商工会と商工会議所
起業して数年後とか、まだ会社の規模が小さいときに運転資金や設備資金の借入をしようと思う経営者の多くは、『マル経融資』にお世話になることが多いのではないだろうか。
マル経融資の正式名称は「小規模事業者経営改善資金」という。小規模事業者の経営をバックアップするため、商工会議所や商工会の推薦にもとづき、「無担保・無保証人」で融資を受けることができる日本政策金融公庫の融資制度のことだ。小規模な会社の経営者以外には無縁のため、「マル経」という言葉は一般的にはそれほど知られてはいない。
実際に『マル経融資』のお世話になったときは、東京商工会議所に相談した。本社が東京23区内にあったからだ。商工会議所と同様の活動を町村部で行っているのが商工会。商工会・商工会議所は、それぞれ「商工会法」「商工会議所法」に基づき設立された認可法人。主に、商工会は町村部を中心に、商工会議所は市域部を中心に設置されている。
今回のテーマは、商工会と商工会議所の概要をまとめることだ。まずは以下に商工会と商工会議所の比較表を示しておく。
区分 | 商工会 | 商工会議所 |
---|---|---|
根拠法 | 商工会法 | 商工会議所法 |
管轄官庁 | 経済産業省 中小企業庁 | 経済産業省 経済産業政策局 |
地区 | 主として町村の区域 | 原則として市の区域 |
会員に占める小規模事業者の割合 | 9割を超える | 約8割 |
事業 | 中小企業施策、特に小規模事業施策に重点を置いており、事業の中心は経営改善普及事業 | 地域の総合経済団体として、中小企業支援のみならず、国際的な活動を含めた幅広い事業を実施。 小規模事業施策(経営改善普及事業費)は、全事業費の2割程度 |
小規模会社の強い味方
商工会・商工会議所はともに、地域の小規模事業者の育成や地域の活性化を図ることを目的として、さまざまな活動を行っている。
中でも代表的なのは、地域内の小規模事業者に対して税務・金融・経営・労務などの各種指導などを行う「経営改善普及事業」。この事業は、商工会・商工会議所に配置された経営指導員が小規模事業者の経営相談に応じたり、専門の記帳指導員が記帳の仕方などを指導するもの。
このほかにも、むらおこし、まちづくりなどの地域を活性化する事業、地域の社会福祉に貢献する事業など幅広い活動を行っている。
さらには政策提言・要望を取りまとめることも実施している。東京商工会議所の2021年の政策提言・要望例では、国の中小企業対策に対する要望や税制に関する意見、雇用就業施策に関する要望から、中小企業のIT活用・デジタルシフト推進に関する意見まであり、かなり幅広い。
商工会と商工会議所は、前述の通り法人設立の根拠法が異なるため全くの別組織だが、目的や性格はほぼ同じと考えていいだろう。違いがあるとすれば、主に町村部には商工会、市域部には商工会議所があるという「地区の違い」が大きいかもしれない。
商工会・商工会議所の主な支援策
商工会・商工会議所が小規模事業者向けに行っているさまざまな支援策の中から、代表的なものを紹介しておこう。
経営改善普及事業
小規模事業の経営者は、自ら労務に従事している場合が多く、経営の合理化などに、十分時間がさけないのが実情。そこで経営改善普及事業は、小規模企業の経営に詳しく、しかも国や地方公共団体の小規模企業施策を熟知した、いわば経営面でのホームドクターというべき者(経営指導員)を全国に配置し、小規模事業者の相談に応じている。
■主な相談内容
中小企業庁が公開している「相談・情報提供」ページを参考にまとめると、以下の相談内容が中心となっている。
- 資金繰りや融資について
- 税務、経理、労務、社会保険などについて
- 技術の改善、工業所有権、商取引などについて
これらの相談は、経営指導員に加え、複雑な税務・法律問題などの専門的な相談の場合には、税理士・公認会計士・弁護士などによる相談コーナーも用意されている。なお、これらの相談、指導は無料。もちろん、相談内容などの秘密は固く守られている。
■エキスパート・バンク
技術士や店舗プランナーなどの専門家(エキスパート)が小規模事業者のニーズに合わせ、直接現場に出向いて、専門家の立場からアドバイスを行う。
■経営安定(倒産防止)特別相談室
経営が困難な状況にある小規模事業者に対し、商工調停士や専門スタッフが経営安定のための方策を相談者とともに考え、解決する。
■記帳指導
専門の記帳指導員が仕訳から年末調整、決算、申告手続きなどていねいに分かりやすく説明してくれる。また、忙しい人のために記帳の代行も受け付けている。
■そのほか
創業を予定しているひとに対する支援、むらおこし事業や地域経済や地場産業の活性化、魅力ある商店街づくりなど、さまざまな事業を通じて、小規模事業者の支援を行っている。
小企業等経営改善資金(マル経)融資制度
コラム冒頭で述べたとおり、マル経融資とは小規模事業者の経営改善などに役立てることを目的として実施されている無担保・無保証人の国の融資制度。運転資金としても設備資金としても活用できる。
- 運転資金:仕入資金、手形決算資金、給与・ボーナスの支払など
- 設備資金:工場・店舗の改装資金、車両購入、機械設備の購入など
ただし、生活衛生関係営業(飲食店、喫茶店、食肉・食鳥肉販売業、氷雪販売業、理容・美容業、映画・演劇・演芸場、旅館業、浴場業、クリーニング業)では、運転資金のみ利用可能。
■利用対象者
- 常時使用する従業員が20人以下の法人・個人事業主(商業・サービス業は5人以下)
- 商工会・商工会議所の経営指導を原則6カ月以上(550万超借入予定者については必ず6カ月以上)受けていること
- 税金(所得税、法人税、事業税、都道府県民税など)を完納していること
- 非対象業種などに属していない業種の事業を営んでいる者
■融資条件
- 貸付限度額:550万円+別枠450万円
- 返済期間:運転資金5年以内/設備資金7年以内
■利用手続き
- 事業所所在地の商工会・商工会議所へ相談し申し込む
- 商工会・商工会議所から日本政策金融公庫へ推薦
- 日本政策金融公庫から融資が実行される
新創業融資制度
新創業融資制度は、事業計画(ビジネスプラン)を審査して無担保・無保証人で、日本政策金融公庫が迅速に融資を行う制度。商工会・商工会議所では、中小企業支援センターなどとともに、事業計画策定などについて支援を行っている。
■利用対象者
- 対象者の要件
新たに事業を始める方または事業開始後税務申告を2期終えていない者 - 自己資金の要件
新たに事業を始める者、または事業開始後税務申告を1期終えていない者は、創業時において創業資金総額の10分の1以上の自己資金(事業に使用される予定の資金をいいます。)を確認できる場合。
ただし、「現在の勤務先と同じ業種の事業を始める場合」、「産業競争力強化法に定める認定特定創業支援等事業を受けて事業を始める場合」に該当する場合は、本要件を満たすものとする。
■主な融資条件
- 資金の用途:設備資金および運転資金
- 貸付限度額:3,000万円(うち運転資金1,500万円)
- 貸付期間:各融資制度に定める返済期間以内
- 貸付条件:無担保・無保証人(法人代表者の保証も不要)
■利用手続き
- 融資の申し込みは、直接日本政策金融公庫へ申し込むか、商工会、都道府県商工会連合会、商工会議所、中小企業支援センターなどを通じて日本政策金融公庫に申込む
- ビジネスプランの内容、自己資金の要件などについては日本政策金融公庫が審査
- 審査結果については、日本政策金融公庫から申込者あてに通知
- 日本政策金融公庫が融資を実行
起業支援のための「創業塾」の開催
全国の商工会・商工会議所では、創業に向けて具体的なアクションを起こそうとする者を対象に、経営戦略(ビジネスプラン)の完成、創業に必要な実践能力の習得を支援するため、1短期集中研修(創業塾)を開催している。
また、新事業展開などを目指す、既に事業を営んでいる者や若手後継者を対象に、経営戦略、組織マネジメントなどの知識・ノウハウの修得を支援するため、短期集中研修(第二創業コース)を開催している。
例えば、東京商工会議所の「創業支援・起業支援」の中には、以下のプログラムが公開されている。
- 創業支援セミナー『東商・創業ゼミナール』(1コース6日間/年間2コース開催)
- 創業支援セミナー『創業塾』(1コース2日間/年間2コース開催)
- 創業支援セミナー『創業テーマ別セミナー』(随時開催)
- 創業支援セミナー『創業フォーラム』
- そのほか「創業者交流会」「開業ガイドブック」など
商工会・商工会議所の上部組織
全国の商工会の上部組織は全国商工会連合会、商工会議所の上部組織は日本商工会議所だ。
全国商工会連合会
全国商工会連合会は、「商工会について」で以下の説明(抜粋)をしている。
商工会は、地域の事業者が業種に関わりなく会員となって、お互いの事業の発展や地域の発展のために総合的な活動を行う団体です。
引用:全国商工会連合会「商工会について~商工会とは~」
また、国や都道府県の小規模企業施策(経営改善普及事業)の実施機関でもあり、小規模事業者のみなさまを支援するために様々な事業を実施しています。もちろん小規模企業施策だけでなく、様々な中小企業施策も実施しています。
商工会は、法律(商工会法)に基づいて、主に町村部に設立された公的団体で、全国に1,649の商工会があります。また、各都道府県には商工会連合会があり、広域的なテーマや専門的なテーマについて、みなさんを支援いたします。
商工会の会員等は、様々な業種の事業者等で、全国で約78万事業者等が加入されています。加入している事業者の割合(組織率)は、全国平均で57.3%です。
幅広い業種の事業者が加入し、これだけの規模と組織率を有する団体は他にはありません。
実際に相談する窓口は、「全国各地の商工会検索」ページから自分の自治体を探すことになる。
日本商工会議所
日本商工会議所は「日商について」で以下の説明をしている。
わが国最初の商工会議所である「商法会議所」は明治11(1878)年に東京、大阪、神戸で設立されました。その後、全国の主要都市に相次いで設立され、明治25(1892)年に15の商業会議所がその連合体として「商業会議所連合会」を結成しました。
引用:日本商工会議所「日商の概要」
そして大正11(1922)年6月に「商業会議所連合会」を改編し、常設の機構・事務局を持つ「日本商工会議所」が誕生しました。それ以後、名称・組織の 変更など様々な変遷がありましたが、戦後の昭和29(1954)年に現行「商工会議所法」に基づき特別認可法人として改編され、今日に至っています。
現在(2020年4月時点)、全国で515商工会議所がそれぞれの地域で活動しています。商工会議所は(1)地域性-地域を基盤としている、(2)総合性 -会員はあらゆる業種・業態の商工業者から構成される、(3)公共性-公益法人として組織や活動などの面で強い公共性を持っている、(4)国際性-世界各 国に商工会議所が組織されている、という4つの大きな特徴を持っており、全国の商工会議所の会員数は122万(2021年3月現在)を数えています。
日本商工会議所は、全国515の商工会議所を会員とし、各地の商工会議所が「その地区内における商工業の総合的な発展を図り、兼ねて社会一般の福祉増進に資する」という目的を円滑に遂行できるよう全国の商工会議所を総合調整し、その意見を代表している団体です。
実際に相談する窓口は、日本商工会議所が2020年に開設したビジネス情報サイトである日商Assist Bizに設置されている「全国商工会議所リンク」から探すのが便利だ。