納期管理の必要性
ここまでの数多くのコラムで『生産性向上』とそれに伴うコスト削減にふれてきた。この『びじぱぱノート』の検索カラムに”生産性”と入力して検索すると、業務の見直し、ITツール導入、適切な人材配置、アウトソーシング活用、会議の活性化、社員のスキルアップ、仕事におけるムダ・問題点を整理するなどなどが登場する。ビジネスをやる者にとって生産性向上策は永遠のテーマかもしれない。
今回は、生産性向上策としての「納期管理」の基本的な内容をまとめてみたい。主として製造業を想定して書いている。
納期管理の意義
製造業においては、在庫を適正水準まで削減することで、余分なコストや作業工数の削減を実現できるだけでなく、保管場所や賃貸料、光熱費といった維持経費、さらに管理に要する人件費などの最適化を見込むことは常識となっている。在庫を減らすため、必要なものを、必要な時に、必要なだけ生産し供給するJIT(ジャストインタイム)やMRP(マテリアル・リクワィアメンツ・プランニング)が当り前になってきた。これらを実践するために、「納期管理」は不可欠な要素だ。
品質や価格の競争は当然のことながら、「納期を守る」あるいは「納期を短縮する」ことも競争力を維持または向上させることにつながる。逆にいえば「納期遅延が頻繁に発生する」ような状態では取引先の信頼を失い、また「競合他社より納期が長い」ようでは、競争力に欠けることになってしまう。
納期管理がしっかりできていないといかなる事態を引き起こすのか考えてみよう。
製造業の場合、ジャストインタイムで生産する仕組みができている今日、自社の都合で納期が遅れると取引先の生産計画をも狂わせることになり、経済的損失を与えることになる。さらには、予定納期に製品が出荷できないとなると、当月の売り上げ予定が狂い、資金繰りにまで影響する可能性もある。
流通業やサービス業などでも、納期に間に合わないとなると、取引先に迷惑をかけるだけでは済まない。特に一般消費者が相手先である場合、納期が守れず、その対応を誤るといきなり顧客を失うことになりかねない。
納期が不明瞭というケースは対外的にはそれほど多くないはず。しかし、社内における納期(部門ごとに設定している納期)が不明瞭なケースはそれなりにあるだろう。これは生産の長期化や在庫増加の一因ともなる。
もし、「社内納期なので1~2日のずれ込みは何とかなる」との考えがまん延すると、社内での納期意識が低下する。このような状態が続けば、最終的には間違いなく生産部門や営業部門など部門間であつれきが発生し、納期遅れにつながることになる。
取引先に対して納期を明確にし、順守するためには、きめ細かい納期管理が必要となるのはいうまでもない。また、材料入荷の遅れ、生産設備の故障、流通過程におけるトラブルなどで起きる納期遅延をいかに回避するか、さらには納期遅延が発生した場合、取引先および社内の他部門に対して、事後処理策を事前に考えておく必要がある。
サプライチェーン・マネジメントにみる納期管理
資材調達→生産→物流→販売といった一連の企業活動の中で、部品や製品の滞留を最小限に抑え、納期を短縮することを「サプライチェーン・マネジメント」という。サプライチェーン・マネジメントを行うことによって、在庫コストを圧縮し、資金回収期間の短縮が図れる。さらに、製品納期が短縮されることで、少量多品種生産に適応し、売れ筋商品を素早く市場に提供できるというメリットもある。
サプライチェーン・マネジメントを納期管理の視点からみてみよう。サプライチェーン・マネジメントでは、部門や企業を超え、製品サプライヤー全体での納期管理の徹底が図られている。
製造メーカー、下請けメーカー、物流会社、販売会社といった製品サプライヤーすべてが一体となり、受発注管理・顧客管理・資材管理・需要予測・生産管理・物流管理など、製品の受注生産から販売に至る情報のすべてを統合管理し、製品製造に必要な受発注情報、生産情報(生産計画、製品在庫、製品製造の進捗状況、部品の在庫・納期・価格など)、物流情報は、個々の段階で分断されることがないようにネットワーク化されている。
納期管理に必要な情報は関連するすべての各部門・企業で把握でき、それに沿って、納期管理が徹底して実践される。サプライチェーン・マネジメントにおいて、納期管理が全体として行えないサプライヤー(システム)は考えられないのだ。
納期遅延の原因とその予防策
納期遅延の原因
普通であれば、適正な納期で受注し、生産計画通りに生産すれば、納期遅延など起こらないはずだが、実際にはさまざまなことが原因で納期遅延が発生する。ここでは製造業を例に、一般にいわれる納期遅延の原因をざっと眺めてみよう。納期遅延の原因として一般には、以下が挙げられる。
- 工程管理の不備:生産計画、進度管理などの工程管理ができていない場合。あるいは、基準日程や日程計画の決め方に無理があるなど、ずさんな生産計画をしている場合
- 生産能力以上の無理な受注:営業担当者が生産部門の状況を把握しないで、売り上げ欲しさに受注してしまったり、生産部門も安易にその受注がこなせると判断し、受ける場合
- 短期納入注文の受注:いわゆる特急注文で、取引先からの強い要請により受注せざるを得ない場合
- 質的能力を上回る受注:自社の技術水準を上回る製品や不慣れな新製品を受注する場合
- 設計の不備や変更:設計図の不備や設計ミスによる場合。製造開始後に設計ミスが発見された場合
- 生産工程中の事故など:生産設備の不良、機械故障や人的事故が発生し、生産工程が中断される場合
- 調達資材の納入遅れ:自己調達品の納入遅れや調達部品に不良があった場合
- 労務管理の不備:作業者の不意の欠勤、作業能率の低下などによる場合
- 納期管理の不備:外注担当者や工程管理者に納期管理の意識が低く、作業の遅れを見逃したり、事前の納期督促の方法が確立していないことから、納期遅延が発生してから気がつく場合
遅延予防策
上記で列挙した納期遅延の各原因に関する対策を個別に列挙してみる。
■工程管理の不備
基準日程、日程計画、進度管理などの精度を上げるとともに、これらの管理体制を強化
■能力以上の無理な受注
営業部門は生産部門と連絡を密にし、互いに正確な情報を交換したうえで、受注。両部門が生産状況について正確な情報を共有していれば、正しい納期を設定できる。
また、営業部門が橋渡しとなり発注企業と生産部門が情報交換できるような体制を作る。発注企業と受注企業との間で詳細な情報交換が可能であれば、納期だけでなく、仕様や材料などの細かな点についても正確に伝わり、さらには発注企業のニーズも事前に察知することが可能になるだろう。
■短期納入の注文の受注
このような受注は、納期がずれ込む可能性の高い。営業部門と製造部門で十分に情報を交換し、納期を設定する。取引先には、納期が遅延する可能性のあることを通知しておくとよい。また、生産状況を逐一報告しておけば取引先も安心するはずだ。
■設計の不備や変更
設計納期を十分にとる一方で設計業務の標準化を図る。ただし、設計に関しては個人の能力に負うところが多いため、設計者が1人で悩み業務が進まないことがないように管理者は進ちょく状況を注視するとともに、行き詰まる前に相談できる仕組みを作る。
■生産工程中に事故など
品質管理システムや設備保全体制を確立する。また、生産工程において一時的にラインが休止した場合は、人的労力で部分的にカバーできるように訓練しておく。生産現場における人的事故は無理な生産体制や不注意から起きることが多いので、無理な生産体制を組まないことはもちろん、安全マニュアルを作成し、順守するようにする。
■調達資材の納入遅れ
カムアップ・システム(事前納期督促システム)の導入を図る。検査基準の明確化や不良品処理のマニュアルを作成し、順守する。
■労務管理の不備
労務管理のレベルアップと同時に、職場環境の改善を行い従業員モラルの向上を図る。上からの一方的な命令や管理ではモラルの向上は望めない。できれば、お仕着せではない現場従業員からの改善提案や意見を管理者は重視し、多少不備があろうとも、現場からの提案を採用するようにする。現場からの意見が重視されると分かれば、現場従業員からの改善提案は継続してでてくるはず。
■納期管理の不備
担当者の意識改善や責任体制の明確化を図るとともに、カムアップ・システムの導入を図る。
納期意識を改革する
最近では、多くの会社で納期管理に関心がいくようになったが、例えば「品質管理」や「原価管理」と比較すれば、まだまだ意識は低いといえるだろう。ひとことで「納期」といっても、部門によって少し考え方が異なるため、まず最初に「納期」を3部門・6種類に分類してみる。
●営業部門で用いる納期
(1)取引先に約束する納期(契約書に記載)
(2)社内に希望する納期(受注通知書)
●製造部門で用いる納期
(3)営業に約束する納期(製造命令書、生産予定表)
(4)部門で目標とする納期(作業伝票、作業予定表)
●調達部門で用いる納期
(5)製造部門から要求される納期(購買依頼書)
(6)発注先に指示する納期(注文書)
これらの納期は、(1)が最も長く、番号が大きくなるほど短くなっている。(1)と(2)に全く余裕がないのでは、万が一トラブルが発生した場合、期日に取引先に納入できない事態に陥ることが容易に考えられるため、多くの企業で相応の余裕を設けてあるはずだ。
各部門における担当者の納期意識が低いと問題が発生する。
仮に(1)(2)に必要以上に時間的余裕がある場合を考えてみよう。(1)(2)に余裕があるため、製造部門の担当者は(2)の納期に少しばかり遅れてもよいと安易に考えてしまいがちだ。このような考えは(3)(4)(5)(6)の担当者にも起きてしまう。
例えば、「製造部門で日程計画自体に時間的余裕をみてある」と現場従業員が漠然と考えていると、多少の遅れを当然と考えるようになる。多少の遅れは、急げば取り返せるといった考えもまん延してしまいがちだ。このような状態では納期が意味をもたなくなるばかりか、事故や不良品の多発といった状況に陥る危険性がある。
複数の部門や部署をまたぐため、それぞれの納期に多少の余裕は必要だが、必要以上の余裕は、納期意識を低下させるだけでなく、生産性や部門間の信頼関係をも低下させてしまう。各部門担当者が信頼でき、責任をもって守れる納期を設定する必要がある。
具体的には、「納期連絡ミーティングを週1回開く」など各部門の担当者は連絡を密にし、適正納期を設定し、それを必ず順守する姿勢を確立するのがベターだ。各担当者が多忙、または製造部門や営業部門が遠隔地にあるなど一同に集合してミーティングを開けない場合には、ネットワークで情報を共有し、確認し合えばいいだろう。
納期遅延対策の具体的方法
納期遅延対策の実施手順
納期遅延が発生した場合は以下の4つの手順で納期遅延対策を練るのが基本だといわれる。
- 納期遅延の発生(遅延の判断基準を超えた)
- 工程会議
- 緊急会議
- 抜本的対策
上記の2. 工程会議~4. 抜本対策の概要を以下にまとめておく。
■工程会議
- 工程管理スタッフを召集する
- 参加メンバーは製造部門では工程管理者、必要に応じて工場長、資材部門、営業部門
- 「緊急対策」か「抜本的対策」かを判断する
■緊急会議
- 当面の緊急対策を検討・決定する
- 納期の回復を最優先する
- ほかのオーダーへの影響程度、優先度を見て緊急対策の中味を決める
■抜本的対策
- 抜本的対策を実施する責任担当部署、担当者を決めて実施状況をフォローする
納期遅延対策のポイント
上記で示した納期遅延対策手順を実施する際の3つのポイントをまとめておこう。
■緊急対策と抜本的対策に分ける
納期遅延が発生した場合はまず「緊急対策」と「抜本的対策」とに分けて考える必要がある。
■発生源から改善する
納期遅延の原因はさまざまだが、基本的には1つか2つのことが原因となっているはず。納期遅延が発生した場合は、まず、最も発生源に近いところで処置する必要がある。「単に突発的な出来事によって発生した」のであればさして重要視する必要はないが、「全体のシステムとして発生した」のであれば、抜本的対策を講じなければならない。これを契機にシステム全体を見直さなければ、再度、納期遅延を引き起こすことになるからだ。
■最悪のケースを想定する
社内納期の遅延が発生し、どのような対策を講じても取引先と約束した納期に間に合わないといった場合には、早急に営業部門を通じて取引先に報告する。最終納期が迫ってから取引先に報告したのでは手遅れになりかねない。取引先に現状を報告し、次善策や代替策を提案する必要がある。
納期管理のための実践方法
納期管理を行う4つの手法
納期管理を正確に行うためには以下の4つの手法が重要とされている。
- 日程管理:生産の着手、完了時期をいつにするか決める
- 現品管理:ものがどこに、いくつあるのかを把握する
- 進度管理:工程における仕掛量を把握し、進み具合を把握する
- 基準日程の策定:納期に対して各工程作業の着手を決めるためのベース作り
以下でこれらについて簡単に説明する。
■日程管理
以前は、日程管理にはガンチャートが多く利用されていた。ガンチャートでは日程計画が一目で分かる利点がある一方で、部門や部署との関係が不明瞭という弱点もある。製品の工程が比較的少ないものについてはガンチャートで構わないが、複雑なものについては、部門や部署との関係が不明瞭なままでは、納期遅延の原因となる。
このような場合には、相互関係を明確化したパート図を使った日程管理を試してみるのがよい。パート図は、プロジェクト管理での工程管理でも用いられるため、複数組織が関わる全体日程を把握しやすい。
■現品管理
現品管理は、進度管理に直接結びつく基本要素で「工程間の現品受け渡しを容易にする」「運搬や保管が分かりやすいように整理・整頓する」「現品の紛失や劣化によるロスを防止する」ためのもの。どこに何がいくつあるかを把握できる。
■進度管理
毎日の生産状況を把握するためには「生産進度管理図」や「流動数曲線による進度表」を用いて管理する。なお、この「流動数曲線による進度表」は継続生産を行うような現場には適しているが、個別生産には適していない。
また、作業の遅れを段階的に早期発見する仕組みとして「カムアップシステム」を導入することも一案だ。「カムアップシステム」は納期前に、担当者に納期を確認することをすべての納期段階で行うので、納期遅延対策としては非常に有効だといえよう。
■基準日程の策定
基準日程は「工程待ち→加工→検査→運搬」の一連のすべての作業日数をそれぞれ決めるもの。
基準日程は継続生産、ロット生産、少量多品種生産を行う場合でその設定方法が変わる。また、合理的に基準日程を決めることは困難なため、ある程度経験と勘にたよる場合があることは仕方のないことだといえよう。ただし、基準日程が適切でないと納期遅延の原因となってしまう。
そのほかの方法
前述した以外にも、納期遅延対策として行われているのが生産現場での「差立板」「工程管理板」による確認だ。これらを利用すれば、工程管理者や作業者が一目で作業の進捗状況を把握することができる。
また、工程管理に正確性を期すためにバーコード付き作業票を取り入れているところもかなり増えてきている。バーコードの導入は、作業者の作業票記入を省くだけでなく、各工程での進捗状況が把握できるうえ、工程ごとの実績や停滞時間なども把握できることから、データを分析し、問題点の把握が容易となり、さらなる改善につながる。
■情報ネットワーク構築
納期管理を各部門ごとに徹底して行うのは当然だが、生産性向上を考えるなら、会社全体で一貫した納期管理を目指さない意味がない。それどころか、下請けメーカー、物流会社、販売会社などの関連するところ全体で一貫した納期管理を行う必要がある。これは一朝一夕では難しい。
まずは、製品製造にかかわる関連部門を巻き込んで情報化を図ることが第一歩となる。正しい情報の伝達なしに、納期管理は実践できないし、納期遅延などの対応にも苦慮することになる。正しい情報が即座に伝達できる情報ネットワークシステムの構築こそ、これからの納期管理には必要といえるだろう。