物件用

店舗や店舗兼住宅などの建物および動産などについて、火災、落雷、破裂・爆発、風・ひょう・雪災によって生じた損害の他、臨時費用、残存物取り片付け費用(清掃費用などの後片付け費用)、失火見舞費用、傷害費用、地震火災費用、修理付帯費用、損害防止費用に対して保険金が支払われる。

(2)工場物件用

工場などの建物および動産などについて、火災、落雷、破裂・爆発、風・ひょう・雪災、航空機の墜落、車両の衝突、騒擾・労働争議、給排水・スプリンクラー設備の事故にともなう漏水・放水・溢水によって生じた損害の他、臨時費用、残存物取片付け費用(清掃費用などの後片付け費用)、失火見舞費用、地震火災費用、修理付帯費用、損害防止費用に対して保険金が支払われる。

(3)倉庫物件用

営業用倉庫などの建物および動産などについて、火災、落雷、破裂・爆発によって生じた損害の他、臨時費用、残存物取片付け費用(清掃費用などの後片付け費用)、損害防止費用に対して保険金が支払われる。

■住宅総合保険

住居専用建物およびその収容家財について、火災、落雷、破裂・爆発、風・ひょう・雪災によって生じた損害の他、外来物の落下・衝突、水漏れ、騒擾・労働争議、盗難、水災によって生じた損害、持ち出し家財(旅行、買い物などのために一時的に持ち出された家財)の損害に対して保険金が支払われる。また、交通傷害担保特約、個人賠償責任担保特約、借家人賠償責任担保特約がセットできる。

■店舗総合保険

店舗や店舗兼住宅などの建物およびその収容動産について、住宅総合保険とほぼ同様の損害と費用の他、修理付帯費用に対して保険金が支払われる。また、交通傷害担保特約、店舗賠償責任担保特約、借家人賠償責任担保特約がセットできる。

■団地保険(マンション保険)

団地・マンションなどの耐火造共同住宅およびその収容動産について、住宅総合保険とほぼ同様の損害と費用の他、修理費用、交通傷害、団地構内での傷害、賠償責任の負担による損害に対して保険金が支払われる。

■地震保険

住居専用や店舗兼住宅などの建物およびその収容家財について、上記の各火災保険にセットして引き受ける。火災保険契約の保険金額の30~50%相当額の範囲で契約者が任意に選択した金額を保険金額と定める。

地震・噴火・津波を原因とする火災・損壊・埋没・流失によって、保険の目的が建物の場合は当該建物が全損、半損または一部損となったとき、保険の目的が家財の場合は当該家財が全損または収容建物が全損、半損もしくは一部損となったときに、保険金が支払われる。

■店舗休業保険

卸売業・小売業・サービス業などの店舗・事務所などを対象として、店舗総合保険とほぼ同様の保険事故によって営業が休止・阻害されたために生じた損失(利益の減少など)に対して保険金が支払われる。

■企業費用・利益総合保険

保険の目的である工場や倉庫などの施設・設備などが偶然の事故により物的損害を被った場合や、不測かつ突発的な事故により構外からの電気・ガス・熱・水道の供給や電信・電話が中断または阻害された場合に、営業が休止・阻害されることによって生じた損失、または平常の業務活動を継続するために要した営業継続費用に対して、保険金が支払われる。

■債権保全火災保険

抵当物の火災、落雷、破裂・爆発により抵当権者が被る抵当債権の損失に対して保険金が支払われる。

■価額協定保険(特約)

一定条件の普通火災保険(一般物件用)・住宅火災保険・住宅総合保険・店舗総合保険・団地保険などにセットする特約で、建物については再調達価額、家財については再調達価額または時価額を基準として保険金額を設定し、保険金額を限度として実際の損害額が支払われる。「再調達額」というのは、同等の物を新たに建築あるいは購入するのに必要な金額のことをいう。

自動車保険(任意)

■対人賠償保険

自動車事故によって、歩行者、同乗者などを死傷させ、法律上の損害賠償責任を負担する場合に、自賠責保険の補償額を超える部分に対し保険金が支払われる。

■自損事故保険

自動車の保有者、運転者または搭乗中の者が、自動車事故により死傷し、自賠責保険の補償の対象外の場合に保険金が支払われる。例えば、運転操作ミスで電柱に衝突した場合などを想定している。

■無保険者傷害保険

契約した自動車に搭乗中の者が、他の自動車との事故で死亡または後遺障害を被り、相手自動車が無保険車であるなどの理由で、十分な補償を受けられない場合に保険金が支払われる。

■搭乗者傷害保険

自動車事故によって、自動車に搭乗中の者が死傷した場合に保険金が支払われる。

■人身傷害補償保険(特約)

契約した自動車、または他の自動車に乗車中や歩行中に自動車事故で死傷したり、後遺障害を被った場合に、自己の過失部分を含めて損害額の全額について保険金が支払われる。

■対物賠償保険

自動車事故によって、他人の財物(他の車・建物・電柱など)に損害を与え、法律上の損害賠償責任を負担する場合に保険金が支払われる。

■車両保険

契約した自動車が、偶然な事故により損害を被った場合に保険金が支払われる。

損害保険会社のホームページを見ると、保険契約者のニーズに応じ、上述の保険を単独または組み合わせて商品販売をしていることが分かる。損害保険会社によっては、上記の各保険で補償されない損害を補償する商品(特約)や、契約者の年齢・居住地・性別・車種・走行距離・使用目的などの条件によっては保険料が安くなる商品を販売しているところもある。会社の環境に応じて、複数の損害保険会社を比較するといいだろう。

傷害保険

■普通傷害保険/積立普通傷害保険

家庭内、職場内、通勤途上、旅行中など日常生活において、急激かつ偶然な外来の事故により身体に傷害を被った場合に保険金が支払われる。また、特約をセットすることにより、賠償責任に対しても保険金が支払われる。保険金の種類には、死亡保険金・後遺障害保険金・入院保険金・手術保険金・通院保険金(特約)などがある。

積立普通傷害保険は、普通傷害保険に積立にかかわる機能(満期返戻金、保険料の振替貸付、契約者貸付など)を持たせる内容の「積立型基本特約」をセットし、保険期間を3年、5年、10年などと長期に設定する商品だ。

■年金払積立傷害保険

積立保険(貯蓄型保険)の仕組みを用いた個人年金商品。一定期間保険料を払い込んだ後、約定した給付金が年金払の形で支払われるとともに、保険期間満了までの間、ケガによる死亡・重度後遺障害に備える保険。給付金の支払条件により「確定型」と「保証期間付有期型」の二つのタイプがある。

■所得補償保険/積立所得補償保険

病気やけがによって就業が不能となった場合に、被保険者の喪失する所得を補償する保険。また、特約をセットすることにより、傷害による死亡・後遺障害についても保険金が支払われる。積立にかかわる機能は積立普通傷害保険の場合と同じ。

動産総合保険

■動産総合保険

この保険は、火災保険、盗難保険などの特定場所における財物の特定危険のみを対象とする保険や、対象を動的な状態にある貨物に限定している運送保険、所在場所の制約はないが、対象とする財物が特定されている船舶保険、自動車保険などの既存保険で満たすことのできない保険需要にこたえるべく創設されたもので、次の3点が大きな特色となっている。

  • いわゆるオールリスク保険であって、原則として一切の偶然な事故によって保険の目的(動産)に生じた損害に対して保険金が支払われる
  • 保険証券記載の地域内であれば、保管中、使用中、輸送中を問わず、いかなる場所で事故が発生しても保険金が支払われる
  • 自動車保険、船舶保険、航空保険などの対象物件になるものなど若干の例外を除き、動産であれば、ほとんどすべての財物が引受対象となる

引き受け方法には、美術品・宝石・貴金属など個々の保険の目的を特定して引き受ける方法のほか、リース業者のリース物件または流通過程にある商品・在庫品を包括的に引き受ける方法などがある。

■コンピュータ総合保険

原則として、偶然な事故によって生じた、「情報機器の物的損害」「磁気テープなどのメディアの再制作費用」「平常業務継続に要する営業継続費用」「業務停止にともなう損失」に対して保険金が支払われる。

賠償責任保険

■施設所有(管理)者賠償責任保険

工場、店舗、学校、遊園地、広告塔、貯水池などの各種施設の所有、使用、管理、またはその施設における仕事の遂行にともなって生じた偶然な事故により他人の身体・生命を害したり、他人の財物に損害を与えた場合に、被保険者が法律上の損害賠償責任を負担することによって被る損害に対して保険金が支払われる。

■請負業者賠償責任保険

建築工事、土木工事の請負業者が行う仕事の遂行、または仕事の遂行のための施設の所有、使用、管理にともなって生じた偶然な事故により他人の身体・生命を害したり、他人の財物に損害を与えた場合に被保険者が法律上の損害賠償責任を負担することによって被る損害に対して保険金が支払われる。

■生産物賠償責任保険(PL保険)

被保険者が生産もしくは販売した財物が他人に引き渡された後、または被保険者が行った仕事が終了した後、その生産物もしくは仕事の結果の欠陥などにともなって生じた偶然な事故により他人の身体・生命を害したり、他人の財物に損害を与えた場合に被保険者が法律上の損害賠償責任を負担することによって被る損害に対して保険金が支払われる。

■ゴルファー保険

ゴルフの練習、競技、指導中の偶然な事故が対象で「他人の身体・生命を害したり、他人の財物に損害を与えた場合に、被保険者が法律上の損害賠償責任を負担することによって被る損害」「ゴルファー自身の傷害」「ゴルフ用具の破曲損、盗難」「ホールインワン・アルバトロスを達成した場合に支出する記念品などの費用」などに対して保険金が支払われる。

機械保険

■機械保険

各種機械設備・装置に偶発的に生じた損害、例えば、誤操作、設計・鋳造・材質の欠陥、制作・組立の欠陥、遠心力に基づく破壊、ボイラーの空炊き、物理的原因による破裂・爆発、落雷、凍結、電気的現象などによって被った損害に対して保険金が支払われる。

信用保険

■身元信用保険

従業員が単独または第三者と共謀して行った窃盗・強盗・詐欺・横領または背任行為によって、使用者が被った損害に対して保険金が支払われる。

■割賦販売代金保険

商品などを代金分割契約により購入した買い主が、分割払代金を支払わなくなったことによって、売り主の被った損害に対して保険金が支払われる。

■住宅資金貸付保険

会社が従業員に対して行う住宅資金貸付において、従業員が借入金を返済できなくなったことによって、会社が被った損害に対して保険金が支払われる。

保証保険

■履行保証保険

請負契約もしくは売買契約などで、受注者が契約を履行しないことにより、発注者が被った損害に対して保険金が支払われる。

■特約販売店保証保険

石油・セメントの特約販売店が、特約販売店契約に基づく代金支払債務などを履行しなかったことにより、石油・セメントの販売業者が被った損害に対して保険金が支払われる。

■保証証券(シュアティ・ボンド)

保険会社が債務者から保証料を徴して保証証券を発行することによって、債務者が債務を確実に履行することを債権者に対して保証するものであり、債務者に債務不履行が生じた場合には、保険会社は保証人として保証債務の履行をする。

建設工事保険

■建設工事保険

工事現場において、工事の目的物、工事用材料・仮設材・仮設物・仮設建物について生じた不測かつ突発的な事故による損害に対して保険金が支払われる。また、特約の付帯によって、水災による損害あるいは第三者に対する法律上の損害賠償責任を負担した場合の損害に対しても保険金が支払われる。

■組立保険

建物の内装・外装工事、ビル付帯設備工事(電気・空調・給排水、ガス、衛生設備など)、機械設備の設置(プレス機械の設置、印刷機械の改修工事、変圧器の設置など)の工事中に、不測の事故によって工事対象物について生じた損害に対して保険金が支払われる。

■土木工事保険

建設工事保険や組立保険では対象とならない土木工事一般において、工事の目的物、工事用材料・仮設材・仮設物・仮設建物について生じた不測かつ突発的な事故による損害に対して保険金が支払われる。

風水害保険

■風水害保険

建物またはその収容物について、台風・旋風・暴風雨・高潮・洪水などの風災または水災によって生じた損害に対して保険金が支払われる。

労働者災害補償責任保険

■労働者災害補償責任保険

政府労災保険と同様に、事業主が、従業員の労災事故の発生にともなって負担する労働基準法上の災害補償責任に対して保険金が支払われる。

■労働災害総合保険/積立労働災害総合保険

事業主が、その従業員の労災事故の発生にともない被る2種類の損害(法定外補償、使用者賠償責任)に対して保険金が支払われる。政府労災保険などの上乗せとして位置づけられる保険。積立にかかわる機能は、積立普通傷害保険の場合と同じ。

ボイラ・ターボセット保険

■ボイラ・ターボセット保険

ボイラ・圧力容器またはターボセット(蒸気タービン発電機)について破裂・爆発・破壊などによって生じた損害に対して保険金が支払われる。

ガラス保険

■ガラス保険

ショウウィンドウ・ショウケース・出入口などのガラスが偶然な事故によって破損した場合の損害に対して保険金が支払われる。

盗難保険

■盗難保険

特定収容場所に収容されている動産について、盗難(窃盗・強盗による盗取・毀損・汚損)によって生じた損害に対して保険金が支払われる。盗難危険は、住宅・店舗総合保険や動産総合保険でも補償されるが、この保険は盗難危険のみを対象としている。

■クレジットカード盗難保険

クレジットカードの発行会社が保険契約者、カードの持ち主が被保険者となって、カードが盗まれたり紛失し、他人に不正使用されたことによりカードの持ち主が被る損害に対して保険金が支払われる。また、キャッシュ・ディスペンサー用カードについて、同様の不正使用や引き出しの強要による損害に対して保険金が支払われる特約もある。

費用・利益保険

■費用・利益保険

(1)興行中止保険

プロ野球などのスポーツ大会や音楽会などのイベントが偶然な事故によって中止または延期された場合に、主催者などの被保険者が支出する費用または喪失する利益に対して保険金が支払われる。

(2)天候保険

天候の影響により営業が休止または阻害されたために、レジャー業者が休業期間中に支出を余儀なくされた費用(経常費)および、その間喪失する営業利益に対して保険金が支払われる。

輸送に関する保険

■運送保険

陸上または河川・湖沼輸送中の貨物について、火災、爆発、もしくは輸送用具の衝突・転覆・脱線・墜落・不時着・沈没・座礁・座州によって生じた損害、またはすべての偶然な事故によって生じた損害に対して保険金が支払われる。

■船舶保険

貨物船や油漕船などの一般商船をはじめとして、作業船や海底石油資源開発に従事する海洋掘削装置など、海上で使用される物件を保険の対象として、海上危険(沈没・座礁・座州・火災・衝突など)および特約がある場合には陸上危険によってこれらに生じる損害に対して保険金が支払われる。保険種類としては、普通期間保険、戦争保険などがあり、特約によって、賠償責任保険の引き受けも行っている。

■貨物海上保険

海上輸送中の貨物について、輸送用具の沈没・座礁・座州・火災・衝突・その他の海上危険による損害に対して保険金が支払われる。

ここまで紹介した特徴は、あくまで保険商品の概要だ。実際の商品内容は各損害保険会社ごとに異なることがある。商品の内容、引受方法、保険金の支払条件などの詳細については、各損害保険会社のホームページやパンフレットを照会してほしい。


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