FCビジネスの基礎知識

中小企業経営
この記事は約10分で読めます。

起業や独立の手段

スモールビジネスを始めるとき、既にブランドが確立しているビジネスの「フランチャイズチェーン(FC)加盟店」からスタートするという選択肢がある。起業や独立の話題になると、FC加盟店の話は必ず出てくる。FCは全ての業種に有効なわけではない。すぐに思いつくのは飲食業のうちの「ファーストフード」がFC加盟店だらけだということだ。

国内の飲食業の売上高ランキングではフランチャイズチェ-ン(FC)の寡占状態となっており、上位を日本マクドナルド、ほっかほっか亭総本部、ミスタードーナツ(ダスキン)、日本ケンタッキー・フライド・チキンなどが占めている。

かつて、東京の丸の内に本店のある有名アパレルブランドのFC加盟店になることを本気で検討したことがあった。そのアパレルブランドはFC加盟店を募集していないので、そもそもFCビジネスをやっていることを誰も知らない。あまり流行に左右されないブランドで、一等地か有名百貨店にしか店舗がない。聞いたところ、直営店よりもFC店舗のほうが多いらしく、それまで一切FCに興味がなかったのに、急に本気でFCについて勉強を始めた。

結局はこのアパレルのFC加盟店にならなかったが、このとき学んだこともあり、加盟店ではなく「FC本部になること」はとても面白いと思った。

FC本部設立の経緯

日本には多くのフランチャイズチェーン店がある。その本部設立の経緯をみてみると意外にも「直営では100年たっても事業拡大ができないから」とか「ほかにもっと事業を伸ばす方法がなかったから」といった理由が少なくなかった。仕方なくFC本部をつくったということだ。

さらに、「勉強したのではなく独自で考えた」「友人の輪で店舗を広げてきたが手間を考えると採算が合わないのでロイヤルティーを取ることにした」という話も多い。必ずしも完成されたシステムでFC展開をしていない本部も実際にあった。

確かにこうした方法でも最初は成功するかもしれないが、FCビジネスを始める前に少しくらい学んでおいたほうが合理的な意思決定ができるはず。ということで、今回は 「FC本部になること」 を想定したフランチャイズビジネス戦略についてふれてみたい。

FC展開の基本

一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会が毎年発表しているFC統計調査によると、2020年度のフランチャイズチェーンビジネス(FCビジネス)の市場規模は、チェーン数で1308チェーン、総加盟店舗数で25万4017店、総売上高で25兆4千億円だそうだ。新型コロナ感染症の拡大の影響を受け、全ての数字が前年より少なくなっているが、市場規模は巨大だ。

数字だけ見ると順調にみえるFCビジネスだが、本部と加盟店のトラブルが絶えないところもあり、全く問題がないわけではない。本部と加盟店のトラブルは、本部がFC展開を始める際の準備が十分でないことに起因することも多いという。

FC展開を始めようと思ったとき、その基本についてまずはふれておこう。

まずはFCパッケージ

まず最初はFCパッケージづくりだ。FC展開を始める際にはしっかりとしたFCパッケージを確立する必要がある。FCパッケージとは、本部(フランチャイザー)が、加盟店(フランチャイジー)に対して加盟時に付与するもの。日本フランチャイズチェーン協会では以下のものと定義されている。

「十分に組み立てられた一連の、あるいは一体としてのプログラム、またはプランであって、詳細によく準備されていて、一組の体系的なサービスとして直ちに提供されるようになっており、一定の価格で販売されるもの」

このFCパッケージは主として以下の3つの要素が組み合わされてできている。

  • フランチャイザーの商標、チェーンの名称または屋号などそのFCの事業を示す印を使用する権利
  • フランチャイザーが開発した生産、加工、販売そのほか経営上の技術(ノウハウ)を利用する権利
  • 当該フランチャイズビジネスのイメージを維持し、高めるためにフランチャイザーが行う指導、援助を受ける権利

FC展開プロセスの中で最も重要であるのがチェーンオペレーションの確立。その内容を確立するためには、以下の4つを行う必要がある。

  • モデル店舗の開設、運営
  • スーパーバイザーの養成
  • 店舗運営マニュアル(オペレーションマニュアル)の作成
  • 従業員教育(トレーニング)マニュアルの作成

ここで「直営モデル店舗」が重要といわれる。モデル店舗はテストマーケティングの場としての意味を持っているし、さらに、このモデル店舗での成功が加盟店募集の際に信用を高める効果がある。まずは直営モデル店舗でいかにノウハウを確立できるかがFC展開成功の重要なカギといえるだろう。

また、スーパーバイザーの養成は、加盟店の指導・監督・管理を行うために欠くことができない。

FCビジネス本部の条件

FCビジネスは、本部はもちろん加盟店の経営全体を包括したシステムであり、システムの開発や運営は誰にでもできるものではない。FCビジネスの本部になるための条件は以下の3点と考えよう。

  • 特色ある商品やサービスがある
  • 特殊な販売方法を開発している
  • 高い知名度やよいイメージのある商品を持っている

これらがチェーンのセールスポイントとなり、加盟店を募集しやすくなる。最初の数年間は直営モデル店舗でこうしたノウハウを蓄積し、見通しがついたところでFC展開に望むことになる。

そのほかにも、経営資源であるカネとヒトは重要だ。ある程度の資金力がないとFC本部はできないし、FC事業に必要な人材と組織がなければ実現しない。

直営モデル店舗の開設や加盟店募集の広告、また、集まった加盟店に対する教育、訓練、指導などを行うには、ある程度の資金が必要。また、本部は加盟店を募集したり指導できる人材を確保、育成する必要がある。まずはFCパッケージを開発する体制を整備することが重要ということだ。

FCパッケージの内容

まず最初にFCパッケージづくりとはいえ、FCパッケージの内容が何なのかを知る必要がある。FC加盟店は「起業・独立・開業」を目指しているわけなので、FCパーッケージは事業計画の立案から始まって店舗の運営や管理システムまですべてを網羅しなくてはなならい。以下にFCパッケージに必要な事項を紹介しておこう。

■事業計画の立案

  • 投資計画(初期投資と必要資金)
  • 借入金とその返済計画
  • 損益計算(想定収支の計算)
  • 中期経営計画(5年から10年間の事業収支)

■商品計画

  • 商品の品ぞろえ
  • 仕入れ先の探索と仕入れ価格交渉
  • 商品の販売価格の設定

■出店計画

  • 出店立地の探索
  • 立地調査
  • 商圏調査
  • 売上予測の想定

■店舗計画

  • 店舗設計、レイアウト
  • 厨房設備計画
  • 内装デザイン
  • 屋号、看板、サイン、ロゴマーク
  • 駐車場、植栽、造園
  • 家具備品、陳列棚、ショーケース

■要員計画と教育訓練

  • 社員、パートの採用計画
  • 募集方法、広告媒体
  • 面接、採用の方法と基準
  • 教育カリキュラムづくり
  • オープン前の教育訓練

■店舗運営と管理システム

  • 社員、パートの就業管理、店舗運営ルール
  • 接客サービスの方法、基準
  • 仕込み、調理の方法、基準
  • 商品や原材料の発注方法、基準
  • 在庫管理、棚卸管理の方法、基準
  • 販売促進の方法
  • 店舗月次決算の方法

ロイヤルティー・保証金・加盟金

「ロイヤルティー」は開業後継続的に本部が加盟店から徴収するものだが、このロイヤルティーは徴収する本部と徴収しない本部がある。これについては、業種や業態、同業FCビジネスと比較して決定すればよい。

本部が加盟店からロイヤルティーを徴収する場合、一般的には以下が相場になっている。

  • 小売業:売上高の3%程度(コンビニエンスストアを除く)
  • 飲食業:売上高の3~6%
  • サービス業:売上高の5~10%

ロイヤルティーを本部の収入源としてとらえると、ロイヤルティーを設定しない、もしくは安くするには、ロイヤルティー以外の収入源がしっかりしている必要がある。例えば、加盟店に支給する商品や使用する資材が市場で手に入れにくいなどの差異性があればよいだろう。ロイヤルティーについては本部の収入源としてロイヤルティーに頼らなくても十分運営が可能な場合は、あえて取る必要はない。

「保証金」については、本部が加盟店の契約違反があった場合の損害を補てんするという意味合いを持っており、解約や期間満了などで必要なくなったときには返還しなければならない。金額的には30万~300万円と幅のある範囲で設定されることが多くなっている。

「加盟金」は開業までに要する費用だ。開業に当たって本部が加盟店に対し、市場調査やテリトリーの設定、教育訓練、建築改装指導などを行うが、こうした費用として徴収する。飲食関係の本部の場合は、100万~300万円程度を加盟金として設定しているところが多い。

FC本部の情報機能

FC本部にとって情報機能は最も重要な機能のひとつ。この情報機能は、情報の収集・処理・提供の3つの要素から成り立っている。特に、この中で最も重要なことは情報の提供だ。できるだけ早く、読みやすい形式で、継続的に加盟店に情報提供する必要がある。

こうした情報機能は、コンピュータ・ネットワークの導入によって内容が充実してきている。全てをオンラインにして、POS(販売時点情報管理)や無線LAN、スマートデバイスなどを利用することで、仕入れ、単品管理、受発注自動化、販売管理などに成功しているFCは数多くある。

FC本部は情報をどこから得るのかということについては、主に下記4つだろうと思われる。

  • 加盟店の販売報告
  • 本部の管理データ
  • 市場調査
  • 臨時に入ってくる情報

加盟店の販売報告からは、販売量や顧客の単位購入量が得られ、本部は適切な販売プログラムの実行、および販売促進の実施が可能になる。また、本部が加盟店に対して行った活動の結果としての本部の管理データからは、加盟店別の商品仕入状況や売り上げ状況、本部としての商品供給状況が得られる。

こうしたデータを基に、加盟店別の立地や店舗の性格による売り上げ実績、商品別・地域別の売り上げ構成、販促の効果などが分かるようになる。

市場調査は、本部の調査部門で行ったり、外部に委託する。臨時に入ってくる情報は、マスコミや同業者などを通じて発表された資料やセミナーなどに参加して資料として入ってくるものなどがある。

こうした情報の中でも加盟店からの情報が一番重要。これは日々の活動から得られる情報ですからチェーン全体の運営上欠くことはできない。

また、直営モデル店舗でテストを行い、そこでの成果を加盟店にフィードバックすることも本部の情報機能としては重要になってくる。そのためにも本部と加盟店をつなぐ役割であるスーパーバイザーの存在が重要になってくる。

注意すべき関連法規

FC業界では、常にFC本部と加盟店の間のトラブルが絶えない。FC展開する際にトラブルが多発するとFCチェーンとしての評判は急落してしまい、加盟希望者も減少し、最終的にはビジネス自体が失敗に終わってしまうことになりかねない。

このため、ビジネスプランを検討する際や実際に展開する際には、常に加盟店とのトラブルの未然防止を心がけることが必要。その際の最低限の指針として関連法規について認識を深めておくことは欠かせない。

FCビジネスを展開するうえで注意が必要となる主な関連法規には「中小小売商業振興法」と「独占禁止法」がある。 一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会がは、この2つの関連法規について「フランチャイズ関係法律解説」として詳しい内容を公開しているので、ここでは概要について簡単にまとめておく。

中小小売商業振興法

中小小売商業振興法では、小売・飲食のFC(同法では「特定連鎖化事業」として規定)に対して、加盟店のトラブル防止を目的としてFC本部が事前に開示すべき項目を定めている。

同法で定められている主な開示項目は、チェーン本部の概要(株主、子会社、財務状況、店舗数の推移、訴訟件数など)、契約内容のうち、加盟者に特別な義務を課すものなど加盟社にとって重要な事項(テリトリー権の有無、競業禁止義務・守秘義務の有無、加盟金・ロイヤルティーの計算方法など金銭に関することなど)となっている。

独占禁止法

FC契約は、各々が独立したFC本部と加盟店の間で結ばれる契約であるため、独占禁止法の適用対象となる。

公正取引委員会では、「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方について」を公表して、独占禁止法が不公正な取引として定めている「ぎまん的顧客勧誘(本部が加盟店の募集に当たり虚偽のもしくは誇大な開示を行うことなどにより、競争者の顧客を不当に誘引すること)」や「優越的地位の乱用(本部が加盟店に不当に不利益を与えることなど)」について具体的に示している。

FCビジネスの講習や相談

ここまではFCビジネスを始める際のポイントだけを記述した。何か相談したいことがあれば、まずは迷わず 一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会 にアクセスするといいだろう。

参考までに同協会が提供する2つの有用な機能を紹介しておく。

フランチャイズ相談センター

フランチャイズ・ビジネスに関連する相談に対し、専門の相談員が無料でアドバイスしてくれる。FC契約上のトラブルやFC本部構築に関する相談も受けてくれる。

スーパーバイザー学校

スーパーバイザー学校は1977年に第1回が開講され、以後現在まで毎年継続して開講している。修了者は2,470名を超え、フランチャイズビジネスの中心として活躍している。1995年からは、スーパーバイザー士の認定制度を導入。フランチャイズ・チェーン本部のスーパーバイザーとしての知識、能力、実務を、筆記試験、面接で評価し認定している。2019年度までで、スーパーバイザー士資格取得者は約1,300名。

タイトルとURLをコピーしました