人生のバイブル
自己啓発という分類テーマでこの本を取り上げないわけにはいかない。スティーブン・R・コヴィー著『7つの習慣』だ。副題として『成功には原則があった!』と書かれている。原題は「The Seven Habits of Highly Effective People」。新訳版として『完訳 7つの習慣 人格主義の回復』が出版されているが、今回は最初の日本語訳について書くことにする。
本書は1990年に初版が出版されて以来、全世界で3000万部を超える売上を記録し、今もなおベストセラーを続ける名著の中の名著である。日本でも累計200万部を超えているらしいので、とっくに読了しているかもしれない。
著者のスティーブン・コヴィー博士は、国際的に高い評価を受けるリーダーシップ研究の第一人者であり、世界で最も大きな影響力を持つビジネスの思想家(英国「エコノミスト」誌)でもあった。コヴィー博士は、ハーバード大学でMBA取得、ブリガムヤング大学にて博士号取得し、『7つの習慣』出版当時は、フランクリン・コヴィー社(本社アメリカ)の共同創設者兼副会長として、世界各国の政府や大手企業のリーダシップコンサルタントとして活躍していたが、2012年に79歳で永眠している。
本書は、現在のアメリカの経営者や管理職にもっとも読まれている本のひとつであり、20世紀から今世紀にかけてもっとも影響を与えたビジネス書のひとつであることに異論を唱えるものはいないであろう。本書を初めて読んだときの衝撃を語る人は数知れず、人生のバイブルとして本書を繰り返し読む人も多い。
成功のための原則
本書は、冒頭から読者をひきつけて最後まで離さない。
自分では、昼夜を問わず仕事に打ち込み、会社や社会から一定の評価を得る立場にいると思っている。その一方で、自身は、会社、家庭、個人、人生の全てにおいて真の成功を得ていると言えるのだろうか?
「やらなくてはいけないことが山ほどたまっている。いつも時間が足りない。毎日毎日、朝から晩まで追われっぱなしだ。時間管理のセミナーに参加してみたし、いくつものシステム手帳を使ってもみた。しかし、それでもまだ自分が思うような充実したバランスの取れた生活は出来ていない。」
「私は実に忙しい。しかし、最近は自分のやっていることが長期的にみて本当に意味のあるのだろうか疑問に思うことが多い。自分の人生を意味のあるものにしたい。自分が何かの役に立っていると思えるようになりたい。」
「友達が成功したり認められたりすると、私は笑顔で祝福の言葉を口にはするが、内心は嫉妬やうらやましい気持ちでいっぱいだ。なぜそのように感じるのだろう。」
「私は、今年に入ってから5回もダイエットを繰り返している。自分は肥満だと分かっているから本当にやせたい。最新のダイエット法を勉強したり目標を設定したりして、前向きに始めてはみるが、どうしても長続きしない。数週間でもとの食生活に戻ってしまう。」
「私たちの結婚生活は味気ないものになってしまった。喧嘩をするというわけではない。ただ愛する気持ちがなくなっただけ。いろんな人に相談したし、頑張ってもみたが、昔のような気持ちはどうしても戻ってこない。」
コヴィー博士は、社会的な成功を収めた人の多くが人間関係などにおいてこのような問題を抱えていることに気がついた。誰でも経験があるのではないだろうか。
これらの問題は、憧れのビジネススクールで学ぶことで得られるスキルやテクニックなどで解決出来る問題ではない。
パラダイムと原則
コヴィー博士が、アメリカで出版された「成功」に関する文献を200年さかのぼって調べたところ、会社、家庭、個人、人生の全てにおいて真の成功を得るためには、原理原則を体得し人格に取り入れる以外ないことを発見した。
つまり、真の成功(優れた人格を持つこと)を得るためには、原則中心のパラダイムへと転換する必要がある。パラダイムとはものの見方であり、私たちの行動や態度の源である。人間関係のあり方までも決めてしまう私たち自身のパラダイムを客観的にみつめることなく、表面的な行動や態度を変えたところで、永続的な成功を得ることは出来ない。
原則は永続の価値を持ち、人間の行動に正しい方向性を与えてくれるガイドラインとなる。原則に反して、不正、卑劣、無駄、偽りの価値観に基づいて生活をするほど愚かなことはない。人が持つパラダイムが、原則や自然の法則に一致すればするほど、正確かつ機能的なものとなるのである。
本書が説明する「7つの習慣」は普遍的な原則に基づいている。原則を中心におき、人格に基づいた個人の成長、すなわちインサイド・アウトというアプローチが真の成功へのスタート地点となる。インサイド・アウトとは、自分自身の内面(インサイド)を変えることから始めるということであり、自分自身の根本的なパラダイム、人格、動機などを変えることである。自分自身にコミットし、コミットしたことを達成する。自分自身を改善せずに他の人との関係を改善しようとすることは全く意味のないことである。一方では、アウトサイド・インからは、永続的な成功は何ひとつしてもたらされないと切り捨てる。
習慣とは、「知識」と「スキル」と「やる気」という三要素からなる。この3つの習慣を自らが育成しなければ、習慣とはならない。7つの習慣は、「依存」(「あなた」というパラダイム)から「自立」(「わたし」というパラダイム)、そして「相互依存」(「わたしたち」というパラダイム)という成長の連続体のうえで成立している。
7つの習慣の第1、第2、第3の習慣は、自己克服、自制に関連した私的成功に関わる習慣であり、依存から自立へと成長するためのプロセスである。この人格の土台の上に、チームワーク、協力、コミュニケーションなどの公的成功に関わる第4、第5、第6の習慣が成立する。第7の習慣は、再新再生の習慣である。
私的成功
■第一の習慣:主体性を発揮する
「問題が自分の外にあると考えるのであれば、その考えこそが問題である。」人間には、自覚、想像力、良心、自由意志という独特の性質を持っているため、ある刺激に対する自分のレスポンスを選択する自由を持っている。人は、選択の自由を発見することで、人生を営む最も基礎的な習慣、すなわち、「主体性を発揮する習慣」を身に付けることが出来る。
主体性を持つということは、人間として自分の人生に対する責任を持つということである。私たちの行動は周りの状況ではなく、私たち自身の選択によって決まる。
一方で、自分の人生に対する責任を放棄すると反応的になる。反応的な人は、社会的な環境にも大きく影響される。主体性を高めるには、関心の輪の中に自分自身が実質的にコントロールできる事柄(=影響の輪)をおき、自らが積極的なエネルギーを生み出すことで、影響の輪を拡大する必要がある。小さな約束を作りそれを守る。批判者より模範者となる。問題を起こすより、問題を解決する。仕事において、家庭において、日々の行いから主体性を持った行動を実行してみよう。自分は責任のある人間だと悟ることが、残りのすべての習慣の基礎となる。
■第二の習慣:目的を持って始める
目的を持って始めるということは、目的地をはっきりさせてから歩き出すことである。目的地を定めることで、現在地を知り、正しい方向に向かって歩み続けているかどうかがわかる。例えば、人生の最後の姿を描き、それを念頭において今日という一日を始める。そうすれば、自分にとって何が本当に大切な事柄に基づいて、未来の行動を計画することが出来る。自分自身が本当に考えている成功とは、名声、地位、お金なのか。表面的な成功のために、それよりもはるかに大事なことを犠牲にしてしまったことはないだろうか。
目的を持って始める最も簡単で効果的な方法はミッション・ステートメントを書くことである。自分がどうなりたいのか、何をしたいのか、そして、自分の行動の基礎となる価値観や原則を明らかにする。個人のミッション・ステートメントは、個人の憲法である。正しい原則に基づいて定められたミッション・ステートメントは、人生の重要な決断を行なう基礎となる。人は変わらざる中心がなければ、変化に耐えることができない。社会や環境の変化のスピードについていけず、多くの人々が圧倒され、反応的になり、全てをあきらめ、挫折を経験する。自らのビジョンと価値観を想像力と良心を持って表現したミッション・ステートメントは、自らの人生すべてを計る基準になるのである。
■第三の習慣:重要事項を優先する
リーダーシップとは「重要事項とは何なのかを決める=第二の習慣」ことである一方で、効果的なマネジメントとは「重要事項を優先する=第三の習慣」ことである。第三の習慣の本質は「感情を目的意識に服従させる」ことであり、その前提に「効果的な時間管理」が存在する。
私たちの全ての活動は、緊急度と重要度というに二つの軸によって四つの領域に大別することができる。緊急度とは、「すぐに対応しなければならないように見えるもの」であり、重要度とは「ミッション、価値観、優先順位の高い目標の達成に結びついているもの」である。
第一領域は、緊急かつ重要な領域である。例えば、締め切りのある仕事、クレーム処理、病気や事故、危険や災害などがこの領域に当てはまる。一般的には「危機」と呼べる領域である。
私たちは誰しもこの領域に直面することもあるが、多くの人はこの領域におぼれてしまい、やがてはそれによって生活が圧倒されてしまうことになる。すると、その人たちは、緊急でもない重要でもない第四領域(例えば、暇つぶし、長電話、テレビなど)に逃げこむしかなくなる。
一方で、第一領域だと錯覚して、実は緊急であるが重要でない第三領域(例えば、多くの会議や電話、無意味な接待、突然の来訪など)に多くの時間を浪費する人もいる。この人たちは主体的ではなく、周りが決める優先度や期待によって振り回されることとなる。基本的に第三領域と第四領域で大半を生活する人は、無責任な人生を送ることになる。
緊急ではないが、重要な第二領域(例えば、人間関係づくり、健康維持、準備や計画、リーダーシップ、勉強や事項啓発、品質の改善など)に集中することは、効果的な自己管理の目的である。
第二領域の事柄を行うには、より高い主体性と率先力が必要になる。新しい機会を生かし、重要な目的を成し遂げるためには、自らが進んで行動を起こさなければならない。誰もが第二領域の大切さを理解しているはずだが、緊急ではないからという理由でいつまで経ってもなかなか手がつけられないでいる。また、第二の習慣で自分のミッションを明確にしていなければ、緊急を要するものばかりに反応してしまう。第二領域へ集中するためには、「緊急性」ではなく「重要性」のレンズを通して物事を見る力を身につける必要がある。「七つの習慣」はすべて第二領域に入っている。しかし、常日頃実施していれば、あなたの生活に大きな結果をもたらすものばかりである。まずは、第三の習慣を身に付けるため、週単位で時間を計画するところから始めてみよう。
公的成功
■第四の習慣:Win-Winを考える
Win-Winを考えるという第四の習慣は、人間関係におけるリーダーシップの原則にかかわる習慣である。Win-Winとは、自分も勝ち、相手も勝つという考え方であり、人間関係の全体的な哲学である。Win-Winとは、人生を競争ではなく、協力する舞台とみるパラダイムである。しかし、ほとんどの人は、人生を強いか弱いか、勝つか負けるか、食うか食われるかと考えがちである。
コヴィー博士は、このような考え方は、原則ではなく力関係や地位などに基づいた判断であるため、欠陥があると言う。Win-Winの考え方は、全員を満足させるに充分な結果があるはずだというパラダイムに基づいている。
つまり、ある人の成功は、他人の成功を犠牲にしなくても達成できる、という考え方が核となる。Win-Winは、全ての対人関係で成功する基礎であり、五つの柱によって支えられている。それは、「人格(誠実、成熟、豊かさマインド)」で始まり、「関係(信頼関係)」に進み、その中から「合意(実行協定)」がつくられる。それを支える「システム」において育成され、「プロセス」によって達成される。
■第五の習慣:理解してから理解される
コミュニケーション、すなわち、読むこと・書くこと・話すこと・聞くことは、人生における最も大切なスキルである。事実、私たちは、起きている時間の大半を何らかのコミュニケーションの活動に費やしている。しかし、学校において、「読むこと」、「書くこと」、「話すこと」を学ぶことはあっても、相手の見地に立ち相手を深く理解するために「聞くこと」を学ぶことはしない。
理解してから理解されるためには、大きなパラダイム転換が必要である。人は話を聞くとき、理解しようと聞いているのではなく、答えようとして聞いている。聞いている話を全て自分のパラダイムというフィルターを通して、自分自身の経験を相手の生活に映し出しているだけである。
そういう人は、人間関係において、問題が発生すると決まって「相手が理解していない」という言葉で表現する。大切なことは、「相手が理解していない」のではなく、先に「自分が相手を理解する」ことである。相手に影響を与えたければ、まずその人を理解する必要がある。
ほとんどの人が、話を聞くときは、「聞いていない」、「聞くふりをする」、「選択的に聞く」、「注意して聞く」の四つのいずれかのレベルである。しかし、この上のもっとも高いレベル、すなわち、感情移入して聞くことが理解して理解されるために必要となる。つまり、相手を心の底から理解するつもりで聞くことが、感情的にも知的にもその人のことを正確に理解することである。
感情移入の傾聴法は、4つのレベルで学ぶことが出来る。第一段階は、「話の中味を繰り返す」ことである。これによってまず相手の話を聞くようになる。第二段階は、「話の中味を自分の言葉に置き換える」ことである。つまり、相手の言っている意味を自分の言葉で表現することで、相手の話した内容について考えるようになる。第三段階は、「相手の感情を反映する」ことである。右脳を活用し、相手が何を言っているかと言うよりも、それについてどう相手が感じているかを表現する。第四段階は、「内容を自分の言葉で言い、同時に感情を反映する」ことである。
この段階まで至ると、今まで経験したことがないようなコミュニケーションが生まれる。理解しようとするには思いやりが必要であり、理解されることを求めるには勇気が必要である。理解してから理解される理ことでWin-Winが高い次元で実現されるのである。
■第六の習慣:相乗効果を発揮する
「相乗効果は人生において最も崇高な活動である」「相乗効果こそが、原則中心リーダーシップの本質である。」と著者は言う。
相乗効果とは、全体の合計が各個人の和よりも大きくなることである。一人一人という構成要素が単なる一部分ではなく触媒的な役割を果たし、互いに力を付与し、一体化させ、そして、今まで存在しなかった全く新しいものを生み出す。高い信頼と協力に基づいた相乗効果的なコミュニケーションを行なえば、1+1は8、16、あるいは1600にもなるのである。
相乗効果の本質は、相違点、すなわち、知的、情緒的、心理的な相違点を尊ぶことである。相違点を尊ぶ鍵は、全ての人は世界をあるがままに見ているのではなく、自分のパラダイムを通して見ているのだと言うことを理解することである。つまり、本当に効果的な人生を営む人というのは、自分の見方の限界を認め、他の人のパラダイムと考え方に接することによって得られる、豊かな資源を活用する謙虚さを持っている人である。相違点を尊ぶことで、自分の知識と現実に対する理解を増すこととなる。
「良かった!あなたは違う意見をもっている。」2人の人間が同じ意見を持っているとすれば、そのうちひとりは余分である。あなたに違う見方があるからこそ、私との相乗効果を発揮することが出来るのである。
再新再生
■第七の習慣:刃を研ぐ
第七の習慣は、刃を研ぐ時間をとる習慣である。つまりに自分の中にある自然から授かった4つの能力(肉体、知性、精神、社会・情緒)をバランスよく伸ばすことが、第七の習慣の目的となる。
肉体面で刃を研ぐことは、自分の身体を大切にすることである。バランスのとれた栄養のある食事をとり、十分な休養を心がけて、定期的に運動することである。
精神的に刃を研ぐことは、人生に自己リーダーシップを発揮することである。自分自身の価値観に対して決意し、自分を鼓舞し高める源を見出し、なおかつ、全人類が持つ普遍的な真理と深く結びつけることである。
知性面で刃を研ぐことは、知的能力を開発することである。優れた書物を読み、社会に対する理解を深め、自分のパラダイムを拡大する。また、自分の考え、経験、思いつき、学んだこともなどを書くことも知的側面を研ぐ方法のひとつである。
社会・情緒的側面は、第四、第五、第六の習慣と深く関わっている。第四、第五、第六の習慣を成功させるのは、知力より、主に情緒的な側面であり、自分の内的安定性と自尊心が鍵となる。どの側面で刃を研いでも「7つの習慣」を実行する能力が高まる。「7つの習慣」を身に付ける鍵は、肉体的、精神的、知的側面で、毎日一時間の再新再生を行うことである。これにより生まれる私的成功を土台に、社会・情緒的側面で刃を研ぐことで、第四、第五、第六の習慣を実行する基礎が、生活の中にできあがるのである。
重厚でパワフルな内容
本書は、自己啓発本に分類されているようだが、もっと重厚で、非常にパワーを感じる内容だ。自己啓発本の中には、人生論のような軽めの哲学と、著者の経験などに基づいたハウツーを紹介したものが多いが、そういったものとは明らかに異なっている。
そもそも、人生の全てにおいて真の成功を得るためには、原理原則を体得し人格に取り入れる以外ないことを発見したというところから始まっており、その原理原則をたった7つの習慣にまとめあげている。「自分の主体性を発揮しよう」なんて、シンプルの極みのような話だが、非常に重要であり、そして重い内容だ。
この本は読み返す人が多いという。本書にも書いてあるが、一度通読しただけで本棚に仕舞いこんでおくものではない。もし、自分自身が社会の変化に流されそうになったり、どちらに行くか迷ったとき、本書で原則を再確認することで、今後の行動に正しい方向性のヒントを与えてくれるかもしれない。
明日からでも実践できることを謳い文句にしたノウハウ集でもなければヒント集でもない。最初は流し読んだとしても、読後には、じっくりと腰を据えてここから学び取りたいと感じるはずである。
もちろん、本書にならって策定したミッション・ステートメントとともに、自身の成長に合わせて繰り返し読むことも出来る。忙しい現代人の生き方に革命をもたらしたベストセラーなので、人生のバイブルとしての使い方をお勧めする。
目次概要
スティーブン・R・コヴィー著/ジェームス・スキナー、川西茂訳『7つの習慣~成功には原則があった!』の目次概略は以下の通り。
第一部 パラダイムと原則について
- インサイド・アウト
- 人生の扉を開く7つの習慣
第二部 私的成功
- 自己責任の原則
- 自己リーダーシップの原則
- 自己管理の原則
第三部 公的成功
- 相互依存のパラダイム
- 人間関係におけるリーダーシップの原則
- 感情移入のコミュニケーションの原則
- 創造的な協力の原則
第四部 再新再生
- バランスのとれた自己再新再生の原則
- 再びインサイド・アウト