エコアクション21
先日公開したのコラム『品質の第三者認証:ISO9001』では、ビジネスをするうえで、日本人が品質にうるさいことと、まだブランドを確立できていないスモールビジネスにおいては、第三者機関から国際規格ISO9001の品質マネジメントシステム認証を取得するのが現実的であることを書いた。
この「品質」と同じくらいうるさく言われるのが「環境」であることは間違いない。こちらがスモールビジネスであっても、少し大手の取引先は「環境への取組み」を尋ねてくる。もちろん、国際規格には、環境マネジメントシステムであるISO14001があるが、この第三者認証の取得は、スモールビジネスにとっては相当ハードルが高い。
そこで今回は、環境経営の全体感をつかむとともに、「エコアクション21」について触れておきたい。
エコアクション21とは、環境省によって策定されたる日本独自の環境マネジメントシステムだ。中小企業等であっても比較的簡単に環境経営に取り組むことができ、企業価値向上をはかるツールとして活用できる。第三者認証を受けることで環境経営の登録事業者になれるのだ。
このコラム公開時点で、7500近いエコアクション21の登録事業者があるらしい。認証・登録事業者の検索システムも公開されている。
環境経営
企業活動が環境に及ぼす影響は、その事業内容によってさまざまだ。そして、環境問題への取り組みとして目指すべき方向性や実現方法についても、個々の企業によって異なる。そのため、企業個別に環境経営について表現している。いくつかの具体的事例を見てみよう
■清水建設(環境経営ページ)
- 持続可能な社会の構築に貢献する企業を目指して:当社は、「地球社会への貢献」を具体化するため、1991年に「清水地球環境憲章」を定め、環境への取り組みに対する姿勢を明記するとともに、環境経営を推進しています。
- 環境経営の方向性:自らの事業活動で直接「社会・地球環境」へ貢献するとともに、環境に調和した「製品・サービス」を提供することで、お客様の企業価値向上に寄与し、「社会・地球環境」へ貢献することを目指します。
■サントリー(環境経営ページ)
- 環境ビジョン:「水と生きる」私たちにとって、地球環境は大切な経営基盤。だからこそ、グループ全体で環境経営を推進していきます。持続可能な社会を次の世代に引き継ぐために、積極的に活動しています。
- サントリーグループ環境基本方針:サントリーグループでは、「水のサステナビリティ」「生物多様性保全」「資源の徹底的有効活用」「低炭素企業への挑戦」など、サントリーグループの重点課題が明確に見える方針を定めています。よりグローバルでの環境活動を視野に入れ、2015年に5年ぶりの改定を行いました。
多くの会社が環境経営について詳細説明を公開している。一般的なとらえ方としては、環境経営とは環境問題を企業経営の主要テーマとし、環境保護に積極的に対応する企業経営を総称する概念であるといえるだろう。
環境経営の背景と方向性
背景【1】環境意識の高まり
文明社会の成立過程において、多くの自然が破壊され犠牲となった。そして、それは熱帯雨林地帯の破壊や砂漠地帯の増加、野生動物の減少、地球温暖化など、さまざまな点で地球環境を大きく変化させる結果へと結びついている。環境破壊は、その影響が国内にとどまらず、全世界的な規模の問題となっている。環境破壊は、複数の国や産業が複雑に相関するものだ。
しかし、この問題を解決しなくては、今後、自然と文明が共存しあう社会を作り上げることはできない。環境問題を解決しない限り、文明社会はいずれ行き詰まってしまうだろう。環境経営の根幹となるのは、こうした環境に対する危機意識といえるだろう。
環境に対する危機感の高まりは、消費者の意識にも変化をもたらしている。従来、商品やサービスの購買行動において、消費者が最も重要な意思決定の材料としていたのは、品質と価格だった。しかし、現在ではそれに加えて、その商品やサービスが環境に配慮して作られたものかを考慮したうえで、購入の意思決定をする消費者が増えている。
こうした消費者意識の変化にともない、商品開発において「環境」はひとつのキーワードになった。感度の高い消費者にとって、環境保護をうたった商品は高い付加価値をもった魅力的な商品としてとらえられている。
個人の消費者レベルだけではなく、官公庁や企業の調達行動においても、環境への配慮が進んでいる。2001年4月に施行された「グリーン購入法」は、環境に配慮した商品の調達を推進して需要の転換が促進されることを狙いに、官公庁が文具や公用車などを調達する際に、環境配慮型商品を優先的に購入するといった内容になっている。
背景【2】企業責任と価値向上
これまで、企業は自由競争のもとで利益の追求を行うべく、経営の拡大を図ってきた。多くの人が企業から給与所得を得て生活している以上、利潤追求は企業の存在意義そのものである。しかし、事業が大きくなれば、企業活動が環境に与える影響もそれだけ大きくなる。
本来、電気、ガス、上下水道などのインフラから各種工業製品に至るまで、企業活動によって得られる恩恵はすべての組織や人が、それぞれの立場に応じて受けるもの。そのため、環境問題とは政府、企業から各個人に至るまでのあらゆる組織・人が、自らのこととして考えなくてはいけない問題であるというのが本来のあり方だ。そして、実際に多くの人たちが環境問題に目を向けた結果、環境意識の高まりとして実を結んだといえる。
しかし、細部に目を転じて環境問題を考えた場合、工場の操業による土壌・水質汚染や森林伐採など、企業による事業活動が環境問題の直接的な原因となっているケースが非常に多いのも現実。もちろん、直接環境に影響を与えることを即座に「企業=環境破壊者」であるとし、企業に環境問題の責任を押し付けてしまうのは短絡的過ぎる。環境問題に関する責任の一端は、環境破壊につながる商品を購入する消費者にもある。
とはいえ、企業活動が環境に与える影響は、多くの人からみてその因果関係が分かりやすく、批判のほこ先を向けられやすい立場にあることは事実。それだけに、消費者が環境問題という観点から企業に向ける視線は厳しくなりがちだ。環境問題に対して「目立つ」立場にある企業自身が環境に対して責任を果たすことが求められる。
企業の環境活動に対する視線が厳しくなっているということは、企業の評価に対して「環境問題への取り組み」が与える影響が強まっていることを意味する。環境保護に取り組み、その内容を「環境報告書」などの形で外部に積極的に開示することで、株式市場や消費市場で企業が高い評価を受け、企業の価値が向上するのは今では常識ともいえる。
企業経営において何らかの形で環境への配慮を行うことは必須条件と考えたほうがいい。そして、環境への配慮が求められる理由は、資源保護や環境との共生という全地球的な命題ばかりでなく、「企業経営におけるプラスイメージの構築による企業の価値向上」という、間接的な利益に直結する側面も大きい。
それは、単純に企業イメージを左右するだけでなく、取引先の選別など経営の実質的部分にも直接的な影響を与えるようになった。前述の「グリーン購入法」による政府および関係機関における物資調達時の環境配慮などは、官公庁と取引を持つ企業にとって環境経営が大きな影響を与えることの具体的な一例だ。
環境経営の方向性
一般的な考え方としては、環境経営はコスト負担をまねき、結果として利益を圧迫するものであるとされている。つまり、環境保護にかかるコストは、企業の目標である収益活動と相反関係にあり、企業には利益を削って環境保護を行わねばならないというジレンマが生ずるわけだ。しかし、前述した通り、環境経営には企業イメージの向上という大きなメリットがあります。企業イメージの向上によって、消費者が積極的に商品やサービスを購入する機会が増えれば、環境経営は直接的な利益へと結びつく。
環境経営とは、「環境保護は企業にとってコストがかさむマイナス要因である」という従来の思考方法を転換し、環境保護を行い、それを積極的に開示することで企業価値を高め、環境保護と利益追求を相反させることなく同時に実現していこうというもの。つまり、環境対策そのものを積極的に利益につなげ、地球と企業を循環的・持続的に発展させていこうというのが、環境経営の考え方だ。
環境経営の推進手法
環境経営を実際に推進するための手法は、基本的には以下の4つの要素で構成されている。
- 環境マネジメントシステム
- 環境会計
- 環境パフォーマンスの把握
- 環境報告書
環境マネジメントシステム
環境経営の実践に際しては、環境に関する方針や目標などを設定して取り組む必要がある。そこで必要なのが「環境マネジメントシステム(EMS)」だ。EMSは、企業が対応しなくてはならない環境問題に効率的・効果的に対応するための仕組みを定めたもの。
EMSの国際規格が「ISO14001」だ。ISO14001では、企業が環境保全に関して計画を立て(Plan)、実行し(Do)、その結果を点検・評価し(Check)、その結果をふまえて見直しを行う(Action)というサイクル(PDCAサイクル)を基本としている。PDCAサイクルを繰り返すことでシステム自体の改善を図り、継続的に環境マネジメントのレベルを向上させる。
ISO14001の規格の表現内容は業種業態を問わない一般的な記述となっており、具体的な管理方法は個々の企業の業務内容に委ねられる。そのため、それぞれの企業の実状にあったシステムを構築することが重要となる。
なお、環境経営を実践するに当たっては、必ずしもISO14001の認証を取得する必要はない。ISO14001はあくまでも規格に過ぎず、認証の取得そのものは環境経営の本質ではないからだ。ISO14001の認証取得件数はこのコラム執筆時点で2万程度。ISOを導入してみて効果が無いと判断したところは認証を返上しており、認証件数そのものは減少傾向にある。
環境会計
環境会計とは、環境経営を効果的に推進していくことを目的として、企業活動における環境保護のコストと、それによって得られた効果を可能な限り定量的に測定しようというもの。環境会計の機能は以下のように内部機能と外部機能に分けられ、環境省が具体的に定義している。
- 内部機能:企業の内部管理情報のシステムとして、年々負担の増加する環境保全コストの管理や、環境対策の費用対効果分析を可能にし、適切な経営判断を通じて効率的かつ効果的な環境投資、さらには健全な事業経営を促す機能
- 外部機能:企業の環境保全への取組状況を定量的に公表するシステムとして、利害関係者の意思決定などに影響を与える機能
環境会計は社内的な環境対策コストと、それによって得られる利益を把握し、より効率的な環境経営を実現する機能を果たすと同時に、それを外部に積極的に開示して説明責任を果たすことによって、企業の社会的な信頼を高めるという機能を同時に果たしてこそ、本来の効果を発揮するものであるといえる。
なお、環境省では環境会計の導入を普及推進することを目的に「環境会計ガイドライン」を発表している。
環境パフォーマンスの把握
環境経営を進めていく際には、企業自身が発生させている環境への負荷や、それに対する対策の成果を的確に把握し、取り組みを評価していくことが重要となる。これが「環境パフォーマンスの把握」だ。
環境パフォーマンスを正確に把握することで、「環境投資の領域や額が、事業の環境負荷から考えて妥当か」「環境投資によりどの程度環境負荷を低減できたのか」などの環境経営における重要事項を判断することが可能になる。環境パフォーマンスの把握は、環境会計による数値的な効果の把握のほか、イメージ向上効果といった無形の価値に対しても行われる。
環境経営を推進している多くの企業が、既に独自に環境パフォーマンス指標を設定している。しかし、指標として用いられる項目や基準が企業ごとに異なっており、算定方法が混乱した状態に陥りやすい。そのため、複数の企業や関係者が互いの環境パフォーマンスを比較し、検証・評価することは困難だった。そこで、環境省では「事業者の環境パフォーマンス指標に関する検討会」を設置し、環境パフォーマンスの把握に際して指標となるガイドラインを策定した。
環境報告書
環境報告書とは、環境経営に関する基本方針・計画や環境マネジメントに関する状況、環境負荷の低減に向けた取組の状況(CO2排出量の削減、廃棄物の排出抑制など)などについて取りまとめ、一般に開示するもの。環境報告書は環境経営の結果発表だ。環境報告書を作成・開示することにより、消費者や市場に対する環境活動のアピールが可能になり、企業としての信頼を得ることができる。
環境報告書についても、環境省がガイドラインを作成している。2018年に公開された新しいガイドラインは、コンパクトで見やすいことに重点が置かれている。さらに、このガイドラインの理解を助け、ガイドラインに沿った環境報告が行いやすくなるよう、「環境報告のための解説書~環境報告ガイドライン2018年版対応~」を作成したらしい。以下にリンクを貼っておく。
エコアクション21
最後に、コラム冒頭のエコアクション21に触れることにする。
環境経営は今後のビジネスにとって避けられない経営手法となるだろう。しかし、それをISO14001認証だと考えてしまうと、その費用、人員、時間が割かれることになり、スモールビジネスが取得することは容易ではない。また、環境経営を行うといっても、その方向性や実現の手法に戸惑ってしまうケースは少なくないと思われる。そこで、環境省が策定し、中小事業者に対して普及を進めたのが「環境活動評価プログラム(エコアクション21)」だ。
エコアクション21は、中小事業者の環境への取り組みを促進することを目的としていることから、ISO14001をベースとしながらもその内容は簡易的なものとし、ISO14001の取得などに比べて少ない費用、少ない時間、少ない人員で環境経営に取り組むためのノウハウを提供している。
例えば、エコアクション21では、必要な環境への取り組みを規定している。必ず把握すべき環境負荷の項目として、二酸化炭素排出量、廃棄物排出量及び水使用量を規定しているのだ。さらに、必ず取り組む行動として、省エネルギー、廃棄物の削減・リサイクル、節水、自らが生産・販売・提供する製品の環境性能の向上及びサービスの改善などを規定している。
最後に、スモールビジネスにとってエコアクション21を利用するメリットを以下に列挙しておく。
- きっかけ作り:ガイドラインを参考書として環境経営「はじめの一歩」を実現できる
- ビジネスチャンス:取引条件や入札条件で加点の可能性が高い
- 資金調達:金融機関が設定した低利融資の可能性がある
- ブランディング:ロゴマークや環境経営レポートでブランド確立
- 認証コスト削減:ISO取得に比較するとはるかに安価
一般財団法人 持続性推進機構が、エコアクション21の専用ページを設置している。興味をもったらまずこれを一読するといいだろう。