周年記念事業の意義
母校である国立大学法人からは、10年に一度のペースで周年記念事業への寄付の依頼が来る。周年記念とは、その組織の設立後、または会社創業後、「何年継続できてきたか」をお祝いする日だ。創立や設立した日を起点として、10年、30年、50年、100年といった経過年数を計算する。周りを見渡すと、100周年記念会館とか50周年記念式典など、経過年数の節目には何らかの事業が数多く行われている。
今回は、学校ではなく、企業の周年記念事業についてまとめてみたい。
経営戦略としての周年記念事業
よくあるのは、周年記念を取引先やお客様向けの宣伝としての活用する事例だ。プロモーションの一環で、周年記念Webサイトを立ち上げたり、ノベルティをプレゼントするなどして、認知度の向上にもつなげようという目論見であることが分かる。
企業が周年記念事業として行う事業(イベント)で最も大切なことは、「何をするのかではなく、何のためにするか」という点。つまり、企業PRや販促イベントといった一時的な経営戦術としてではなく、中長期の経営戦略の契機として企業の周年記念イベントを積極的に活用していくことが重要だといえる。
企業の周年記念事業は、「これまでの当社の歩みはこうだった」「将来的にはこのような会社を目指す」「そのためには今後このような活動をしていく」といった現状および将来の自社のあるべき姿を社員、取引先、お客様や地域住民の皆さんに知ってもらう絶好の機会。そのためには、周年を迎えるあたり、現在の姿をしっかりと認識すること、そのうえで将来のビジョンを明確にすることになるだろう。
周年記念事業を単なるお祭り行事としてではなく、経営戦略の一環としてとらえるといった姿勢があると、行事の中味や行事後の会社経営が良い方向に変わる可能性もある。このような前提のもとで企業の創立記念イベントがあると考えれば、単なる祝賀パーティーを開催して、これでおしまいでは絶好の機会をみすみす逃したことになりかねない。
今後の周年記念事業
この20年を振り返ると、企業が行っている周年記念行事のなかで「周年記念の式典、パーティー」のみといった企業は減少傾向にあるらしい。既に、多くの企業が創立記念を契機にして企業のロゴや経営理念の変更を実施したり、長期経営計画の策定を行ったり、社会貢献活動をはじめたりとさまざまな活動を行っている。
世の中からは「企業の社会貢献」が求められる傾向にあるため、周年記念事業のあとに社会貢献活動をはじめる企業が多くなっている。
周年記念事業ではない企業イベントにおいても、地域振興、チャリティー、福祉、教育、啓発、国際交流、レクリエーションといった社会貢献イベントが、ここ20年のトレンドになっており、これは今後も続くと考えられる。昭和から平成前半には膨大な費用のかかる周年記念イベントを見かけたが、今では少なくなった。
「周年記念事業を機に何か社会貢献活動をやらなければ」と考えるとしばらくは思考停止に陥りそうだが、実際はそんなに難しく考える必要はない。社会貢献活動に関しては、環境美化活動、福祉団体への寄金活動、図書館へ本を寄付、植樹などいろいろとあるが、できることからはじめればよい。
さらに、その社会貢献活動が本業に関連する、あるいは、地域に根ざしたものであればより取り組みやすいと考えられる。できれば、社会的に評価されるためにも継続できることを行うといいだろう。
前述したように、「何をするのかではなく、何のためにするか」が最も重要。まず、はっきりとした目的意識と、それにともなう企業理念がないと、「記念のノベルティを配ったけど、何かの効果があったのか不明」といった状態になりかねない。
周年記念事業は、企業が、「何を考え、何を目的に行動しているのかを自ら再認識する、そして、社会に知ってもらう絶好の機会」だということを再確認しよう。
一般的に実施される内容
企業の周年記念事業における個々のイベントや協賛事業ついて、一般的に実際されている主なものは以下の通り。
- 施設の建設:自社の業務に関連する施設(本社ビル、会館、研究所など)、福利厚生施設、記念館、文化ホール、記念病院の建設および建て替え、増設など
- 文化事業:学問・文化・芸術にかかわる展示会、講演会、各種財団・基金の設立、寄付、記念論文の募集など広く社会文化に貢献する事業
- 式典:創業記念として開催された式典、祝賀パーティー、レセプションなど
- コーポレートアイデンティティ:会社のロゴマークや社名の変更、経営理念の再構築など(Corporate Identity 略称: CI)
- 販売促進:自社または自社商品のPR・販売を目的としたキャンペーン、記念セール、プレミアムセール、各種フェア、記念商品の発売など
- 出版、動画などメディア制作:社史を中心とした書籍、動画、映画などの制作および配布・販売など
- コンサート・スポーツイベント:「冠イベント」といった各種コンサートやスポーツイベントなどの主催、協賛など
- 福利厚生:社員(家族)の生活、保健、教養の向上や娯楽の提供を目的としたスポーツ大会やバザーなどの事業と職場環境の改善など
- その他:上記の形態に含まれない事業
実際の周年記念行事は、上記に掲げた事業を複合し行われている。特に、2. 文化事業、3. 式典、7. コンサート・スポーツイベントなどが企業に人気があるらしい。その具体的な内容は「セミナーやシンポジウム」「コンクールやコンテスト」「展示会」「教育事業」「交通安全動画の制作」「環境美化活動」「ボランティア活動」などだそうだ。
なお、こうした周年記念事業を行う際には事前に以下の4点を確認する必要があるだろう。
- 事業の内容が企業イメージと一致しているか
- 事業の意義が社内的に充分理解されているか
- 事業の内容が社会的に価値のあるものか
- 事業の内容が取引先やお客様など関係者にとって意味のあるものか
周年記念事業の企画・運営
周年記念事業を実施することになった場合の準備と実行についてポイントをまとめる。
周年記念事業の準備
周年記念事業で、社会貢献的なイベントを行うにしろ、記念式典のみ行うにしろ事前の準備計画は綿密に立てておくことが重要。大規模なプロジェクトであれば数年前から、記念式典のみの場合であっても最低でも1年前から準備しておくのが一般的だといわれる。
周年記念事業の企画と運営
大企業では実施の数年前からプロジェクトチームを発足させ、記念の年にはさまざまなイベントを行っている。
大企業の場合、創業記念事業は自社のみですべて行っているわけではなく、大イベントであれば大手広告会社に外注している。記念式典のみ、展示会のみといった単体イベントであっても、中小イベント企画会社に外注している。このようにイベントを成功させるにはノウハウや実績のある企画会社に外注せざるをえないのが実情だ。
例えば「記念式典しか行わないから、自社のみで行えば経費もあまりかからないだろう」と考えても、人手が足らない、手順通りに事が進まないなどの支障がでてくる。
記念式典ひとつとっても、構成内容、タイムスケジュール、装飾、運営マニュアル、運営台本、案内状の作成、資料リーフレット、会場手配、音響・照明、記念品、記録(写真・ビデオ)など多くの手間がかかる。従って、周年記念事業の予算総枠が決定した時点で、あるいは企画立案の前後に企画会社などに相談したほうが賢明だ。
なお、企画会社については、広告・出版が得意といったところや、展示会なら多くの実績があるなどさまざまなので、周年記念事業の企画内容に沿った企画会社を選定することが重要。インターネットの検索エンジンで「周年記念」を検索すると、多くの広告サイトが出てくる。まずはこれらを眺めるだけでも、周年記念の企画・運営に関連する情報が多面的に得られる。
記念式典スケジュールと体制例
スケジュールのサンプル
周年記念事業として「記念式典とパーティー」を実施する場合のスケジュールサンプルを以下に記しておく。なお、スケジュールの流れは広告代理店や企画会社に外注した場合でも基本的には同じはずだ。
実行委員の体制サンプル
周年記念式典を準備・実行する体制(実行委員会)の例を以下に示す。
記念式典実施の際の留意点
■運営委員会の設置
- 対外的に行う行事の場合、委員会のメンバーは総務や社長室などより選定する
- 委員会の主な仕事は「全体プランを作成する」「日時・場所を選定する」「招待者の範囲と基準を決める」「予算案をつくる」「実行委員を選任する(実行委員は全社的に選出)」
■日時・会場の選定
- 会場の選定は早めに余裕をもって行なう
- 土曜日、日曜日、祭日は避けウィークデーで計画する
- おめでたい行事のため、仏滅を避けるなどの配慮をする
- 祝賀パーティーの時間は、通常夜(18時~20時)に行う
- 会場を選ぶ条件はその会場の立地条件とその会場が会社にふさわしいかどうかで判断
- よい会場とは、施設、料理、サービスの3条件がそろっていること
■招待者の名簿の作成と招待状の発送
- 招待者のリストアップには重複のないように心がけ、官公庁、取引関係、組合などに分けて、50音順に並べる
- 招待状の作成には、服装、祝儀、返信用ハガキの返送先のことなどを明記
- 招待状の宛名書きは毛筆、楷書でフルネームを書く
- 招待状は先方に3週間前までに必ず到着するようにする
■パーティーの企画
- 式典とパーティーを別々に行う場合、式典は劇場式に会場を作る
- パーティー会場は招待者が左から右に流れるようにレイアウト
- 記念品はできるだけコンパクトなものがよく、発注は最低20日前までに行う
- 胸花は来賓には赤かローズピンクの大きな花で紅白のビラのついたもの、招待者は赤かローズピンクの花、主催者には白の花、実行委員はネームプレートを付ける
- コンパニオンを使う場合は着用する衣服に注意する
■会場側との折衝
- 運営委員会が会場側と具体的に接触するのは行事の3カ月ぐらい前とする
- 招待状の印刷から発送などの事務手続きも、会場によっては引き受けてもらえる
- 招待状の準備が済んだ時点で、式典およびパーティーのプランを作成し、その時点で会場側と一緒に見積もりの原案を作成する
- 返信用ハガキが到着し、出席者人数が確定した段階で正式な予算を作成する