📓3の法則ーすべての企業を支配するビジネス黄金律

賢人に学ぶ
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言われてみれば

今回は、ジャグディシュ・シース/ラジェンドラ・シソーディア著/橋本恵訳『3の法則ーすべての企業を支配するビジネス黄金律』を紹介する。どの市場でも大手3社がトップだという話だ。米国だけでなく欧州もアジアもそうだという。

言われてみればそうかもしれない。日本では、トヨタ/ホンダ/日産が自動車大手3社で、みずほ銀行/三菱UFJ銀行/三井住友銀行が3メガバンクと呼ばれる。携帯大手3社といえばドコモ/AU/ソフトバンクだ。コンビニ大手3社はセブンイレブン/ファミリーマート/ローソン。パナソニック/東芝/日立を家電大手3社と呼ぶし、人材紹介大手3社、鉄鋼大手3社など日本国内だけ見ても大手3社がトップという例はたくさんある。

この本の2名の著者は大学や大学院の教授。専門は経営学で、各々が企業アドバイザーや社外取締役として企業経営に関わっている。サブタイトルに「黄金率」という言葉が出てくるが、ビジネスの力学的法則を発見し、それを解説した本である。

著者らが考えついた「3の法則」とは、成熟市場では上位3社でそのほとんどを独占するという事実だった。大手3社をトップに擁する市場構造は、トップが1社や2社の市場よりも安定し、競争性もある。その理由は、競争市場特有の性格と関係がある。世界には4社体制も多く存在するが、長くは続かない。

著者らは、企業はフルラインのゼネラリストと、特定の製品や市場などに特化したスペシャリストに分けられるという。そして、ゼネラリストとスペシャリストとの間に、市場の溝(ディッチ)があって、ゼネラリストとしてやっていくには小さすぎる企業、大きくなりすぎてスペシャリストの強みを出せなくなった企業が、ここにはまりやすい。これらをディッチ企業と呼ぶ。ディッチからどう抜け出すか。

自分の勤める会社が、業界の大手3社でもなく、強力なニッチ企業でもないとしたら、この本を読んで考えてしまうかもしれない。

大手3社構造は安定する

エコノミストたちが描く市場モデルは、これまで2つのタイプにわけるものだった。それは、競争を勝ちぬいてきた一部の大企業が支配する寡占市場か、多数の小企業が占めるニッチ市場のいずれかである。だが実際の市場は明らかに違う。市場が誕生した当初は多数の小企業がしのぎを削る市場であっても、最終的には寡占も独占も存在する市場に行きつく。

どの市場でもトップグループは、必ずといっていいほど3社に限られる。たとえば、アメリカの市場で、ビール、清涼飲料水、航空機、長距離電話、銀行業界など、さまざまな分野に<3の原則>が生きている。

アメリカだけではない。ヨーロッパやアジアでも<3の原則>は認められる。トップが1社か2社しかいなかったり4社以上いる市場も存在するが、一時的な例外といっていい。どれか1社が落伍するか、2社が合併して業界第1位か2位に浮上し、大手3社体制になるとみて間違いない。

なぜ3社なのか。

大手3社をトップに擁する市場構造は、トップが1社や2社の市場よりも安定し、競争力もある。それは競争市場特有の性格と関係がある。トップが2社であれば、潰し合うか談合になる。トップ3社であれば、1社が独占しようとしても、残り2社が団結して阻止できる。市場の勢力均衡を保つには、3社で足りる。3社だけで十分市場の効率を高められる。世界各地の市場にはビッグ4も存在するが、最終的にはビッグ3に集約されるはずだ。

<3の法則>が働いている市場は、競争力、効率、収益性、顧客の満足度のバランスが、ひじょうに優れている。しかし、自然な力による業界再編が、人為的に阻止される場合がある。規制、独占権、大きな貿易障壁、外資に対する規制、垂直統合、所有者=経営者の企業、統制経済などである。こうした障害が取り除かれれば、<3の法則>にとってすみやかにバランスのいい安定した状態に近づくはずだ。

企業を2つのタイプにわけることができる。1つはゼネラリスト、そしてもう1つはスペシャリストである。

市場のビッグ3となるのはゼネラリストである。各種商品を取り揃えていることから、フルライン・ゼネラリストとも呼ぶ。フルライン・ゼネラリストのなかでも、市場を広くカバーし、関連業種や異業種にも手を伸ばしているのが、ポートフォリオ・ゼネラリストである。

これら大手に対して、後発の弱小企業は、専門分野を開拓することによってその存在を維持する。これがスペシャリストである。

スペシャリストは、製品スペシャリストと市場スペシャリストとにわけられる。前者は、製品カテゴリーを絞り込んだスペシャリストであり、後者は、特定の地域や年齢層をターゲットに絞ったスペシャリストである。その両方を絞り込んだ企業を、スーパーニッチ企業と名づける。

市場が成熟してくると、ゼネラリストでも、スペシャリストでもない、中途半端な第3グループが登場してくる。大手3社とスペシャリストの狭間で身動きがとれなくなり、市場の溝(ディッチ)にはまってしまう。ディッチにはまった企業をディッチ企業と呼ぶ。

ゼネラリストやスペシャリストは、どのような道をたどってディッチ企業になるのか。ゼネラリストは規模が小さいと、大規模なゼネラリストに押し出されて、ディッチにはまるのに対して、スペシャリストは急成長という甘い夢を見たばかりにディッチにひきずりこまれるケースが多い。ゼネラリストがディッチに押しだされるのは、大手ライバルとの競争に破れた結果であるのとは対照的に、スペシャリストの場合には、大きくなろうと焦ってディッチに吸い寄せられるものである。

市場のディッチに長くとどまる企業はほとんどない。破産して消えていく以外には、自覚してニッチ企業に転進するか、ゼネラリストに買収されるかのいずれかである。整理統合が進みつつある競争市場では、トップ3社の椅子をめぐって6~8社がしのぎを削る。負け組がディッチに追いやられるが、とくに3位のフルライン・ゼネラリストが落とされやすい。業界1位と2位が熾烈なシェア争いを繰り広げ、そのあおりを食らうためである。

スペシャリストが拡大路線に走り、破綻をきたす原因に、外部投資家の圧力もあげられる。投資家が急成長と多額の収益を求める結果、スペシャリスト本来の特質を破壊してしまう。これまで製造したことがなく、マーケティング面でも主力製品とのシナジー効果が望めない商品に手を出して、失敗することもある。スペシャリストの場合、無理をしたら負ける。

企業側の原因ではなく、市場そのものが崩壊する場合がある。市場の崩壊には4つの要因を含んでいる。新技術への移行、市場の変化、投資家の変化、そして政府の規制の変化である。

安定した市場では、フルライン・ゼネラリストとともに無数のニッチ企業も生き残り、参入企業が後を絶たず、市場も変化しながら成長する。ただし、この状態が続くには、業界内の企業がステークホールダー(従業員、顧客、株主)の要望を満たしていることが条件になる。そのために、企業は経営の効率化を図り、つねに成長しなければならない。

しかし、この条件を企業が満たせなくなると、市場は安定期から停滞期に後退する。停滞した市場がたどる道は、内部変化するか、外部の第三者が痛みを伴う変化をもたらすかのいずれかである。本物の破壊的イノベーションは、必ずといっていいほど外部から入ってくる。市場内部から発生する場合でも、業界リーダーが開発することはない。

現在の地位も将来も確実に保証され、ずっと安泰でいられる企業は、競争市場には存在しえない。競争市場に生きる企業はすべて、市場の将来を的確に予測し、経営政策を間違えないことが、生き残る条件となる。

マジック・ナンバー

色々な業界の地図を読むに際して、この本に書かれている考え方を照らし合わせると、これまでとは違った見方ができることは確かだ。冒頭で「3メガバンク」と述べたが、銀行業界もかつては「都銀13行」「大手20行」と呼ばれたことがあった。段階的な合併を繰り返し、この本が出版される頃はまだ「4大銀行」になる少し前だったと記憶している。

結局は、どの市場も上位に食い込めれば安心というわけでもなく、大手といえども、合併などの戦略を用いて戦ったり、手を結んだりしながら、自社の立場をもっと上げようと努めているということだ。とりあえずの一段落が「大手3社になったとき」なのかもしれない。

怖いのは、大手にしろニッチ企業にしろ、一度「溝にはまった」ディッチ企業になったら、容易には脱出できないという著者らの主張だ。企業競争社会の原理について、ひとつの解釈を与えてくれる一冊である。

余談だが、プレゼンテーションにも「3の法則」がある。ある著名な経営コンサルタントが、その著書の中で、依頼主(クライアント)には必ず「ご提案したい解決策は3つあります」と言えと書いている。「3つ」には説得力を大幅に増強する何かがあるというのだ。このコンサルタント氏本人は、たとえ2つしか思いつかなくても「3つあります」と言っておいて、他の2つを喋っているときに3つ目を必死に考えるそうだ。

プレゼンテーションの神様ともいわれる米アップル創業者の故スティーブ・ジョブズ氏は、必ずプレゼンテーションの要点を3つ挙げたそうだ。例えば、「この製品の特徴は『薄く』『軽く』『速い』ことだ」といった3つ並べるプレゼンテーションを本当に多用している。2007年に「iPhone」を発表した時、ジョブズ氏は、「Mac、iPadに続く3つ目の発明」だとして、「iPodと電話、インターネット通信デバイスの3つを盛り込んだデバイスとして『電話を再発明する』」という内容のプレゼンテーションをしている。

「3」という数字はとても不思議なマジック・ナンバーなのかもしれない。

目次概略

ジャグディシュ・シース/ラジェンドラ・シソーディア著/橋本恵訳『3の法則ーすべての企業を支配するビジネス黄金律』の目次概略は以下の通り。

  1. <3の法則>とは何か?
  2. 市場は進化する
  3. 市場を支配する大手3社
  4. ゼネラリストとスペシャリスト
  5. 市場の罠にはまったディッチ企業
  6. グローバル化する<3の法則>
  7. 大手3社-それぞれの取るべき道
  8. スペシャリスト企業の独自戦略
  9. 市場が崩壊するとき
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