📓クリティカルチェーン

賢人に学ぶ
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ベストセラーをプロジェクト管理に応用

社会に出るとPERT図という業務フロー図を見ることがある。「PERT」は、Program Evaluation and Review Techniqueの略称で、プロジェクト管理手法の一種。プロジェクトが完遂されるまでのタスクを分析できる。プロジェクトの「納期遵守を最優先する」ための全体の流れをひと目で把握できる。

PERTとかプロジェクト管理というと難しい印象だが、富士フィルムのWebマガジンに面白い試みがあったので紹介しておこう。題して『PERT(パート)図を使って遅れてはいけないポイントを洗い出す。』という記事。ここでは、「納豆掛けごはんを作る工程のPERT図基本形」を下図で表現している。

引用:富士フィルム『PERT(パート)図を使って遅れてはいけないポイントを洗い出す。

もし、PERT図で管理された業務やプロジェクトに関わることになったら、ぜひともここで紹介する『クリティカルチェーン』を読んでみよう。

著者エリヤフ・ゴールドラット氏は、ベストセラー『ザ・ゴール』の中で、工場の生産管理の新手法であるTOC(制約条件の理論)という方法を平易に解説した。『ザ・ゴール』で一躍名を上げた後、『ザ・ゴール2』、『チェンジ・ザ・ルール!』を出版し、4冊目となるのが本書である。テーマは、TOCによるプロジェクト管理。つまり、プロジェクト・マネジメントの新手法だ。

いずれの本も小説スタイルで書かれているが、著者はイスラエルの物理学者である。本書も、ビジネススクールで教えている準教授リチャード(リック)・シルバー氏が、プロジェクト・マネジメントの講義を担当するという筋書きで構成されている。

ビジネススクールでリックの講義を受けているモデムメーカー・ジェネモデム社の3人が、会社から命じられている新製品開発のプロジェクトをテーマに、どのようにすれば、確実に、かつ期間を短縮してプロジェクトが実行できるかなど、指導を受けながら考えていくというストーリーである。

結果として生まれた新しい考え方、それが「クリティカルチェーン」だった。従来のプロジェクト・マネジメントは、予定どおりにプロジェクトを進行させることが目的とされてきたが、この手法が、期間を短縮させることを主眼としている点に、従来のものにはないユニークさがある。

これは、「システムのアウトプットは、その最も弱い部分の能力で制約される」というTOCの理論をプロジェクトに応用したものである。

クリティカルチェーン

コンピュータのモデムは、技術進歩が早く、製品のライフサイクルは約6カ月である。しかし、開発期間は2年くらいかかる。いかに開発期間を短縮させるかが鍵になる。ジェネモデム社で、開発プロジェクトのメンバーに任命されたマーク、ルース、フレッドの3人は、ビジネススクールでプロジェクト・マネジメントの講義を受講し、リックの指導を受けることになった。

マークらは、これまで開発プロジェクトが、予定のスケジュールより遅れがちであり、コストも増大する傾向にあるにもかかわらず、上司からは期間の大幅短縮とコスト削減を命じられていた。

リックは、最初に確率分布の話を生徒にした。確率分布を説明するのに、射撃の名手が標的のど真ん中を撃ち抜く確率と自動車で目的地に行くのにかかる時間の確率との違いを例にした。

前者の場合、標的の中心を撃ち抜く確率は非常に高いが100%ではなく、その周辺にも当たっている。その分布は、集中度の高い山形のグラフになる。一方、自動車のほうは、最低かかる時間があり、到着するまでの時間は、状況によって大きく違ってくる。渋滞や事故が起きれば、予定していた時間の何倍にもなろう。グラフに描けば、最も可能性の高い時間数のところをピークに、時間が増大する方向に長くすそ野ができる形になるであろう。これが確率分布の違いである。

プロジェクトは、後者の場合にあてはまる。不測の事態が起きれば、予定した完成期間よりも大きくズレてしまう。そのため、あらかじめ、遅れを見込んでおかなければならない。これがセーフティである。

プロジェクト・マネジメントの技法は、アメリカで1950年代に、宇宙・防衛関係のプロジェクトを起源として開発され、民間に普及していった。その中心をなす手法がPERTである。PERTは、プロジェクトの進行に必要なさまざまな仕事のつながりを図化したもの。そのなかで、最も重要な作業(それが遅れるとプロジェクト全体の完成時期に影響する)をクリティカルパスと呼ぶ。

リックは、授業では、このPERTを説明すれば済むだろうと考えていた。しかし、マークら、実際にプロジェクト・マネジメントを経験した立場からすれば、クリティカルパスでは問題が片づかないことに気づく。非クリティカルパスの部分で、予期せざる障害が発生し、プロジェクト全体のスケジュールに影響を与えるケースがありうるからである。

ルーティンの業務であれば、作業にかかる時間の見積りは比較的正確に行うことができる。しかし、いつもと違うこと、まったく初めてのことをやらねばならないプロジェクトの場合、必要なリソース(ヒトやカネ)に制約されるうえ、チームのメンバーは顔見知りの同僚であるとはかぎらず、コミュニケーションにも問題があり、桁違いに難しいのがプロジェクトである。

リックは、PERTを構成する個々のステップにおいて、担当者はそれぞれセーフティを想定していることに気づく。誰でも余裕を持って仕事をしたい。予定をぎりぎりに設定すれば、万一、遅れたときに、他のメンバーに迷惑をかけることになるからだ。こうした個々の作業のセーフティを集めれば、クリティカルパスに持たせている余裕をはるかに超えるものになっている。これがプロジェクト期間を実際に必要な長さ以上にしてしまう原因になる。

各ステップに余裕があれば、非クリティカルパスで遅れが起きても、それによってカバーされるはずである。しかし実際には、その余裕がつまらないことに費やされてしまう。学生症候群と呼ばれるもので、期限までに時間的な余裕があるとつい他の事に手が出て、結局ぎりぎりになるまでその作業に着手しない傾向のことである。そのために遅れが出てしまう。

この解決法として、リックは学生とのディスカッションのなかから、従来のPERTのように、作業の要所要所で進行状況をチェックする「マイルストーン管理」に問題があると考えるようになった。各ステップごとに期間を設定するから学生症候群が起きる。

各ステップからセーフティを全部取り去り、プロジェクト全体にバッフアー(余裕)を置けばよい。それには、各ステップの作業担当者に、その作業の終了目標ではなく、着手のタイミングを指示すればよい。作業自体の遅れの確率よりも、着手を延ばすことによる遅れの確率のほうがはるかに高いからである。問題は、あるステップが外部への下請けのような場合、相手に作業開始を強制できるかという問題が実際をよく知るマークから提起された。これは、事前の連絡のコミュニケーションや、場合によっては、支払額を積み増すことで解決できるだろうということになった。

プロジェクトには、ボトルネックがある。これがクリティカルパスでもある。しかし、ボトルネックはクリティカルパス上で起きるとはかぎらない。リソースに起因する場合、リードタイムが原因のもの、ステップ間の作業順序の関係など、さまざまである。これらのボトルネックを解消するのが、リソースバッファーであり、タイムバッファー、合流バッファーなどである。

プロジェクトに存在するこうしたいろいろな制約要因は、どこで現実になるかわからない。いわば、クリティカルパスは、いつも変動する可能性があるのだ。だが、クリティカルパスを変動してよいのだろうか。生徒たちの間でも意見は分かれた。非クリティカルパスで作業が大幅に遅れるたびに、クリティカルパスを変えたり、合流バッファーを変えたりすることは、マネジャーとしては大変なことになる。問題は簡単でないことがわかってきた。

ひとつの非クリティカルパスから、別の非クリティカルパスへと遅れが連続的に発生すれば、合流バッファーだけではすべてを吸収できない。クリティカルパスが次から次へと移動するのもうなずける。

ステップ間の従属関係というのは、それぞれのパスにおける作業の流れに起因する場合と、共通するリソースを複数のステップで用いる時に起きる場合とがある。どのパスがいちばん長くなるのか、それを決めるのは、この両方の従属関係が絡むことになる。従属ステップがいちばん長くつながっているところが、制約条件になる。これを「クリティカルパス」ではなく、「クリティカルチェーン」と呼ぶことに決まった。

クリティカルチェーンは、クリティカルパスである場合もあり、ない場合もある。クリティカルチェーンは、プロジェクト内でのリソースの競合が関係していることがわかってきた。具体的には、PERTにリソースを描き足すことが有効のようである。

従来のプロジェクト・マネジメントには欠けているものがあった。それは「期間短縮」をどう実現するかというアプローチ、方法論である。納期を半減できれば、競争上大きな優位を得ることができる。これまで、プロジェクトを担当している者は、仕事量を負荷率として測るだけで、代わりのメンバーはいくらでもいるということを前提としていた。しかし、現実の状況は、「代わりのメンバーはいない」のである。従来のプロジェクト・マネジメントは的確なソリューションを与えてくれなかった。

クリティカルチェーンの誕生により、従来は無視されていたプロジェクトの特性や人間行動の特徴が考慮されることになった。具体的には、作業ごとの期限設定はせず、全体の期間のみ提示する。作業が回ってきたらすぐに着手し、終わればすぐに申告するというやり方である。これにより無駄な時間を排除できる。プロジェクトに参加する各人の時間見積りは余裕を持たないぎりぎりの時間、つまり「厳しそうだが、やればできる」時間にする。削った余裕をプロジェクト全体の余裕、「プロジェクト・バッファー」として集中するが、集中する効果で、プロジェクト・バッファーは削った時間のおよそ半分ですむ。残りの半分が期間短縮に寄与すると考えるのである。

プロジェクト管理の大活劇

著者は物理学者なので、要点だけを網羅した論文風の作品にもできたのだろうが、小説にし、ディスカッションによる問題解決法の発見というかたちで書いているので、案外スラスラ読めてしまう。これは他の著作物でも同様だ。

プロジェクト管理は、ひと昔前なら「体系化」とは無縁だった。わかりやすい例でいえば、家を建てるというプロジェクト。期日通りに家を完成させるためには、配管や電気工事などのいろんな専門家が関わり、様々な工程が並行して進むが、それをベテラン棟梁の経験や勘など属人的な要素で全体をコントロールしていた。これが以前のプロジェクト管理の普通の姿だ。

今は、米国の非営利団体PMIが策定した『PMBOK』と呼ばれるプロジェクトを管理する手法が確立。PMBOKはプロジェクトを「立上げ」「計画」「遂行」「コントロール」「集結」の5つのプロセスに分類して管理する。これを体系的に学んだ人には、第三者認定資格が与えられる。

ちなみに『PMBOK(ピンボック)』は、Project Management Body oKnowledgeの略だ。

もし、仕事でプロジェクトと呼ばれるものにに携わっている人には、この本はものすごく楽しめるだろうし、プロジェクトに関係していない人でも、マネジメントという仕事の仕方を考えるうえでおおいに参考になると思う。

あまり堅苦しく考えず、冒険大活劇だと思って、とにかく読んでもらいたい一冊である。

目次概略

エリヤフ・ゴールドラット著・三本木亮訳『クリティカルチェーン』の目次概略は以下の通り。

  1. プロジェクト・マネジメント
  2. 象牙の塔
  3. スループット・ワールドへ
  4. ロジャーの挑戦
  5. 夕食会
  6. クリティカルチェーン
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