予算管理をやろう
社員20名程度の小規模会社の経営者を支援したことがある。経営陣は全員が理系の高学歴で真面目な人たち。やっている内容も時代にマッチしたものだったが、とにかく毎年大赤字。増資と借入で運転資金を調達し続けていた。
この会社を黒字にしたのは、「予算管理」を見直し、それを愚直にやったことだった。
予算管理は、ビジネスの活動を予算という面から計数的に管理し、しかも総合管理を目的とするものだ。ビジネスがうまくいっているのか否かを数字で評価できる。実は、支援した会社も予算管理らしき数字を月次報告として取締役会で説明し、同じものを大株主に説明していた。説明を受けた側は、年度末近くになって、大赤字になることを聞かされる。これが何年も繰り返されると、誰も数字を信じなくなるのは当然だろう。この会社もそうだった。
経営陣は多忙のあまり、予算管理について管理担当者に任せきりで、自分たちで分析することと、それに基づいてコントロール(統制)することをやっていなかったのだ。支援する立場として、真面目な経営陣のメンバーに、予算管理の基本を簡単に伝え、週次で統制することをアドバイスした。その結果、この会社はアッサリ黒字になったのだ。
予算管理の機能
予算管理を「計画」と考える人が多いが、実は次の3つの機能を持っている。
- 計画機能:予算管理は計数的に各部門の予想活動をとらえ、それらを総合的に組み合わせて企業全体の経営活動を計画する
- 調整機能:各部門で作成される活動計画を総合的に調整し、企業全体として最も適切な経営活動を行う
- 統制機能:予算と実績の差異を分析し、これを経営活動に反映し、業績改善に役立つようにコントロールする
誰が予算管理するか
予算管理は経営計画を具体的に実現するためのものであり、売上高・生産高・目標利益・各部門の具体的経営活動と深く結びついている。そのため、管理担当者などに任せきりというのではなく、経営者自らが予算管理担当者であるという意識で取り組む必要がある。
しかし、実際上は経営者が予算管理に関する事務を行うことは不可能なので、経営者を補佐するスタッフが各部門への事務連絡や、予算編成に必要な各種資料の作成、および予算・実績の差異分析などを行う。
このスタッフは、会社の規模によって所属する部門は異なる。予算管理を専任で行う場合は、社長室とか企画部門、予算管理部門などの名称で担当する場合が多く、兼任で行う場合には、経理部が担当することが多い。
予算管理の基本
はじめて「予算管理」を知った場合にために、基本的事項に関する以下の2つを覚えておこう。
予算期間
予算期間はビジネスの会計年度と同じにする。
1年決算の場合は、予算期間も1年とする。これが基本予算となるが、さらにこれを細分化し、6カ月予算、四半期予算、月次予算を作成する場合がある。現状をコントロールするのが一番大事なので、1年間の基本予算だけでは不十分で、月次予算を立てるべきだ。この場合、基本予算(年間予算)を単に12等分するだけでなく、季節変動を加味した月次予算を立てると前年との比較分析が有益になる。
予算の体系
予算を合理的に機能させるには、予算の体系を確立しておく必要がある。予算体系は業種や規模によりいろいろ考えられますが、一例を示すと次のようになります。これでは多すぎると思えば、最も経営に効いていると思われる予算だけを体系化すればよい。
予算編成の手順
方針の明示
予算編成の手順としては、経営者の決定した予算編成方針に基づき各部門で予算を作成する。各部門がそれぞれ予算案を作成し、それを集計した結果について、必要な修正を行う方法もある。しかし、この方法では全体の目標や、方針に対する各部門の考え方が必ずしも統一されていない場合が多く、各部門の予算についての考え方がバラバラで、調整に多大の労力を要するのが普通だ。
予算編成方針は、企画スタッフなどが必要な資料を作成し、この資料を参考としながらスタッフの補佐によって企業の経営者が決定し各部門に示達する。この予算編成方針として示される項目としては、次のようなものが一般的だ。
- 目標利益額または目標利益率
- 販売方針と売上高の目標
- 費用に関する基本方針(重点的に削減する費用、積極的に使用する費用など)
- 在庫方針、回収・支払い方針
- 設備投資計画
- 要員計画
編成手続きの概略
上記の予算編成方針を受けて、各部門では予算案を作成し、所定の期日までに予算担当部門へ提出する。担当部門はこれをまとめて会社全体の予算案を作成する。
しかし、通常は1回ですんなりと全体予算ができることは希だ。各部門では期中の管理がやり易く、目標を達成しやすいような部門予算を作成する場合が多い。そのため、これらの部門予算を総合しても、会社全体の目標利益に達しない場合のほうが多い。
そこで各部門の予算案の修正、部門相互間の調整が何回か行われる。この過程で部門間のコミュニケーションが図られ、相互の協力体制などの話し合いも実施される。
目標利益を達成するための予算編成が困難な場合であればあるほど、経営者のリーダーシップが重要な意味を持ってくる。実際の経験から言えば、経営者がトップダウン型なのかボトムアップ型なのかによって、予算の調整にかかる労力がまったく違ってくる。
予算実行とそのコントロール
各部門の予算および会社全体の予算編成が完了し、いよいよ予算期間に入るとともに実行に移すことになる。その場合の主な留意点は次の通り。
- 予算が決定されたら、各部門の関係者に示達すること
- 予算の進捗状況が分かるように、毎月の実績・期初からの累計、予算との比較などに関するデータを迅速に還元し、期中のコントロールを円滑に行えるようにすること
- 予算編成時点で予測できなかったような変化が起きた場合には、費用面では予備費の活用、費目の流用、予算外支出など、弾力的に対応すること
- これらの期中のコントロールを行えるよう、各種帳票などの整備を行い活用すること
予実分析
予算を編成し、期中に実行状況を管理し、さらに予算管理を機能させるために、予算と実績とを比較して、その差異を分析する方法を予算差異分析と呼んでいる。略して「予実分析」だ。
予算計画は重要だが、設定されただけでは、大きな効果は得られない。重要なのは実行状況をフォローすること。そのために必要なのが「予実分析」といえる。
予実分析の意義
予実分析の意義をまとめると次のようになる。
- 予算と実績を比較することによって、経営活動の現状の認識と利益目標の達成という観点から次の経営計画に反映させることができる
- これを管理者の管理責任範囲と結び付けることによって、問題点を認識させ、業績評価に反映させることで管理者に改善の必要を感じさせることができる
- 予算差異を知らせ、それを検討することで、管理者の動機付けに役立てる
- 予算を計画し、実行し、実績との差異を分析することによって「PLAN→DO→SEE」の管理サイクルによって計画をより精密なものにすることができる
予実分析の方法
予実分析の方法には、以下の3つの方法があるが、一般的には1.の項目別分析だ。
- 項目別分析方法
- 項目別の要因分析法
- 予算利益差異の要因分析法
一般的に行われる1.項目別分析方法は、「全体として財務表を使った分析」と「内訳として各項目を比較した分析」に分けられることが多い。内訳の分析は、そのまま担当部門ごとの改善につながるため、有益かつ効果の大きい分析と考えよう。
▼内訳として各項目を比較した分析例
- 販売費予算差異分析(売上高差異分析 ・売上原価差異分析など)
- 製造予算差異分析(製造高差異分析 ・製造費差異分析など)
- 一般管理費予算差異分析
- 資金予算差異分析
- 資本予算差異分析
誰が予実分析するか
予実分析の担当者としては、各部門の予算については、部門の予算担当者が行い、会社全体の予算については、総合予算編成の企画スタッフが行うというのが一般的だ。そして分析結果について原因分析と今後の対応を検討するのは、部門予算については各部門の長、総合予算については経営者が行う。
留意点
予実分析は、ほんの少しでも差異があれば、全部分析しなければならないというものではない。差異の大きいものから重点的に行うべきであり、一定額または一定率以下のものは省略することが多い。
また、分析結果は、できるだけ迅速に関係者にフィードバックする必要がある。これが遅くなり、タイミングをなくしたのでは、せっかくの差異分析が意味をなさなくなる。
予算管理を円滑に行うには
予算管理はその運営を誤ると、各部門間の協調などに悪影響を及ぼす恐れがある。予算管理をスムーズに行うために、4つの原則がると言われている。それを順にみておこう。
弾力性の原則
予算案作成時点で予測できなかったような事態が発生した場合に、予算に過不足が生じる。このような時に弾力的に運用することが、予算管理を円滑に行うために必要だ。
このための方法として「予備費の枠を設定しておく」「費目の流用を認める」「予算支出(追加予算)を認める」などがある。なかでも予備費の枠を設定しておくことが、予算管理を円滑に行う上で大きな働きをする。しかしながら、予備費の枠をあまり大きくすると問題が生じやすいのも事実。全体の費用予算の10%を予備費の限度と考えよう。また、期中に予想外の大きな変化が生じた場合には、予算そのものの修正も考えなければいけない。
簡素化の原則
予算管理は経営者や企画スタッフだけが行うものでなく、全員参加の考え方で行うものが最も望ましいあり方と言われる。スモールビジネスであればなおさらだ。そのためには、特に期中の予算管理の方法をなるべく簡素で分かりやすいものにすることが大切。
予算管理は1年経過した後で、期首に編成した予算案と実績とを比較することも重要だが、期中のコントロールがもっと重要だ。そのために期中において、常に予算と実績をチェックし必要な措置が取られるよう、各部門の協力が必要といえよう。そのためにも、全員にとって、分かりやすい予算管理システムであるべきだろう。
納得性の原則
前述の通り、予算管理を円滑に行うには、各部門の協力が必要であり、全員参加の考え方が望ましいあり方だ。そのためには、簡素化の原則とともに、納得性の原則も重要といわれる。人間は納得しないと動かない。
予算編成に際して、納得性の原則を無視して編成を行うと、押しつけられた予算という印象を与え、実施にあたって各部門の協力体制がぜい弱となりがちだ。「納得づく」であるかどうかが、実行スピードや品質を左右すると考えてよいと思う。
適時性の原則
予算管理は「PLAN→DO→SEE」と言われるのマネジメントサイクルそのものだ。そこで要求されることは、タイミングのよさ。特に予算編成の段階では、タイミングよく期首から新しい予算に基づいた活動ができるようにすべき。新しい年度に入って何カ月も予算が決まらないというのでは、各部門の士気にも影響を与える。
また、予算と実績との差異を分析し、その結果をフィードバックすることが大切だが、これもタイミングが重要であり、次のアクションに結び付かないようなあまりに遅い時期に分析結果を知っても手の打ちようがない。