必ず出てくる基礎代謝のはなし
年に一度の健康診断が人間ドック半日コースに切り替わってから20年以上になる。健診後の個別指導で必ず出てくるといっていいのが「基礎代謝量」の話だ。一向に減量できていない体重のコントロールや、免疫力の低下を防ぐため、まず基礎代謝量について話をするというのは個別指導の定番らしい。
人は、体を動かしていないときでも、心拍や呼吸、体温調節などでエネルギーを消費している。このように、生命活動を維持するために消費される必要最低限のエネルギーのことを基礎代謝という。今回は、これまでさんざん聞いたり読んだりしたこの「基礎代謝」についてまとめてみたい。
スマートな体型の人に対して「代謝が良さそうだよね」という表現を使うことがあるが、この代謝という言葉はエネルギーや栄養素の「利用効率」とも置き換えられる。ほとんどの指導員から聞く話と、減量について書かれた書籍で共通なのが、人間がエネルギー消費をするための「代謝」には、以下の3種類があるということだ。
- 基礎代謝:生命維持のためのエネルギー
- 身体活動での代謝:運動などで消費するエネルギー
- 食事誘発性熱での代謝:食事をすることにより発生するエネルギー
厚生労働省の「e-ヘルスネット」には、身体活動とエネルギー代謝に関して、こんな記載がある。
身体活動によるエネルギー消費は、運動によるものと、家事などの日常生活活動が該当する非運動性身体活動によるものの、大きく2つにわけることができます。個人差がありますが標準的な身体活動レベルの人の総エネルギー消費量(24時間相当)のうち、身体活動によって消費するエネルギー量は約30%を占めます。
引用:厚生労働省:e-ヘルスネット > 身体活動・運動 > エネルギー代謝の仕組み >身体活動とエネルギー代謝
総エネルギー消費量(24時間相当)は、大きく基礎代謝量(約60%)・食事誘発性熱産生(約10%)・身体活動量(約30%)の3つで構成されています。
人間が消費する総エネルギー量の60%程度は基礎代謝だということ。減量に関する検診後の個別指導で、まずはこの部分に注目するのが「最も効率的で効果的」だといわれるのは、こういった背景があるからだろう。
基礎代謝量の低下原因
消費エネルギーというと、運動などの活動代謝をイメージしてしまう。ところが、上述の厚生労働省の「e-ヘルスネット」では、この部分は約30%に過ぎない。3つの代謝のうち、基礎代謝によるエネルギー消費の割合が60%を占めることが分かった。つまり、基礎代謝量が高いと、安静にしているときでも消費エネルギーが増えるので、脂肪の蓄積が少なく太りにくい体になるということだ。また、体温が高くなり血流が促進されるため、血流不全によるさまざまなコンディション不良の改善にも役立つという。
ただし、基礎代謝量は、加齢とともに減少する。おじさん、おばさんになると、若い頃に比べて太りやすくなったと感じるのは、基礎代謝量の低下が大きな原因のひとつだ。基礎代謝量が減少する原因には、加齢も含め以下の3つがあるという。
- 年齢と性別:ピークは10代前半であり、成長期まっただ中である小学校高学年くらいが最も基礎代謝量が高い。また、男性と比べて筋肉量が少ない女性は、男性よりも基礎代謝量が低い。
- 筋肉量:骨格筋で消費される基礎代謝の量は全体の2割。次に多いのが、肝臓、脳での消費。相対的に骨格筋が基礎代謝に影響しやすいと考えられている。
- 不規則な食事:食事を減らす無理なダイエットや、深夜の食事など不規則な食事は、体を冷やしたままにしてしまうことになるため、基礎代謝を下げてしまう事になる。
基礎代謝量は「自然に消費するカロリー」だ。上記の減少原因から考えると、日々の生活習慣で何とかなりそうなのは筋肉量と食事。今より筋肉量をアップすれば、同じ生活をしても消費量が上がると分かればと、試してみようと考えるだろう。
日本人の基礎代謝基準値
厚生労働省は5年に一度のペースで「日本人の食事摂取基準」を公表している。ここには、日本人の年代別基礎代謝基準値が示されていて、性別を問わず加齢とともに基礎代謝量が低くなっている。
性別 | 男性 | 女性 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
年齢 | 基礎代謝 基準値 (kcal/kg/日) | 参照体重 (kg) | 基礎代謝量 (kcal/日) | 基礎代謝 基準値 (kcal/kg/日) | 参照体重 (kg) | 基礎代謝量 (kcal/日) |
1-2歳 | 61.0 | 11.5 | 700 | 59.7 | 11.0 | 660 |
3-5歳 | 54.8 | 16.5 | 900 | 52.2 | 16.1 | 840 |
6-7歳 | 44.3 | 22.2 | 980 | 41.9 | 21.9 | 920 |
8-9歳 | 40.8 | 28.0 | 1140 | 38.3 | 27.4 | 1050 |
10-11歳 | 37.4 | 35.6 | 1330 | 34.8 | 36.3 | 1260 |
12-14歳 | 31.0 | 49.0 | 1520 | 29.6 | 47.5 | 1410 |
15-17歳 | 27.0 | 59.7 | 1610 | 25.3 | 51.9 | 1310 |
18-29歳 | 24.0 | 63.2 | 1520 | 22.1 | 50.0 | 1110 |
30-49歳 | 22.3 | 68.5 | 1530 | 21.7 | 53.1 | 1150 |
50-69歳 | 21.5 | 65.3 | 1400 | 20.7 | 53.0 | 1100 |
70歳以上 | 21.5 | 60.0 | 1290 | 20.7 | 49.5 | 1020 |
上記は基準値なので、これを使って自分の現時点での基礎代謝量を計算することができる。最近では基礎代謝量を計測してくれる体重計もあるし、インターネットを検索すると、性別・年齢・体重を用いて基礎代謝量を計算してくれるWebサイトもあるので、まずは数値として把握することが重要だ。
基礎代謝アップに効く習慣
基礎代謝の低下原因のひとつが「筋肉量」であれば、筋トレの習慣が基礎代謝アップに効くことは分かっている。もちろん筋トレという「運動」をするわけだが、その運動によってカロリーガ消費されるのが目的ではない。あくまでも体質改善、食事制限などでおちてしまった筋肉の維持、強化が目的。
普段使わない筋肉を突然使えば当然その負担は大きくなるから、運動前にも必ず柔軟体操を行う。運動のコツだが、大きな筋群の運動でおこる代謝の変化は大きいので、最大の効果をあげるには、いくつかの大筋群を使う運動が望ましい。そしてそれらの筋群を持続的に、リズミカルに反復的に使う。
内容はどんな運動でもよく、シンプルな腹筋や腕立て、スクワットでいいらしい。筋肉隆々になることが目的ではないので軽い負荷でゆっくり実施する。お世話になったトレーナーによれば、週3回くらいのペースが適当だという。2日に1度にして、48時間おきに実施するということらしい。あとは体脂肪を直接燃焼させるウォーキングなどの有酸素系の運動でもすればより効果的ということだ。要するに「適度な運動」の習慣が最も合理的だということになる。
習慣としての運動が続かない場合、実は、基礎代謝量を上げる方法は他にもある。指導員などから、無理なく“代謝のよい体”をつくるための習慣として教えていただいた内容を紹介しておく。
■基礎代謝アップに有効な食材を摂る
普段から「体を内から温めるもの」「筋肉の材料となるもの」「代謝を促すもの」を意識して食材を選ぶ。体を温める成分が含まれる食材は、生姜や唐辛子、ネギ、ニラ、ニンニクなど。筋肉の材料になる食材は、たんぱく質を多く含む肉類、魚類、豆類、乳製品など。さらに、代謝を促すためには、ビタミンB群が豊富に含まれる豚肉などの食材を積極的に摂るといいらしい。
■冷たいものを避けよく噛んで食べる
冷たい飲み物やアイスクリームなどは、内臓の働きを鈍くして基礎代謝を下げてしまう懸念がある。同じ飲み物ならアイスよりホットなど、なるべく体が温まるものを選ぶよう心がける。また、よく噛むことで消化活動が活発になり、肝臓の基礎代謝量も大きくなるといわれている。
■起床後のストレッチ、コップ一杯の水分を習慣に
これは健康診断後に受講したヨガの先生の指導で言われたことだ。朝の軽い運動は基礎代謝によい影響をもたらすことが期待されている。ラジオ体操や簡単なヨガでもいいらしいが、難しければ、朝日を浴びて気持ちよく伸びをしたり、軽くストレッチを行ったりするだけでもよい。また、起きたらコップ一杯の水や白湯を飲んで水分補給することを習慣にする。特に白湯は、胃腸が温められて活性化し、基礎代謝アップが期待できる。
■普段の活動量を増やす工夫を
わざわざジムに通わなくても、日常生活で活動量を増やす方法はたくさんある。短時間でも体を動かす習慣を身につけるのは効くらしい。エレベーターを使わず階段を歩くだけの昇降運動や、ちょっとした時間のスクワットなど、筋肉量が多い下半身を使った運動が特にいいという。
■入浴時は湯船に浸かる
体温が高くなると血流がよくなり、疲労物質や老廃物などの代謝サイクルがスムーズに行われることで、基礎代謝アップが期待できる。入浴方法には諸説あるが、基礎代謝をアップするためにはシャワーだけではなく、ぬるめのお湯に20分ほどゆっくり浸かるのが理想だという。適度に体を温めることで入眠もスムーズになり、基礎代謝アップに有効な生活習慣のベースづくりに役立つらしい。
基礎代謝向上のための生活習慣はそれほど難しいものではない。要は続けられるかどうかだ。