組織のモチベーション向上手法

組織の運用
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組織のモチベーション

モチベーション(motivation)とは、直訳すると「動機付け」、簡単にいうと「やる気」という意味だ。ビジネスの世界でモチベーションという言葉を用いる場合、組織内での「業務意欲」を意味することが多い。人間は機械と違って、仕事の結果や成果がその精神状態に大きく左右されがち。仕事は、努力や苦労などがともなう活動であるため、いかにやる気をもって前向きに取り組むかによって、その成果には大きな差が生まれる。

個人ではなく組織のモチベーション

社員のモチベーションを高めることは、企業にとって重要な経営課題のひとつと言われる。さらに近年は、終身雇用の崩壊による社員の企業への帰属意識の低下、社員の仕事に対する価値観の多様化などにより、社員のモチベーションを高い水準で維持することが困難になっている。この課題を解決すべく専門コンサルタントが存在しているし、数多くの書籍が出版され、セミナーも開催されている。

しかし、苦労して社員個人のモチベーションを高めても、思うように成果が上がらない場合も少なくない。例えば、上司が個々の部下と話していると非常に意欲があるように感じられるのに、部署内で仕事をするとその意欲が影を潜める、やる気満々だった新入社員がいつの間にかほかの社員のようにやる気がなくなっているといったことがある。

こうした問題が発生する原因のひとつとして、その組織の状況が考えられる。多くの企業にとって、仕事とは複数の社員が協力して行うものであり、企業の中には仕事の種類などによって区分された部署などの組織が存在する。こうした組織の環境や流れあるいは組織間の関係が悪い方向に向かっていると、個々の社員のモチベーションに気を配っても、なかなか成果が表れない。個人というより組織としてのモチベーションを考える必要があるのだ。

組織のモチベーションの重要ポイント

個々の社員のモチベーションは、当然個々の社員の気持ちのあり方により決まる。では、組織全体のモチベーションはどうだろうか。

企業組織は社員の集合体。従って、組織のモチベーションを考えるうえでも、個々の社員の気持ちは大変重要だ。しかし、個々の社員の気持ちがそのまま組織のモチベーションに反映されるわけではない。なぜなら、組織において個々の社員の気持ちは、「集団心理」の影響を受けるからだ。

集団心理とは、集団を構成する個人が知らず知らずのうちに周囲の状況に流されてしまうこと。例えば、当初は定刻に出勤することが当然と考えていた社員も、周囲に遅刻してくる社員が増えると、気持ちに緩みがでて遅刻するようになり、次第にそれが当たり前になったりする。逆に、周囲の熱い空気に流され、前向きに仕事するようになることもある。

このように、人間は周囲の影響を排除できず、企業のように多くの個人がともに仕事をする組織では、なおさら個人の気持ちは集団心理の影響を強く受ける。従って、組織のモチベーションを高めるには、集団心理を常に意識して考える必要がある。

さらに、組織の中には、集団心理の核となる社員、あるいはほかの社員のモチベーションに大きな影響力を持つ社員がいるはずだ。組織のモチベーションを高めるには、こうしたほかの社員への影響力が強い社員を把握することも重要となってくる。

組織のモチベーションの向上手法

組織のモチベーションを高める手法を考えよう。全部で5つある。いずれの手法も、実際に導入する際は、集団心理の動きや影響力の強い社員の気持ちに注意しつつ、その効果を確認する必要がある。

組織内の環境改善

組織のモチベーションを高めるには、組織内の雰囲気をよくするとともに、社員の仕事に対する意識を高めて組織を活性化させることが必要だ。そのためには、組織の長が、社員に対して以下のような施策をとることが重要と考えらている。

■日常のコミュニケーションの充実

組織の長は、朝と終わりのあいさつはもちろん、できれば毎日1 回あるいは2 日に1 回は、社員それぞれに何気なく声をかけるようにする。話題は特別につくる必要はないが、場の雰囲気が明るくなる話や、社員が答えやすい話のほうが望ましい。また、組織の長と社員の間のコミュニケーションだけではなく、当然社員同士のコミュニケーションを充実させることも重要だ。社員同士が仕事に関係のない会話で盛り上がっていても、騒がしすぎたり、長すぎたりしなければ、特に注意する必要はない。

ただ、特定の社員同士がいつも盛り上がっていて、ほかの社員があまりよく思っていないようだったら、話を少し抑える必要があるだろう。できれば組織の長は、その盛り上がっている話に入っていって、よく思っていない社員にも話を広げていくと、コミュニケーションの範囲を広げることができる。モチベーションの高い組織では、何でも話しやすい空気があるものだ。

■社員に考えるくせをつけさせる

組織の長は、会議などはもちろん、ちょっとした打ち合せでも、できるだけすべての社員に何らかの意見を出してもらうようにしよう。ほとんど意見を言わない社員には、組織の長が直接問いかけるとよいだろう。その際、意見しやすい雰囲気をつくるために、以下の手法を使ってみるのもよいだろう。

  • いきなり具体的な案を求めるのではなく、感想や賛成反対など答えやすい質問から誘導する
  • 社員が出した意見は聞き流すことなく、まず肯定的に受け止める

こうした雰囲気づくりを、焦らず繰り返し積み重ねることで、社員にとっては意見を求められることが当たり前になり、社員が自然と自分の意見を考えるようになる。

考えるくせを社員に身に付けさせることは重要だ。そうすれば、ただ何気なく仕事をこなすのではなく、社員が自ら考えて主体的に仕事に取り組むことができるようになる。そして、社員同士の間でもそれぞれの立場や考えを伝えあい、議論しながら仕事を進めていく環境が整えば、組織は少しずつ、活性化して組織のモチベーションが高まってくる。

■挑戦しやすい環境をつくる

組織の長は、モチベーションが高い社員には、希望する仕事にどんどん挑戦してもらうような環境をつくるとよいだろう。組織の長は、その仕事を任せたからといって放ったらかしにするのではなく、必要に応じて方向性を示す、相談に乗るなどのサポートをする。そして、挑戦させた仕事が成功すれば、一緒に喜び、失敗しても決して怒鳴ったりせず、ともに失敗した原因や対策を考える。

組織の長がこのようなスタイルの仕事をすることで、社員の間に仕事に対する挑戦意欲が生まれ、組織は活性化してモチベーションが高まる。

目標と行動指針の明確化

組織内の雰囲気がよくなり、活性化できたとして、その組織はどこへどのように向かえばよいのか。それを示すのが、組織の目標と目標を達成するために必要な行動指針だ。

この組織の目標と行動指針がはっきりしていないと、組織としての仕事の優先順位や進め方を判断する基準があいまいになる。これでは、せっかく活性化した組織も、何が正しいか分からなくなる、あるいは一度決定したことが何度も変更されるといった事態に陥り、組織の中に不満が生まれてしまう。また、せっかく組織の社員が頑張って成果を上げたつもりでも、その組織に与えられた目標とずれていたり、目標を下回っていれば、その組織は評価されず、組織の中に不満が生まれてしまうことになる。

従って、組織の長は、与えられた目標をもとに、それを達成するための組織の行動指針を定めて、すべての社員に落とし込まなければならない。目標や行動指針は、具体的かつ分かりやすくなければ社員に浸透しない。仮に行動指針や与えられた目標が分かりにくい場合は、組織の長が数値化を行うなどして分かりやすくする必要があるだろう。

こうすることで、組織を構成する社員が一つの方向を向き、乗り越えるべきハードルを明確に意識して仕事を進めるようになる。その結果、組織はますます活性化してモチベーションが高まるだろう。

役割と責任範囲の明確化

組織の目標や行動指針も決まって積極的に動き出した組織にも、まだ障害はある。それは必要以上に仕事がやってきてしまうことだ。どんな会社でも、前向きで積極的な組織には仕事が集まってくる。その集まった仕事が目標や行動指針に合致している、あるいは組織にまだ余力があり、社員たちが仕事を希望しているのなら問題ない。しかし、そのどちらでもないのなら、その状態が長く続くことで、社員の間に「どうして私たちだけが…」といった気持ちが生まれてしまう。

組織ごとに担うべき仕事の範囲、すなわち組織の役割と責任範囲をあらかじめ明確にしておく必要がある。そして、組織の長は、その範囲を超える仕事がほかの組織から集まってきて、組織に負荷がかかりすぎるようなら、上司やほかの組織と相談して、仕事の量を調整する。

とはいえ、どうしても前向きな組織には仕事が振られてしまう。役割と責任範囲内の仕事の量が増えすぎた場合、組織の長は、社員の状況をみながら人員を補充するなどして、組織のモチベーションを下げないようにリソースを調整する。

組織への必要な権限の付与

組織の役割や責任範囲が決まり、目標達成に向けて組織が動き出したら、次は一定の権限の委譲を行う。

いちいち決済を仰がなければならない事項が多く、かつそのスピードが遅いと、組織にとって大きなストレスとなる。また、プロジェクトチームのような組織の場合、どこまでの仕事を各組織に割り振ることができるのかといった権限が明確に定められていないと、トラブルの原因となり、組織に大きなストレスを招くことが多い。仕事を「割り振る」側にはあまり問題ないが、仕事を「割り振られる」側にしてみれば、それだけ仕事が増えてしまうことになり、それこそモチベーションが高い組織でないと、「割り振らる」仕事をできるだけ減らしたいと考えるはずだ。

この手の組織のストレスの緩和には権限移譲が有効だ。それぞれの組織に目標を達成するのに十分な権限を与えることが不可欠。そうしなければ、組織にストレスが生まれ、モチベーションを下げてしまうだろう。

組織間の良好な関係の構築

しかし、それぞれの組織に必要な権限を与えただけでは、組織間で仕事がうまく進むとは限らない。権限とは、あくまで大枠を定めたものであり、また権限の範囲内の行動であっても、一方の組織がもう一方の組織に無理をさせ続けると、無理をさせられた組織には不満がたまっていく。

例えば、よく聞くのが、営業と現場(製造あるいはサービス提供部門)の対立。営業が顧客からの急な依頼を受け、現場に短い納期で製造依頼をかけることはよくあり、現場にとっては当然負担が増える。いくらモチベーションが高い現場でも、こうした製造依頼が度重なったり、営業が「顧客からの依頼なのだから仕方ない」といった態度を取ると、現場には大きな不満が生まれ、両組織の関係は悪化し、現場の仕事に対するモチベーションは下がってしまう。

急な依頼など、一方の組織がもう一方の組織に負荷をかける場合は、無理をお願いするという姿勢を忘れずに、負荷をかけることになった経緯と理由をしっかりと説明して納得してもらわなければならない。さらに、組織間で普段から互いに労をねぎらう、コミュニケーションをとるなどして良好な関係を保っておくことが必要だろう。

関連する組織同士が小さな配慮を積み重ね、良好な関係を保っておくことで、それぞれの組織はモチベーションを下げることなく、仕事に取り組むことが可能となる。組織の長は、関連する組織の長とよい関係を築いておくとともに、折に触れ関連する組織の社員の労をねぎらったり、組織間で社員同士が交流する場を設けるとよいだろう。

5つの手法のまとめ

これまで述べてきた組織のモチベーションを高める5つの手法をまとめると、以下のようになる。

  1. 社員同士のコミュニケーション、意見交換を活発化させるとともに、組織内に挑戦する空気を生み出して、組織を活性化させる
  2. 社員に組織の目標と行動指針を明確に落とし込み、組織を一つの方向に向け、社員に乗り越えるべきハードルを意識させる
  3. 組織の役割と責任範囲を明確にし、組織に負荷をかけすぎない
  4. 組織の目標を達成するために十分な権限を与える
  5. 関係する組織間に良好な関係を築き、ほかの組織と仕事をする場合も社員がストレスなく仕事を進められる環境をつくる

経営者や組織の長が、こうした策を実行することで、組織のモチベーションは上がり、仕事に前向きに取り組む活気ある組織をつくり上げて、それを維持することが可能になる。もちろん、このような手法は一朝一夕で成功するものではない。例えば、目標や行動指針、役割や責任範囲、権限を適切に決めても、それを社員の心に浸透させるには、経営者や組織の長の熱意と根気が不可欠だ。

既にモチベーションが下がっている組織を改革する際は、前述した「集団心理」が大きな壁となるに違いない。組織の雰囲気を多少改善させても、モチベーションが下がった状態が集団心理となっている場合、改善はすぐにまた押し戻されてしまうのが普通だ。こういう場合、ほかの社員へ影響力が強い社員を正確に把握し、その社員を中心に改革を図っていくことが重要となる。

組織のモチベーションを高めるためのハードルは、決して低くはない。しかし、組織としてモチベーションが高まるということは、個々の社員がお互いにモチベーションを高めあうことにつながるため、それが仕事の生産性に与える影響は、一社員のモチベーションの高まりとは比べ物にならないくらい大きなものになる。組織のモチベーションを高めることは、経営者や組織の長にとって最も重要な課題のひとつといえるだろう。

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