弁護士・会計士などの専門家活用

生産性向上
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変化への適応

社員数が数10名規模の上場ベンチャー企業の取締役構成を眺めてみると、弁護士や公認会計士が社外取締役として入っていることが多い。これは会社経営を管理監督する仕組みである「コーポレート・ガバナンス」のためという側面もあるが、相次ぐ法改正や規制緩和など、経営環境の変化に適応していくうえで、専門家の意見をもらうためという側面もある。

例えば、労働関係の法律はよく変わるし、会社法も変わる。会計に関するルールもさまざまな変更があり、1年前まで許されていたことが、今後は罰則を伴うことになってしまう場合もあるのだ。

会社経営を取り巻く環境は刻々と変化しており、その対象は大企業もスモールビジネスも全部含む場合が多い。経営者としては、こうした外部環境変化に迅速かつ柔軟な姿勢で対応していかなければならない。その際、ミスなく確実に対応するために、その分野の専門家の力が必要となることがある。例えば、労働基準法の場合は、労働法に詳しい弁護士や、スペシャリストである社会保険労務士が頼もしい存在となる。

スピード経営

会社が活動を続けていくうえで発生するさまざまな問題に対して、時間をかけてじっくりと対応するのも一つの方法だ。時間をかけて考えれば、その時のベストの対策が見つかるかもしれない。

しかし、現在の経営環境はそれほどやさしくはない。特に、スモールビジネスが大企業に負けない要素のひとつが「スピード」だといわれている。規模が小さいほど、迅速かつ的確な判断と、それを素早く実行するスピード経営が求められるのだ。他社より少しでも早く判断を下して行動に移さなければ、市場での優位性を確保できないどころか、あっという間に市場を奪われるだろう。

正しい結論を迅速に導き出し、他者に先駆けて行動することが全ての会社に求められており、逆にこれができなければ競争に敗れてしまう。そのため、複雑な問題に迅速かつ確実に対応しなければならないときは、その分野の専門家の助力が必要となってくるのだ。

外部の法務部門

会社が何らかの決断を迫られた時に最終決定を下すのは経営者だ。しかし、大企業とスモールビジネスでは決定に至るプロセスが大きく異なる。

大企業であれば、法務部門が組織されており、各分野の法律に明るいスタッフが顧問弁護士などの専門家と相談しながら対策を検討する。そのため、経営者には法務部門が検討したうえでベストと思われる対策が報告される。大企業の経営者は、法務部門からの報告などを考慮し、意思決定する。

一方、スモールビジネスや一般的な中堅・中小企業には法務部門はない。また、法務部門の代わりとなって対策を検討する社員もほとんどいないだろう。つまり、スモールビジネスの経営者は最初から最後まで自分で考え、結論を導き出さなければならないのだ。

このような時に相談したいのが社外専門家たち。弁護士、公認会計士、税理士、社会保険労務士、中小企業診断士、弁理士などを社外の法務部門として活用するイメージだ。

主な専門家と特徴

一般に士(さむらい)業などと呼ばれる専門家は、それぞれ得意とする分野を持っている。例えば、会計のスペシャリストである公認会計士に、特許のことを相談してもアドバイスはもらえない。

また、同じ専門家であってもさらに得意分野は細分化されている。例えば、社会保険労務士は、社会保険法や労働法を扱うスペシャリストだが、オールマイティーではない。人事制度の構築に強い社会保険労務士、雇用保険に強い社会保険労務士、年金に強い社会保険労務士が存在する。弁護士も同様で、得意とする法律とそうでない法律がある。

そのため、専門家に仕事を依頼するときは、まず専門家の得意分野を確認する必要がある。会計について相談するのは公認会計士や税理士であり、社会保険労務士ではない。その後、個々の専門家が得意とする分野を知り、依頼する専門家を選ぶことになる。以下に、主な専門家とその得意分野について簡単に紹介しよう。

弁護士

弁護士は、個人・法人のトラブルに対して法律的見地からアドバイスをし、相談者に代わって紛争を解決する。主な業務機能は以下の通りだ。

  • 紛争処理機能:企業間で生じている紛争を解決するための機能
  • 予防的機能:将来的に発生するであろう紛争に備えて、事前に十分な法律的検討を加える機能
  • 戦略的機能:企業戦略を遂行していくうえで、好ましい法的対策を立てる機能

最近は、法人向けに各分野の専門弁護士をそろえた大型事務所が増加している。法人側のニーズが多岐にわたる場合でもワンストップで業務を請けられるからだ。スモールビジネスの場合は、弁護士に相談する内容が特定されているのなら、その分野に強い単独事務所を選ぶのが選択としてはベターだ。

日本弁護士連合会(日弁連)のホームページには、「企業・個人事業者の方」に向けた専用ページが設置されている。各種問合せ先がここで案内されている。

公認会計士

公認会計士の主な業務は、その名の通り「会計」を支援してくれる。主な業務は以下の通り。

  • 各種法人の監査証明(会計審査)
  • 財務に関する調査、立案、相談業務
  • 会計指導
  • 税務業務

特に、会計監査は公認会計士だけに許された業務だ。「国際会計基準」などにより、日本の企業会計は大きく変化している。適正な財務状況の維持、改善を目指すうえで公認会計士のニーズは高い。

日本公認会計士協会のホームページには、「一般企業の方へ」と題した専用ページがある。最新の情報から支援ツールまで提供されている。

社会保険労務士

社会保険労務士(以下「社労士」)の主な業務は以下の通りだ。

  • 健保厚生年金の受給手続き
  • 労災補償の受給手続き
  • 労働保険の年度更新
  • 社保資格取得および喪失届
  • 算定基礎届
  • 労務管理に関する諸問題の解決

社労士は上記業務内容に関して「事務代理、代行サービス」「相談、指導サービス」を行う。労務管理全体のアドバイザーとしての役割を期待されることも少なくない。また最近は、企業対個人で争われる「個別労働関係紛争」を解決するための役割も期待されている。

全国社会保険労務士連合会のホームページには、「社労士に相談する」という専用ページが設置されている。これを見ると社労士が何を支援するかがよく分かる。

行政書士

行政書士の主な業務は、官公庁などに提出する書類、事実関係を証明する書類を本人に代わって、作成、提出、手続きを行うことだ。就業規則から自動車事故示談書まで幅広い書類を代書してくれる。国際法関連として、帰化申請なども行う。

行政書士の中には、ほかの資格も同時に取得している人が多くいる。例えば、行政書士と社労士の資格を併せ持った専門家も多い。ただし、このような専門家でも、得意分野はいずれかの士業に偏ることが多いので注意が必要だ。

司法書士

司法書士の主な業務としては、不動産登記、法人登記、供託手続き、裁判事務などがある。これらの中でなじみが薄いのは供託手続きだろう。供託とは、金銭などの管理を供託所に任せ、最終的には、それらの財産を受け取るべき相手に確実に受け取ってもらう行為。司法書士は、供託の一連の手続きを行う。

弁護士事務所でサポート的な業務を行う司法書士も多くいるが、司法書士の試験はきわめて難関で、不動産登記や法人登記に関する専門的な知識を有している頼れる専門家だ。

弁理士

弁理士は、特許・実用新案・意匠・商標・条約などに関して、本人に代わって、特許庁に対して出願、申請、登録などを行う。現在、知的財産権の明確化や権利保護の重要性が増しているだけでなく、ビジネスモデル特許も誕生していることから、弁理士に対するニーズは高い。

中小企業診断士

中小企業診断士は、国が認めた経営コンサルタントの資格。守備範囲は非常に広く、会社経営に付随して起こるさまざな問題に対してコンサルティングを行う。守備範囲が広い分、広範な知識を活用してのコンサルティングが期待できるが、得意分野を見極めるのが難しいといった面もある。そのため、事前の打ち合わせが非常に重要となる。

各種助成を受けるための指導なども行ってくれるので、公的支援の活用などを検討している際は、一度、相談してみるとよいだろう。

専門家活用時のポイント

専門家を活用する際に大切なのは、その専門家の得意とする分野を十分に理解することだ。各専門家の知識や仕事には明確な違いがあり、対応できる分野が限られている。また、依頼したい内容ポイントを抑え、的確に伝えることも重要だ。

■依頼前

問題を明確にして、どの分野の専門家に相談するのかを決定する。問題が複雑な場合は箇条書きにしておくのがお勧めだ。ポイントは2つ。

  • 問題点と依頼内容を明確にし、整理する
  • 企業経営が悪化する前に、なるべく早く専門家に相談する

■専門家との契約

実際に依頼する専門家の能力を判断する。社内や知己に専門家がいる場合、依頼する専門家の情報が引き出せるかもしれない。士業は横のつながりが強いので、評判を聞いてみるとよい。ポイントは2つ。

  • 相手の得意分野を知る
  • 得意分野での主な業績をチェックする

■仕事に入ってから

依頼した専門家が契約通りに仕事をしているか、依頼内容を的確にコンサルティングをしているかなどをチェックする。ポイントは以下の5つ。

  • 専門家の訪問ごとに、仕事の内容をチェックする
  • 口頭ではなく、文書でのやり取りを心がける
  • 議事録はできる限り依頼側で作成する
  • 支払料金に関しては、成果ごとに精算する
  • 厳密な守秘契約を結び、自社の事例を他社で使わないよう約束させる

社外専門家とトラブルになってしまっては元も子もない。上記はそれを避けるために実施する。また、不明な点は遠慮せずに納得するまで質問しよう。疑問を残したままでは良いパートナーシップは望めまない。

一度一緒に仕事すると信頼できる専門家かどうか判断できるようになる。専門家側から見ても、依頼主が信頼できる人物かどうかを見極めるだろう。専門家に頼る内容は、ほとんどが重要な問題だ。それを解決するには、依頼主と専門家の相互理解がとても重要だといえる。

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