販売店での接客を改善する方法

業務改善
この記事は約13分で読めます。

販売店で重要な接客

今では大抵のものをインターネットのEC(電子商取引)サイトで買えるようになった。そして、買い物をする自分自身のことを考えると、経済性を追求する「消費者」としての側面と、安全で快適な生活環境を求める「生活者」としての側面があることに気付く。

「消費者」として経済性を求めた場合、家計を中心に考えた消費行動をとることになる。経済性を求めた消費者は、複数のEC(電子商取引)サイトや近隣のスーパーマーケットの中から少しでも安い商品を購入しようとする。

一方、生活者としての側面を考慮すると、経済性を求める消費者とは少し価値観が異なる。商品の価格だけではなく、多少高価でも、それにより生活が豊かになる、快適になる、楽しくなるものであれば、そこに価値を求めて購入する。わざわざ百貨店や専門店に足を運ぶことも多い。

価格を下げても商品が売れないというときには、消費者としての視点だけではなく、生活者としての視点での品ぞろえや販売が重要になるといわれている。その際には、生活の場面を想定して、利便性、快適性、必要性を検討するといいだろう。

身近な例は「実演販売」だ。単に売場に陳列しただけでは売れないようなものでも、使い方を実演することで飛ぶように売れるということがある。非常に便利な商品であっても、その便利さが伝わらなければ購入にはつながらない。

商品は、単に陳列しているだけでは、なかなか購入につながらないため、商品メリットや利用方法の提案が必要となってくる。気づきや発見を手助けするためには、店頭のPOP広告や販売員による説明が必要になる。POP広告とは、「Point Of Purchase advertising」つまり、消費者が商品を購買する場で行われる広告のこと。店頭・店内の陳列棚などに展示される販促物を指している。

特に接客を要する店舗では販売スタッフの育成は不可欠。最低でも売っている商品の知識はしっかり身に付けていなければならない。さまざまな商品の相違点、それぞれの利点や欠点を十分に把握しておかないとお客様の判断に必要な商品説明は難しいだろう。

服飾関係の店であれば、コーディネートのセンスや能力が不可欠。単品を売るのではなくトータルファッションの提案ができなければいけない。それぞれのお客様に合ったコーディネートがすぐにできるように、事前にさまざまなパターンを用意しておく必要がある。これには、知識だけではなくセンスも磨く必要がある。

販売の現場では新人研修が行われるが、それだけでは不十分だといわれる。繁盛している販売店は、定期的に講習会や研修会を開くなどして、販売技術のレベルアップを図っている。

今回は、販売店において最も基本的なサービスである「接客」について改めて考えてみたい。

接客マニュアル

店舗数がひとつのうちは、社長(店長)の目は店内の隅々まで行き届き、店の方針や接客方法などの教育も社長(店長)自ら行うことができる。しかし、店舗数が増えていくと、各店の営業は各店のスタッフに委ねられることになる。店舗の増加によって従業員数が増えると、その教育の重要性も増してくる。

販売員各々が工夫して個性を発揮することで販売増につながることは多い。ただし、販売員によって、接客内容が変わったとしても、サービスの質を一定以上で安定させる必要はあるだろう。すべての販売員が、一定以上の品質のサービス提供ができなければ、個性を発揮したところで販売増は難しいはずだ。

ここで登場するのが「接客マニュアル」。接客マニュアルは、接客の基本的なルールを統一し、一定以上の接客サービスの質を維持するために不可欠な道具なのだ。

業種業態によって販売方法は異なり、また、同じ業態の店であっても接客マニュアルは各社異なったものになる。例えば、ある販売店の接客マニュアルには「いらっしゃいませ」という言葉は存在しない。その理由は、お客様にとって店内はいつでも自由に見て回ることのできる空間であり、そのように考えると、「いらっしゃいませ」という他人行儀な言葉は不要どころか不似合いといえるからだ。

「いらっしゃいませ」という言葉は「待ってました」とばかりに待ち構えている様子が伝わってしまう。お客様が身構えるのを防ぐために、常に何らかの作業をしている必要がある。作業をしながら、お客様の入店を確認し、「どうぞご自由にご覧ください」と声をかける。まずは、気軽に自由に見ていただきながら、アプローチのタイミングを図る。

帰宅時に気軽に寄ってもらいたい居酒屋などでは、入ってきたお客様に対して「いらっしゃいませ」より「お帰りなさい。お疲れさまです」といった言葉のほうが気が利いているかもしれない。

接客トークの再確認

接客マニュアルによって、接客サービスの質を維持するには、まず、基本となる接客用語の規定が不可欠。販売店の接客の基本6用語というのがある。それは次のようなものだ。

  1. いらっしゃいませ
  2. かしこまりました
  3. お待たせいたしました(少々お待ちください)
  4. 申し訳ございません(申し訳ございませんでした)
  5. 恐れ入ります(恐れ入りますが…)
  6. ありがとうございました(ありがとうございます)

単に同じ言葉を繰り返していると、その言葉は陳腐化してくる。この陳腐化は各販売員の内面の問題でもあるが、言葉に気持ちがこもらなくなってしまう。

例えば、スーパーマーケットのレジで次のような接客を受けたとしよう。

「いらっしゃいませ」
「大変お待たせいたしました」
「○○がお一つ、□□がお一つで、1500円になります」
「2000円をお預かりいたします」
「2000円をお預かりいたしましたので500円のお返しになります」
「どうもありがとうございました。またのご利用をお待ちしております」

礼儀正しく丁寧ではあるが、お客様はこの時、「いつもと同じことを言っている。マニュアル通りなんだろうな」程度にしか思わないはずだ。そこには、思いや感情は入らない。それは、決まったマニュアル用語を単に繰り返しているだけだからだ。

では、お客様の心に少しでも響くようにするにはどのようにしたらよいのだろうか。元気よく、大きな声でいえばいいか。または俳優のような演技力が必要なのか。

実はとても簡単なことで、相対する一人のお客様に対して「話しかける」ことにより、心に響きやすくなるのだ。お客様をちゃんと目で確認して、そのお客様に対して声を出す。お客様との距離によって、「話しかけるための」声の大きさにする。日常生活では当たり前のことだが、接客マニュアルに頼りすぎてしまうと、接客用語をロボットのように繰り返しているだけの状態に陥ってしまう。

これはセールスの電話をするときも同じ。毎日毎日、同じ言葉を繰り返していると、知らず知らずのうちに、早口になってしまうもの。相手はとても聞きづらい思いをするし、落ち着かず、ストレスになりやすい。

誰に対して話しているのかをキチンと意識できないと、お客様に対して、独り言か、確認のために声を出しているような印象しか与えなくなってしまう。これは最悪だ。

接客用語は、一人ひとりのお客様に対して発することで、生き生きとしたものになる。これを理解していて、一人ひとりのお客様に対して生き生きとした接客を実践しているレジのスタッフを見かけると感動すら覚える。

もちろん、業種や店舗規模によっても状況は違うだろう。例えば、量販店の食品売場の行列ができるようなレジなどでは、レジのスタッフは速くて正確な対応が優先されるため、ロボットのような対応であっても、お客様は意に介さないかもしれない。しかし、家庭用品や服飾雑貨など、食品売場に比べて客数の少ない売場では、一人ひとりのお客様の応対に比較的時間を割くことができる。

コンビニバイト敬語

接客方法は、業種業態によって異なる。例えば、百貨店とコンビニエンスストアの接客では、そのスタイルは大きく異なる。百貨店の場合、手厚い接客サービスの提供が重要な要素。コンビニエンスストアや食品スーパーなどでは、手厚い接客サービスよりも、お待たせしないためのスピードが優先される。

朝の駅の売店などは1秒を争う状況。丁寧に言葉を発している暇すらない。この場合、「1000円ですね」と左手で紙幣を受け取りながら右手でお釣の硬貨を手にして素早く処理するが最高の接客サービスとなるだろう。

コンビニエンスストアなどで、「○○円からお預かりします」という接客対応をよく耳にする。バイト敬語とも呼ばれているらしい。ところが、大手コンビニエンスストアの接客マニュアルには「○○円からお預かりします」というのはないらしい。それはそうだろう。

800円の代金に対してお客様が1000円札を出した場合、「1000円をお預かりします」とするのが正しい日本語。にもかかわらず、「1000円からお預かりします」という表現が多いのはどういうことだろうか。

これはもともと「1000円から頂戴します」に起源があるという話がある。「1000円から頂戴します」は、本来なら「(1000円をお預かりします。そして、この)1000円から(800円分の代金を)頂戴します。(200円のお返しになりますが、少々お待ちください)」と言うべきところ、カッコ内を全部省略して、言葉を凝縮したというのだ。

百貨店などと違ってコンビニエンスストアではスピードが優先される。しかし、スピードが優先される接客の中で、「少しでも手厚いサービスを提供するには、どうしたらよいか」と考えたときに、自ずと口をついて出たのが、「1000円から頂戴します」だった。

そして、これを聞いたほかのスタッフが「なんという気の効いた表現だろうか。マニュアルにはない素敵な表現ではないか」と思い、その表現を真似たのだろう。それが、いつの間にか「1000円から頂戴します」と「1000円をお預かりします」が一緒になってしまい、結局は「1000円からお預かりします」という意味不明な言葉になってしまったという。

こんなことなら、マニュアル通りに正しい日本語の「1000円をお預かりします」と言ったほうがずっと気が利いている。

事前に決める接客ルール

接客業にとって重要なことは、お客様にご満足いただくこと。そのためには、お客様に満足していただき、嫌な思いをさせることのないように努力することが必要だ。ここでは接客ルールを考えてみる。

清潔感の維持

髪の毛、爪、化粧、鼻毛、ヒゲ、服装などの身だしなみを整える。事前に、洋服にはアイロンがかかっているか、靴は磨いてあるか、爪の手入れはできているかをチェックする。髪や顔の部分は鏡に向かって身だしなみと笑顔のチェックをする。見た目の清潔感は接客業にとっての重要事項だ。

空腹時、口内が乾いているとき、疲れているとき、ストレスを感じているときなどは口臭が発生するケースがある。その口臭を知らずに接客するとお客様に不快な思いをさせる危険がある。この場合、接近した接客は禁物。口臭は自分では分からないもの。お客様に不快な思いをさせないようにするには、一定時間ごとに販売員同士で口臭のチェックタイムを設けることも必要。また、生理的な状況の指摘は難しいもの。そこで、こうしたチェックをルール化することで販売員同士がお互いにチェックしやすい環境を作るべきだろう。

特別なことをする必要はない。販売員同士近づき、「定期チェックお願いします」「はい、OKです」というようにするだけだ。もし、問題がある場合には、「後でもう一度お願いします」とすれば、お客様にけげんに思われることもないだろう。こうしたことをルールとしてまとめておくとチェックしやすい環境になるはずだ。

待ちの姿勢

「人が人を呼ぶ」と言われる。店内にお客様がいると、ほかのお客様が入りやすいのは間違いない。販売員がお客様が来るのを待っている様子がみえてしまっては、お客様は店に入りにくい。店内にお客様が誰もいないときには、販売員が店内で下記の作業をすることもルール化する。

  • 店内のクレンリネスや清潔感のチェック
  • 陳列棚の整理整頓、商品の補充
  • ディスプレーのチェック、変更
  • 伝票や書類の整理

くれぐれも、腕組みをしたり、ポケットに手を入れたり、スマホに夢中になったり、髪の毛や爪をいじったり、手持ち無沙汰な状態になってはいけない。

販売員同士の会話と隠語の利用

お客様に対する敬語は当然のこと、店舗内では販売員同士の会話も敬語を徹底する。呼びかけも「近藤」「土方」などと呼び捨てしたり「勇ちゃん」「歳三くん」などとするのはお客様にあまり良い印象を与えない。「近藤さん」「土方さん」と呼ぶようにする。

また、店内で私語は慎むべき。最悪なのは、販売員同士の会話でお客様の悪口をいうことだ。店外でのストレス発散で、店外での同僚との食事中に悪口を言ってしまうこともあるだろうが、回りの席の人が会話に耳を傾けていることに留意しなければならない。

店内でお客様に聞かせたくない言葉を使うときはどうするか。例えば、お客様がいる店内で、「トイレに行ってきます」「お昼に行ってきます」「休憩に行ってきます」などは、あまり聞かせたくない言葉だ。しかし、これを小さな声でボソボソやると、お客様は「何か悪口でも言っているのではないか」と気味悪く思うことが考えられる。このような場合を想定し、以下のように隠語を決めておくと便利だ。

  • 「トイレに行く」の隠語:「1分です」「点検に行く」など
  • 「休憩する」の隠語:「2番です」「事務所に行く」など
  • 「食事してくる」の隠語:「3時です」「電池交換に行く」など

接客中の順番や電話

接客は一人ひとり順番に行う必要がある。接客の途中でほかのお客様から「すみません…」と声をかけられることがあるが、この場合、今対応しているお客様の接客を優先し、ほかのお客様には、「はい、次にお伺いいたしますので、少々お待ちいただけますでしょうか」と声をかける。もし、別の販売員がすぐに戻ってくるのが分かっている場合、「別の者がすぐに戻りますので、少々、お待ちいただけますでしょうか」と声をかけよう。

接客中に店の電話が鳴った場合、接客を優先すべきだが、電話の呼出音がずっと続くと、普通の人間は不快になる。そこで「誠に恐縮ではございますが、電話が鳴っております。すぐに戻りますので、少々お待ちいただけますでしょうか」とお客様の了解を得てから電話に出る。そして、電話は手短に済ませる。長くなるような場合、折り返し電話をする旨を伝えて、すぐにお客様のところへ戻るというのが基本だ。

例えば、お客様からの電話の場合、「その件につきましてはお調べして折り返し、ご連絡させていただいてもよろしいでしょうか」といったように対応します。お客様に対して「ほかのお客様の接客中です」などといってはいけない。また、電話の相手がお客様以外の場合「今、立て込んでいますので、後ほどご連絡いたします」と伝える。わざわざ接客中などといわなくても、「立て込んでいる」と言えば手が離せない状況が確実に伝わる。

お客様との接し方

接客とはお客様に奉仕すること。どんなに親しくなっても、お客様に奉仕する立場にあることを忘れてはいけない。お客様と親しくなるのは悪いことではありませんが、友達に対するようななれなれしい接し方は避けるべきだろう。

店に友人や家族の者が来た場合にも、ほかのお客様と同様に敬語で接する必要がある。よそよそしいと思われるかもしれないが、売場ではほかのお客様の耳も意識しなければならない。どのお客様にも等しく丁寧に対応するのを基本としよう。仮に、上得意のお客様が来店した場合でも、ほかのお客様の前で、急に接客態度が変わるのは感じのいいものではない。

お客様第一主義

例えば、ガラス製品や陶磁器などを扱う店ではよくある話だが、お客様が何かの拍子に商品を落として割ってしまうようなことがある。この場合、商品が壊れてしまったことよりも、お客様にけががないかどうか、お客様の安全を第一に考える。そして、「お客様、おけがはございませんか」と声をかける。

もし自分が商品を落として割ってしまったことを考えると、身体のけがはなくても、びっくりして気が動転していることが容易に想像できる。おそらく申し訳ない気持ちでいっぱいだろう。こういうときに「私どもで片付けますので、お気になさらないでください」と優しく、お客様をいたわる言葉が必要だ。お客様の心に傷を残さないような対応をマニュアルに記載できれば素晴らしいと考える。

トラブルとフォロー

お客様からの苦情にはよく耳を傾けるようにしなければならない。お客様の話の内容を確認し、整理しながら理解する。

お客様の不満は、それを言葉にするだけでもその多くが解消される。他のひとに聞いてもらってスッキリするという経験は誰にでもある。トラブル時には、お客様が話しやすいように気を遣おう。時間的には、少なくともお客様の話を20分聞く心積もりが必要。話を聞き終わったら、要点を整理して、復唱する。

商品の交換で済むことなのか、お客様の扱い方に問題があったのかを確認する。お客様の要望が何であるのか、自分一人で対処できる内容のものであるのか、それとも店長やマネージャーの了解が必要な内容であるのかも考える必要がある。

こうしたトラブルの対応によって、お客様の店に対する評価が分かれる。トラブルが起きても、その処理を上手に行ったことで、それまで怒っていたお客様がお店のファンになった事例は枚挙にいとまがない。災い転じて福となす。

タイトルとURLをコピーしました