役員持ち株会の設立と運用

資産形成
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従業員持ち株会とは別物

以前に公開したコラム「従業員持ち株制度と持株会」では、タイトル通り従業員持ち株会についての基礎的な内容をまとめておいた。日本における従業員持ち株制度は、「安定株主の確保」「従業員の資産形成」など多大な貢献をしている状況だ。

日本証券業協会は、持ち株会に関する基本情報をまとめた「持株制度に関するガイドライン」を作成し、改正を加えながら公開している。最新のものは2022年6月改訂版だ。これによると、まず基軸として「従業員持ち株会」があり、それをグループ企業まで対象とした「拡大従業員持ち株会」という特則がある。さらに役員を対象とした「役員持ち株会」や、取引先企業による「取引先持ち株会」という特則がある。

今回は「役員持ち株制度」にふれるが、役員の場合は一般従業員とは異なり、法令上、自社株式への対処の仕方について、いくつかの制約がある。従って役員持ち株会の設立・運営に当たっては、これらの法令上の制約に抵触しないような配慮が必要となる。

一般的に役員持ち株会は、役員による実施会社の株式の取得を容易にすることを目的としている。従業員持ち株会同様に、役員の自社株式取得にあたり、会社が拠出金の天引きを行うわけだが、従業員持ち株会の最大のメリットともいえる「奨励金の支給」といったの経済的援助を与えることはできない。そして従業員持ち株会とは別に組織される。

制度導入の意義

役員持ち株制度導入の意義としては最初に以下の2点があるといわれる。

  • 無理なく、効率的に役員の所有株式を増やすことができる
  • 役員の財産形成に大いに役立つ

持ち株会の株式の買い付けは、株価水準にかかわりなく定期的に一定金額で行う、いわゆるドル・コスト平均法で実施されるため、長期で見れば結果として買い付けコストが低くなり、財産形成に大いに役立つ。上記2つはオカネに関する意義だが、役員という立場を鑑みると、以下のような効果も付随することになるだろう。

■役員と従業員の一体感を盛り上げる

役員は会社法や証券取引法の取り決めによって、従業員持ち株会に加入すると種々の問題がある。しかし、役員持ち株会を別途組織し、若干の運営上の配慮をすれば、従業員と同じようなシステムによって財産形成を行うことも可能だし、同じ株主としての共通の立場に立つことから、役員、従業員の別なく一体感を一段と盛り上げる結果が期待できる。

■会社経営に対するインセンティブ効果

役員の会社経営に対する責任感が生まれるとともに、株価の上昇がインセンティブに繋がる。役員報酬をインカム、株価をキャピタルとすることで、どちらも上昇(ゲイン)するために全力を尽くすことがインセンティブとして働くことになる。

運営上の留意点

■奨励金の支給は禁止

役員の場合には福利厚生という側面がないので奨励金は支給すべきではない。支給してしまうと、役員の「忠実義務違反」となる恐れがある。また、役員に奨励金として渡しているものがあるとすれば、それは法的には役員報酬となる。従って、株主総会または取締役会で定めた役員報酬の枠を超えて支給することはそもそもできない。

■拠出金の役員報酬からの控除

従業員持ち株会の場合、「給与からの控除」は企業が持ち株会会員に与える便宜のひとつ。しかし役員持ち株会の場合、従業員持ち株会と同様に「役員報酬からの控除」を適用することは、多少問題がある。

役員報酬からの控除が役員の忠実義務違反となるほどの便宜か否かは疑問だが、取締役の報酬について法令で定められた、「報酬のうち金銭でないものについてはその具体的な内容」との関係で問題が生じる可能性がある。

■株式の買い付け

当然のことながら「インサイダー取引規制」で禁止されている取引はすべて避ける。インサイダー取引規制の適用除外として「役員持ち株会、従業員組合、拡大従業員持ち株会を通じた株券の買い付けで、一定の計画に従い、個別の投資判断に基づかず、継続的に行われる場合(各人の1回当たりの拠出金額が100万円未満の場合に限る)」が挙げられている。つまり、役員持ち株会による買付であっても、この条件を満たしていれば、インサイダー取引とはならない。

■株式の途中引き出し

決算報告書上、役員の持ち株数を明確にする必要があることを考えると、決算期直前に各会員の持ち分のうち単位株の部分は引き出しをして、本人名義に書き換えておくべきだろう。

■持ち株会の規定

役員持ち株会の買い付けは、市場売買単位が通常。そのため、毎月買付であれば、拠出金額の合計は少なくとも市場売買単位株数以上買い付けできる規模とする。

制度のしくみ

■会員の範囲

当該会社および当該会社が50%以上出資している会社の取締役、監査役およびこれに準ずる人が対象。

■入会・退会

原則的には入会・退会は自由にできるが、特に理由がないのに任期中に入会・退会を繰り返すのは避けるべきだろう。原則として1度退会した会員の再入会は認めないのが通常。

■拠出

  1. 毎月の報酬時と賞与時に拠出するが、賞与時の拠出額は給与時の3~5倍が一般的
  2. 会員数が少なく、毎月単位株数の買い付けが困難と思われる時は、会員当たりの最低拠出額を決めるケースもある
  3. 会員ひとり当たりの拠出額(月額)の上限は特に設定しない
  4. 拠出額の変更、拠出の休止・再開も原則として自由にできるが、インサイダーとしての立場上、誤解を避けるためにも慎重にすべき

■株式の購入

会員からの拠出金を一括し、一定日に株式市場から時価で購入する。いわゆるドル・コスト平均法だ。なお、増資または転換社債発行期間中は株式の購入は行なわない。

■増資払い込み

増資新株式は割当日現在の持ち分株式に応じて割り当てられるが、有償増資の際の払込金は、各会員が毎月の拠出金とは別に拠出して払い込む。

■株式の管理

  1. 購入した株式は各会員の拠出金額に応じて配分計算され、持ち分株数として会員別持ち分明細表に登録
  2. 会員は登録された持ち分を理事長に信託するため、株式の名義は、その理事長の名義となる
  3. 株券は証券会社に保護預かりを依頼する

■途中引き出し

会員の持ち分株数が単位株以上になったときは、会員の希望により会員名義に書き換えのうえ、単位株数で株券を引き出すことができる。決算報告書の役員持ち株数に加算できるように、決算期直前にはできるだけ会員名義に名義書き換えのうえ、株券を引き出すようにする。

■配当金

配当金は、配当権利確定日現在の各会員の持ち分株数に応じて配分されるが、再投資のため持ち株会へ拠出する。

■退会時の持ち分返還

持ち分株数のうち、単位株数は株券で返還するが、単位未満株は売却し現金で交付する。

■持ち株会の機関

  1. 意思決定機関は会員総会(年1回)
  2. 執行機関は理事会で、その構成は理事長1名、理事若干名
  3. 監査機関として監事1~2名をおく

■管理事務

会員からの諸届け出受付、配分計算、会員への諸連絡などの事務は持ち株会が行うが、実際の計算は証券会社に依頼し代行してもらう。

■会員への報告

配分計算ごとに、会員別持ち分明細表を作成し、持ち株会に備えておくが、各会員あてには年2回、特定月に「会員へのお知らせ」を作成して残高を知らせる。

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