取引先・得意先の信用状況を把握する

組織の運用
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与信管理を徹底しよう

『与信管理』という言葉を聞いたことがあるだろうか。経理部門に配属になったり、販売管理を担当するようになれば聞くだろうが、一般的には聞きなれないはずだ。もちろん、会社の規模と無関係に、経営者は知っていなければいけない言葉であり、取引を行う際に活用され、非常に重要な役割を果たす。

まず、大前提として、「もしかすると取引先が倒産するかもしれない」というリスクが確実に存在することを確認しておこう。あちらの有名企業も、こちらの優良企業も倒産リスクは必ずあるのだ。

2021年の企業の倒産状況をみてみよう。民間信用調査会社の東京商工リサーチの発表資料によると、2021年の企業倒産(負債総額1000万円以上)は、件数が6,030件(前年比22.4%減)、負債総額は1兆1,507億300万円(同5.6%減)だったそうだ。

件数は、1990年(6,468件)以来の6,000件台で、2年連続で前年を下回った。コロナ禍の各種支援策が奏功し、1964年(4,212件)に次ぐ、57年ぶりの低水準となったということだ。とはいえ、2021年の「新型コロナウイルス」関連倒産は1,668件(前年比108.7%増)で、前年・2020年(799件)の2倍増となった。集計を開始した2020年2月からの累計は2,467件に達したらしい。コロナ禍支援策によって全体の倒産件数は減っているものの、約2,500件は倒産してしまったということだ。

1960年以降の企業倒産年次推移が同じ資料に掲載さているので、紹介しておこう。

引用:東京商工リサーチ「2021年(令和3年)の全国企業倒産6,030件

景気が好調であれば、企業の倒産はもちろん少なくる。ただし、倒産そのものがなくなるわけではないため、取引によって発生した債権を保全するうえで、既存取引先や新規取引先の信用状態を把握することは、非常に重要となる。「転ばぬ先の杖」というわけではないが、取引先に関しては常に注意を払うことが必要だ。

取引先の信用状態については、窓口となる担当者(営業や購買など)から聞く話だけでは本当の姿が見えてこない場合が多い。その際、信用調査を行うことで本当の姿が見えてくることがある。想定していたより財務状態がよいとか、実は資本関係に問題があるなど、そういった姿だ。

そこで出てくるのが『与信管理』。ここでやることは以下の2つだけだ。

  • 取引規模に応じた取引先の情報収集(信用調査
  • 信用調査で設定した取引先の与信枠と売上債権との比較

取引先の信用調査はすべて自前で実施するのが理想だ。しかし、現実にはスモールビジネスで調査や審査を専門に行う部門を持つわけにもいかないため、外部専門家である信用調査会社を利用する。

民間の信用調査会社の上手な活用方法と信用調書の見方についてざっと見てみよう。

信用調査会社のサービス

大手信用調査会社

信用調査会社といっても千差万別で、俗にいう探偵社から企業の信用調査専門の会社までさまざまだ。しかし、調査を総合的かつ組織的に行い、その結果を信用調査書としてレポートにまとめ、質的にも納得できるものを短期間で提出できる会社となるとそう多くはない。

代表的な民間の信用調査会社は以下の2社。

この2社は数千名の従業員を抱え、全国に80カ所以上の事業所を構えている。全国規模のネットワークを利用して、全国の企業を対象に、あらゆる業種について信用調査を行っている。

企業の信用調査

企業の信用調査が専門の会社は調査取材をする社員が、依頼を受けた企業の信用状態について、相手先企業と直接面談をして情報を仕入れたり、取引銀行や仕入れ先からの評判、登記簿謄本などを取り寄せる側面調査などを行い、最終的に信用調査書を作成してくれる。

信用調査書の記載事項は調査会社により若干の差があるものの、おおむね下記のような項目について調査結果がまとめられている。

  • 商業登記:商号/設立年月日/資本金/定款/所在地/代表者氏名/取締役氏名
  • 株主構成・代表者:略歴/経験/関連事業など
  • 沿革 ・設備や事業所などの不動産明細
  • 労務状況
  • 取り扱い商品と仕入れ先/取引先
  • 金融機関との取引状況
  • 業績および業況
  • 財務分析
  • 決算書
  • 信用評点
  • 不動産登記写

データベースサービス

信用調査会社はそれぞれ独自に調査した企業情報をデータベースとして蓄積し、有料で提供している。そして、インターネットに接続さえできれば、すぐに利用可能だ。先に紹介した「帝国データバンク」と「東京商工リサーチ」の大手2社は、料金表や活用方法、サンプルなどを公開しているので、それを見て判断すればよい。

ただし、こうしたデータベースにある情報が古いケースは、個別に詳細な信用調査を依頼することになる。個別調査ケースでは、一定の調査期間と個別費用がかかるが、この内容についても公開されているので、それを参考にしよう。

利用メリットとデメリット

メリット

■時間と費用の節約

企業の信用調査は、その企業の財務内容や取引銀行、含み資産、経営者の個人データなどをさまざまな角度からの調査が必要だ。これを自前で行うには調査ノウハウを習得しなければいけないが、そのためには多大な労力・時間・費用がかかることになる。信用調査会社を利用すれば、こうした労力や時間を節約することができる。

■主観排除と調査漏れ防止

取引先の信用状態の動向を真っ先に把握できるのは、窓口担当者だ。しかし、どうしても主観や身びいきが入ってきてしまう。例えば、営業担当者は取引先でトラブルが起きるのはイヤなので、悪い兆候があっても隠しがち。しかし、信用調査会社は第三者の目で、冷静な判断に基づく情報を提供してくれるうえ、自社では調査しにくい分野まで行ってくれる。

■要求しづらい決算書の入手

新規取引先、取引歴の浅い取引先や格上の会社には、決算書などの財務諸表の提示を要求しづらいものだ。しかし、信用調査会社を利用することで、このような悩みは解決する。

■調査済み情報の活用

大手信用調査会社では、数多くの企業の調査済み情報がストックされている。こうした蓄積情報の利用により、「過去の焦げ付きや倒産などの事例の分析→企業の信用状態の傾向の把握」が可能になり、精度の高い企業信用調査を実現できる。自前ではほとんど不可能だろう。

デメリット

■調査範囲の限界

大手の信用調査会社といえども、必ず調査範囲には限界がある。そこで利用に当たっては、「その信用調査会社がどこまで調査してくれるのか、自社が望んでいるところまで調査してくれるのか」といったことを事前に話し合っておく必要がある。調査を受ける側の企業には、情報公開の義務はない。相手先が正直に話してくれなければ、信用調査の精度に問題が生じることがある。こういった限界については念頭に置いておこう。

■調査取材をする社員によって調査内容が異なることがある

調査取材をする社員の経験・資質・能力などで調査結果の評点や各格付けにばらつきが出てくるケースもあり、相手企業の真の姿が見えてこないことも考えられる。同じ取引先の調査を異なる二つの調査会社に依頼すると、双方の調査結果に大きな差異があるというケースもまれにあるらしい。

信用調査会社の活用方法

■継続的な利用

多くのビジネスがそうであるように、継続的に取引をしているお客様であれば付加サービスがついたり、多少無理なお願いをきいてくれることがある。それと同様に、いったん依頼する信用調査会社が決定したら、継続的に調査を依頼して信頼関係を築いていくことが大切だ。信頼関係が築ければ、信用状態にかかわる裏話や評判についても聞くことが可能になるので、信用調査会社とは日頃からコミュニケーションを図るように心がけよう。

■継続調査や指定事項の有効活用

有効な企業調査の一つに継続的な信用調査をしてくれる「定期調査」がある。この定期調査とは1年間の契約で年初に一括して取引先の調査を依頼するものだ。この依頼を受けると信用調査会社は指定された企業の決算期に応じて調査を行い信用調査書をまとめて提出してくれる。この制度を利用すると、依頼する側としても、個別に依頼する手間が省け、信用調査会社も計画を立てて入念な調査をすることができる。

さらに、信用調査会社に調査を依頼する時には、自社が特に深く知りたいことや、問題となる点について指定し調査依頼をすると、その点について深く調査してもらえる。

信用調書の見方

信用調書を読むには、少しだけ心構えのようなものがある。主なものを記述する。

■評点・総評を過信しない

一般的に評点は大企業に甘く、中堅・中小企業には辛くなりがちだ。また、調査に非協力的だったり、決算書を公表しないといった企業の評点は辛くなる。取引先で、大企業を調査してもらった場合などは、評点や総評を過信したり、うのみにすることは避けるようにしよう。

■事実を読み取る

信用調査からは事実のみを読み取ることにとどめ、記載内容に不明な点があれば、自ら相手企業に問い合せよう。

■別角度からの調査への足がかりとする

信用調査からつかんだ事実や疑問点をベースにして、さらに別角度からの調査を進めることを考えよう。

■最終的な判断は自ら行う

信用調査を何度も行っていると、ついつい結果をそのまま自社の判断としてしまいがちだが、信用状態に関する最終的結論はあくまで自ら下すといった姿勢が大事だ。他責にしないこと。

ポイントのおさらい

ここまで、信用調査会社の活用方法と信用調書の見方についてみてきた。

特に信用調書に記載されている項目のうち、代表者の経験と略歴、会社の沿革、株主構成などに不審な点や不自然さがないかを、自社との取引内容や窓口担当者からの情報と照らし合わせて、さまざまな角度から信用状態を読み取るようにしよう。

また、信用調書を読んで「おかしい、変だ」と感じたことは自分の手で徹底的に調査するという姿勢が、債権を保全するための最も重要なポイントといえるだろう。

リスク管理に対するスタンスにもよるが、信用調査については以下がお勧めだ。

  • 新規取引を行うとき:必ず相手先の信用調査を行う
  • 一定額以上の取引がある相手:年に1回以上の詳細な信用調査を行う
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