契約書・契約文書作成の基本

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契約書は必要か

社会人になってから生まれて初めて関わることになり、「これは参ったな…」と感じたもののひとつに『売買契約書』と『ライセンス契約書』の締結がある。今でいう B to B(法人対法人)ビジネスの営業職だったときの話だ。お客様もこちらも巨大企業という状況の中で、双方の法務部門の橋渡しをしながら契約内容の調整したのだ。契約書は全部で300ページ以上あったと記憶している。かなり大変だった。

それから30年以上になるが、今ではすぐに「契約しておきましょう」とか「さっさと契約約款つくっておこうよ」という姿勢で仕事するようになった。これまでに、かなりの数の契約に関わり、弁護士や法務部門とのやり取りをする中で、「契約文書がないなんてあり得ない」と思うようになったのだ。

そもそも契約とは

契約とは、「申込」と「承諾」という相対する意思表示が合致することによって成立する法律行為のことをいう。例えば、「これ売ります」と「それ買います」という双方の意思表示に合致があれば、それだけで有効に売買契約は成立する。

売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

民法第555条


契約は、申込と承諾の意思表示の合致が成立要件であり、実は書面による契約書の作成は法定の要件ではなく、口頭の契約であっても書面による契約であっても法律上の効力には何の違いもない。実際に、ある巨大企業の購買部門から、「この件、金額も大きくないので口頭でいいですか?」と依頼され、驚いて顧問弁護士に相談したことがある。

もちろん、法律によって契約の文書化を求めるものもある。例えば、「建築工事請負契約」は、建築業法19条によって契約内容を書面にすることが記載されている。

では、口頭ではなく、契約書を作成するメリットはどこにあるのだろうか。

契約文書作成のメリット

端的にいうと、契約書作成の一番の目的は、当該契約に関わる紛争から自分の権利を守ることにある。契約内容を文書化していない状況で、契約内容の権利・義務関係で問題が生じた場合、その問題が双方で協議のうえ対処できる程度であればよいが、そうでない場合には争いが生じてしまう。裁判ともなれば、事態はなおさら深刻だ。利害関係にある当事者が、それぞれ自分の正当性を主張し、その解決には非常に長い時間がかかってしまうことになるだろう。

現実の裁判になるケースは、表現が悪いが、いちゃもんと難癖のオンパレードだ。できるだけこういう時間の無駄と思える状況は避けるに限る。

こうした際に契約書が重大な役割を果たす。契約書に契約内容の主だった事項が記載してあれば、それが正当性の証拠となりうるのだ。契約書は裁判において有力な証拠文書となることから、作成しておくことによって相手方に、契約内容の履行を促す効果も期待できる。

契約書を作成する際には、種類にもよるが、おおむね以下のような項目を盛り込む。

  1. 契約の成立時期
  2. 有効期間
  3. 契約当事者
  4. 契約の趣旨・目的
  5. 契約の対象
  6. 権利および義務
  7. 契約の解除
  8. 損害賠償
  9. 規定外事項についての協議
  10. 裁判管轄
  11. 当事者の署名・押印欄

さらに、その契約において特別な事項があれば、契約書に「特約」などを設け、その事項を明記しておいたほうがよい。

契約文書の作成ポイント

さまざまな契約文書

ひとことで契約文書と言っても、実際には「契約書」「契約証書」「覚書」「協定書」「念書」「誓約書」といったものがある。これらは、当事者の合意のうえで作成され、公序良俗に反しないものであれば、法律上有効となる。しかし、「契約書」と「念書」では何となくイメージが異なる。簡単に説明しておこう。

一般に、当事者双方が権利・義務関係を明確にして、両者が連名で調印するような契約文書はふつう「契約書」「契約証書」とされる。対して、一方の当事者だけが自分の義務履行を承認して、相手に差し入れる場合は「念書」「誓約書」が利用される。双方か一方かということだ。
なお、「覚書」は双方でも一方でも利用されることがある。

署名と記名捺印

契約文書では、契約の当事者を確定しなければならない。法律上契約の当事者とは、契約文書で「署名」または「記名捺印」した者となる。

法律では署名が第一で、それに代わるものとして記名捺印がある。署名とは契約当事者本人による筆跡で自分の名前を書くことだ。これが法律上優先されるのは、契約当事者が誰かを特定する際に「本人自らの筆跡であれば、立証しやすい」ためといわれる。なお、現在では署名した場合も捺印するのが通常となっている。記名の場合は捺印をもって「署名に代わるもの」とされているため、必ず捺印が必要になる。

当事者が個人の場合は、戸籍上の姓名を正確に表示するのが原則。ただし、俗称やペンネームであっても「その個人が明らかに特定できる」場合は例外とされている。個人企業の場合は「○○商店」などの商号や屋号でも問題ない。契約内容に関わる主体が明らかであれば屋号でも構わないということだ。

法人の場合は「商号」「代表資格」「代表者の氏名」「登録印(実印)」が必要。代表者でない場合、例えば、事業部決裁で交わすような契約書などは事業部長の記名捺印であっても、法律上は有効だ。

判子の種類

公正証書の作成や不動産登記のように法的に実印を必要とするケースもあるが、通常の契約書であれば「実印」「認印」でも、契約書の法的効力は変わらない。

多くの場合「当事者のいずれかが契約文書を作成し、一方がそれを了承し、署名もしくは記名捺印する」といった流れで契約が交わされるのだが、こうした方法では「捺印は第三者が勝手にした」というようなトラブルも生じかねない。理想を言えば、契約当事者の目の前で「署名」したうえで、捺印するのが一番安全だ。

契約文書の前文

ほとんどの場合、契約文書の前文には「契約当事者の名称」「双方の略称(甲、乙など)」「契約の目的」が明記されている。契約文書の形式は自由なので、前文は書いても書かなくてもよいのだが、書いておいた方がより分かりやすい契約文書になる。

条項

契約文書の場合は条文とその見出しがあるのが通常。例えば、以下のよう書き方だ。

第一条(目的)

条文に見出しを付けたほうが分かりやすくなるため、なるべく付けるようにする。条文の数表記は、縦書きなら漢字で「第一条第一項第一号」、横書きならアラビア数字で「第1条第1項第1号」と記述する場合が多い。

ときどき、 第1項 がなくて、条文のあとに 第2項 から始まるケースを見ることがあるが、知り合いの弁護士によれば、これは『六法全書』の書き方をマネしたものらしい。 従って、第1項 がなくても、形式上の話なので気にしなくて構わない。

数字の記述

数字の記述に関して、改ざんを避けるために「壱、弐、参」など多角漢数字を使用する場合がある。英数字だと「1」を「4」に書き換えるなどの不正がやりやすい。その防止策だ。

記述してはいけない事項

法律違反あるいは公序良俗に違反するような条項は記述してはいけない。例えば、契約書で販売先を限定すると「独占禁止法」に抵触する可能性があるし、延滞金の徴収を記載すると「出資法」に抵触するケースがある。注意が必要だ。

また、あいまいな表現も避けるべきだ。契約書の条項に、「著しい」「相当程度」などと記述しても、判断の目安がないため、混乱を招くことになる。できるだけ明確な基準となり得る数値で表記しよう。

正本と副本

契約書は契約当事者の頭数だけ作成し、それぞれに署名捺印したうえで、各自が持ち合うようにするのが一般慣行となっている。 正本、副本と呼ばれている。このように契約書を複数作るメリットは、当事者双方が契約書を持つことによって、改ざんの恐れなどがなくなり、契約の公平性、開明性が示されることにある。

なお正本と副本の間に法律上の効力の差異や優劣はなく、ともに証拠文書としての効力を持つ。またどちらを正本、副本にするか、また契約当事者の誰が正本を持つかというようなことは当事者同士で自由に決めて構わない。通常はどちらが正本であるかなど、ほとんど気にしない。

公正証書作成のメリット

契約書は私製証書であるため、契約の相手方が任意に履行をしてくれない場合、裁判上の手続きを取り、勝訴の判決を得たうえでなければ、強制執行に至らない。

しかし、同じ契約書であっても、これを公証人が作成し、公正証書ということにすれば話は別だ。その理由は、公正証書は公文書としての推定を受け、強い証拠力を持つからだ。特に、金銭の取り立てを終局的な目的とするような契約においては、相手方が任意に契約を履行しない場合でも、訴訟を提起し判決を得る必要はない。公正証書自体に判決と同じ効力(執行力)が認められているのだ。

従って、契約の内容によっては、多少面倒であっても、私製証書でなく公正証書にしておくと、すぐに強制執行が可能となり、訴訟による費用や時間を節約できることになる。ただし、執行認諾条項が必要であることを付け加えておく。

公正証書が執行力を発揮できるのは、金銭の支払いを目的とした契約などに限られるが、一般の契約書においても以下の利点がある。

  • 公文書としての推定を受け、強い証拠力を持つ
  • 公正証書に書かれた日付は確定日付としての効力が認められる
  • 公正証書は原本が公証役場に保存されているので、紛失の心配がない

弁護士に相談しよう

一般的な契約に関しては、そのひな型や書式が書籍になっている。インターネットでダウンロードできるものも探せばかなりの数がある。契約文書を作成する際は、こういったひな型集や書式集を参考にするのがよいだろう。

気を付けるべき点は、参考にするひな型集や書式集が最新のものかどうかだ。古い ひな型 では改正された法令などを反映されていない場合がある。法律や法令は案外変わるのだ。

冒頭に述べた通り、契約書は自分の権利を守る非常に重要なもの。作成に際しては、どれだけ念を入れても入れすぎということはない。盛り込むべき事項は漏れなく入れることをお勧めする。その際、弁護士などの専門家の意見を聞き相談することは必要不可欠だ。本当は信頼できる弁護士との付き合いを進めたいが、なかなかそうもいかないだろう。

中小規模事業者で顧問弁護士などがいない場合には、弁護士会に連絡してみるとよい。または、弁護士のポータルサイトで探してみるという手もある。相談を受けてくれる弁護士は必ず見つかるはずだ。

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