賃貸オフィス物件の選択

組織の運用
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事業拠点の選択

スモールビジネスを始めるときや、ある程度の大きさになったときに必ず直面するのが、どこを事業拠点にするかというオフィスの問題だ。もちろん、個人相手の事業で、インターネット上でのビジネスであれば、自宅を拠点にするという選択肢もある。実際の事業拠点はサイバー空間上なので、物理的な拠点は問わない。

自宅を事業拠点にする最大のメリットは家賃のキャッシュアウトがないことだ。一般的にビジネスで最も大きな比率を占めるのは人件費と拠点費。この拠点費を最小化できるメリットは大きい。

しかし、事業の内容によっては、多少の拠点費を支払ってでも、それなりのオフィスを構える必要が出てくる。東京都での分かりやすい例では、アパレル会社を始めるとき、「渋谷区神宮前」の拠点住所を持っていると「原宿ブランド」として認知されやすい。法人相手の法律事務所は「丸の内」や「大手町」、またはその近辺に拠点を構えるが、これもその拠点が持つブランドを意識しているはずだ。

1990年代初頭まで日本では、オフィスの需要は供給を上回り続けてきた。当時、賃貸料が上がることはあっても下がることはないと言われた。しかし、現在では事態は一変している。1992年頃までの全国平均空室率は1.3~1.8%程度だったのに対し、最も空室が少ないと言われる東京都心5区(千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区)の2021年12月度の平均空室率は、オフィスビル仲介大手の三鬼商事のデータによれば6.33%となっているらしい。背景には新型コロナ感染症のパンデミックに伴うリモートワークの急拡大がある。これに伴い、オフィスの名目賃料(月額坪当り円)も下落している。

小規模事業者にとっては、これまで高嶺の花だった「ブランドオフィス」を借りるチャンスが到来したかもしれない。ここでは、オフィス物件選択に関するポイントをまとめておく。

賃借オフィス物件選択の留意点

賃貸オフィス物件を比較するとき、家賃はもちろん重要だが、「立地条件」「物件の状態」「管理状況」の3つを比較することを心掛けたい。

立地条件

オフィスをかまえる場所は、特に法人相手のビジネスの場合、会社の信用や体面にも関わってくる。そのため駅に近いなどの交通の便がよい物件は大変魅力的だ。しかし駅から近い物件は、通常賃料が高くなる。業務を行っていくに当たり、「どの程度来客があるのか」「どの程度アクセスのよい場所にオフィスを構える必要があるのか」「賃料に見合った効果が期待できるのか」などを十分に検討することが大切だ。これらの点について検討したうえで、実際に現地に行き、物件を見て判断することになる。

また、ビジネス上、自動車や物品輸送がある場合は接面道路の条件を見ておこう。例えば、唯一の接面道路が一方通行であるようなケースでは物品の受け渡しが不便になってしまう。さらに、物品輸送が頻繁に行われるような場合や自動車での来客が多く見込まれるような場合には、接面道路の条件のほかに、物件が駐車場を保有しているかどうかも重要な条件となる。その駐車場があまりにも遠い場所にあると、利便性に欠けてしまう危険性があるので、こういった点も総合的に比較が必要だ。

物件の状態

とにかく外観は重要。例えば、重厚な風格を備えている建物に入っていれば会社に対する評価もプラスに作用するだろう。新築である必要はないが、外観があまりにも汚れているような物件は避けるべきだ。内部の快適さはもっと重要。自分自身も含め、毎日その場所で働くことになるため、少しでも快適な環境が望ましい。内部の快適さで比較したい点には、主に以下のようなものが挙げられる。

■天井
人間は低い天井には圧迫感を感じるため、天井が高い物件のほうが快適。

■窓
天井と同様の理由から、圧迫感を感じないよう窓はあまり小さくないほうが望ましい。ただし、大きければよいというものでもなく、特に高層ビルの上階に位置している場合やビルの下階に位置しており道路に面しているような場合などは、逆に窓が広すぎて落ち着かないといったケースもある。さらに、窓が大きくても隣のビルの外壁しか見えないのでは問題でしょう。

■遮音性と耐震性
遮音性が悪く、特に隣室での会話がすべて筒抜けとなってしまうような物件は避けたほうがよい。また、日本は地震が多く発生するため、物件の耐震性も比較対象としたい。時々問題になる「欠陥ビル」は、外観がしっかりしていても、構造自体に問題があり、遮音性や耐震性が低いといわれている。物件を選ぶ際には入念にチェックすべき項目だ。

■床下
床下に配線用のスペースが確保されているかチェックしよう。もちろん、無線LANで十分だと判断するなら、運用コスト見合いで、配線スペースを諦めても良い。逆に、今後のオフィスのIT環境を多面的に充実させるつもりがあるなら、配線用スペースが最初から確保されている物件を選ぼう。

■間取り
住居と同様に、間取りもオフィス賃貸物件を選ぶ際には重要な比較ポイントとなる。重要なミーティングや来客との打ち合わせに使用するための別室があるほうがオフィスとしては望ましい。また、備品などを保管しておく収納スペースが必要な場合、それを確保できるかどうかチェックしよう。

管理状況

ビルの管理状況も大切な比較項目だ。必ず比較すべき項目は以下の2つ。

■セキュリティ
オフィスビルのセキュリティと言えば、人的なものと物理的なものがある。入館受付があれば理想的だが、そうでなくても「ドアロック」や「監視カメラ」などの有無は比較しておこう。また、安全面をチェックするうえで、ほかにどのような業種がテナントとして入っているかもきちんと確認する必要がある。入居テナントによっては、不特定多数の人間の出入りが日常的に行われ、安全管理の面で問題となることがあるからだ。

■清掃
清掃状況が悪い物件は避けたほうがよい。特に気をつけるべきなのは「エレベーター」「エレベーターホール」「トイレ」などの人が立ち止まる場所。ここはビルの管理状況が現れる場所であるため、念入りにチェックし、比較対象としておこう。様々な調査で「トイレがきれいだとイメージが良くなる」という結果が出ている。せっかく家賃を支払うなら、来客のイメージが良いところを選ぼう。

契約相手の比較と見極め

オフィス賃貸には様々な契約があり、当然だが契約相手がいる。オフィスを借りる場合特有の比較ポイントや見極めポイントをいくつか述べておく。

オフィスビル・オーナー

商用オフィスビル物件を借りる場合、ビルのオーナーである契約相手をよく見極めることが非常に重要だ。契約相手を見極めるために、まず、オーナーの経営状態をチェックするのがベター。仮にオーナーが破綻した場合、借り手もダメージを受けてしまい、共倒れする危険性があるためだ。

貸しビル業は莫大な初期投資が必要な事業なので、通常は借り入れ額も多額。万が一契約相手が倒産などの状況に追い込まれると、入居の際に納めた保証金が返還されないとか、何の準備もできていない状態で立ち退きを迫られることもある。

仲介業者

契約相手と同様に、物件仲介を行っている仲介業者の対応の早さ、正確さ、サービスのよさについてもきちんと見極めることが必要だ。物件の謄本を見せて欲しいと頼んだときに、サービスのよい仲介業者であれば快く取り扱い物件謄本を用意してくれる。逆に、謄本を用意してくれないような業者であれば避けたほうが無難といえる。また、単に数多くの物件を進めてくる業者よりも、テナントの業種や業態を考え適切な立地や物件を紹介、または提案してくれる業者が望ましい。

特に初めてオフィス用の物件を借りる際には、オフィス用の賃貸物件を専門に扱っている仲介業者を選ぶとよい。こうした専門業者の中には、保有しているオフィス物件を紹介するだけではなく、オフィス物件を借りる際に準備しなければならない書類や、契約後どのようにすればオフィスを快適な環境に保つことができるのかといったようなコンサルティング業務を実施してくれる仲介業者もある。

物件の信頼性

謄本などの情報をもとに、物件の信用性を見極めよう。何重もの抵当がついた建物は敬遠したほうがよい。また、物件の入居率も比較検討ポイントだ。良い物件は、当然入居率が高いはず。逆に入居率が極端に低い、あるいは入居しているテナントの入れ替わりが激しいなどの場合は注意が必要だ。入居率は、オーナーの経営状況を知るうえでの目安にもなる。

家賃交渉は貸主の提示額からスタートするものだが、それは目安でしかない。物件の信頼性情報を収集し、そこから交渉するのが普通だ。選定基準となる家賃交渉には、信頼性情報比較が有効だといえる。

サブリース会社

「ビルオーナーと仲介業者」という組合せ以外に、物件によっては「サブリースシステム」を導入しているオフィスもある。サブリースシステムとは、ビルオーナーが、テナント募集や管理といった賃貸ビル運営を丸ごとサブリース会社に委託する形態だ。ビルオーナーにとっては通常の仕組みよりも賃料収入は割安となるが、面倒な日常業務やリスクから解放されるというメリットがある。

サブリースシステムの場合、テナントからの保証金もサブリース会社に委託されるため、入居を希望する企業が見極めるべき相手は貸主ではなく、サブリース会社となる。

マンションをオフィスとして借りる場合

業種や物件によっては、一般のマンションを事務所用として借りる場合も考えられる。例えば分譲マンションの物件は部屋ごとにオーナーが異なり、個人の場合もある。

オーナーが個人の場合にも信用度などを見極める必要があるが、個人の信用調査は困難であるため、仲介業者からオーナーの個人情報などをできるだけ聞き出すようにしよう。ただし、仲介業者は物件を貸すことで利益を得るため、オーナーのよい部分を膨らませて言うケースがある。仲介業者のオーナー評は少し割り引いて聞くほうがよいだろう。

レンタルオフィスを借りる場合

必要なオフィス機能が完備され、入居した時から営業が始められるような「レンタルオフィス」や「シェアオフィス」が、都心部を中心に増加している。

レンタルオフィスやシェアオフィスは、通常のオフィスビル入居に比べて「賃料が低い」「短期間のみの使用が可能」「小規模面積でも借りられる」「会社運営に必要なインフラが整っている」などのメリットがあるため、これを利用するスモールビジネスが増加している。しかも、多くが都心の一等地なので、低コストで「ブランド住所」が必要な場合には、有力な選択肢のひとつになるだろう。

賃貸契約を結ぶ際のポイント

入居時に必要な一時金

賃貸契約を結ぶに当たって、オーナーに一時金を預託する慣行がある。「敷金」と「保証金」または「協力金」などがこれに当たる。条件は賃貸物件の立地地域などによって異なる。

賃貸料金とフリーレント

賃貸料金として毎月支払うのは「家賃」と「共益費(管理費)」だ。家賃は、「単位面積当たりの賃料」と「賃貸面積」の掛け算によって決定される。基本的に家賃は値下げ交渉ができる。しかし、例外として「一定期間家賃を増額しません」という特約がある場合には、交渉不可と考えてよい。ただし、その場合でも、契約更新時の値下げ交渉は可能だ。

空室率が高くなると「フリーレント制」を導入する物件が増えるのは必然だ。フリーレント制とは一定期間賃料を無料にすることで、例えば「契約月から3カ月は賃料無料」といったサービスを提供してくれる。東京都心などを中心に、空室率の低下などを目的として、フリーレント制を導入する不動産会社が増えているといわれており、これも比較検討の対象項目として覚えておくとよい。

初めてオフィスを借りる際には関係がないかもしれないが、オフィス移転などの場合にはフリーレント制は非常に魅力的な制度だ。この制度は「賃貸借契約を結びつつ家賃の発生を遅らせる」というものであるため、借り手は入居中のオフィス物件と移転先のオフィス物件との両方に対する家賃の二重払いを防ぐことができる。

「共益費(管理費)」は、トイレ、キッチン、エントランスなどの「共有部分」の維持管理費のことだ。契約書には、共益費についても記入がある。契約に「共益費は実費」と明記されている場合、その内訳を聞き、必要であれば値下げ交渉をする。

また、契約更新時には「更新料」を求められることがある。更新料は地域によって対応が異なる。

家賃の起算日と支払日

通常の場合、入居に先立ち内装工事の起工日から家賃を起算する。テナント側は「使用する前から家賃を支払っている」気分になるが、オーナー側からみると「ビル内を使わせるのだから内装工事の起工日から起算するのは当然」ということになる。退去の場合は、現状回復工事の完了をもって明渡しとなる。

支払方式に「前家賃」といわれるものがある。5月分の家賃を4月中に払うような仕組みだ。

契約面積

契約面積にどこまでが含まれるかチェックしておこう。室内以外の部分、例えば、トイレ、キッチン、エントランスなどといった「共有部分」も含めて契約面積としていることがあるからだ。悪質な例としてはエレベーター、階段、共用喫煙スペースなどもあわせて契約面積を水増し要求してくる事例もありると聞いている。

逆に、サービス面積を付けてくれる場合もあるらしい。サービス面積とは文字通り家賃計算には組み込まない面積のことだ。フリーレント制と並んで名目家賃を下げたくない貸主側の事情から、今後増える可能性があるという。

その他ポイント

その他のポイントとしては、実際と異なる表示がされていないかに注意しよう。例えば、駅から物件までの距離として、実際は徒歩20分かかるのに徒歩15分などと異なる表示がされていることがある。

また、ビルの一階や地階をコンクリート打ち放し状態のままで引き渡す「スケルトン貸し」もでてきた。退去後、標準仕様の内装に戻す必要がないので、工事費分安く上がる。特殊な内装を使用するような場合には検討する価値がある。

目的や考え方によって良いと思うオフィスの条件はさまざまだ。必要な条件を決定したうえで、できるだけ多くの物件を見て欲しい。ビジネスのスタート時、移転時に、合計して数十の物件を見たが、素直に楽しかった。比較検討項目が多いので、一長一短があるものに対して、意思決定するプロセスが必ず発生する。ぜひ経験してもらいたい。

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