コロナ禍で増したネットの重要性
2020年から始まった新型コロナ感染症の流行で、日常生活や仕事が一変した。特に、人との接触を避けるために、インターネットを使ったコミュニケーションの機会が爆発的に増えた。初めてZoomやマイクロソフトのTeams、シスコシステムズのWebEXを使ったという人も多いはずだ。
2022年6月に公表された総務省の「令和3年通信利用動向調査」では、国内の通信利用状況について、以下の結果を明らかにしている。
- スマートフォンの保有状況は、世帯の保有割合が88.6%、個人の保有割合が74.3%と堅調に伸びている。一方、携帯電話の保有状況は減少傾向が続いている。
- 個人のインターネット利用機器は、引き続きスマートフォンがパソコンを上回り、20~49歳の各年齢階層で約9割が利用している。SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)を利用する個人の割合は78.7%に達した。
- テレワークを導入している企業の割合は51.9%に達し半数を超えた。導入目的は、「新型コロナウイルス感染症への対応(感染防止や事業継続)のため」の割合が9割を超えており最も高い。
- クラウドコンピューティングサービスを導入している企業の割合は70.4%となり7割を超えた。場所や機器を選ばない簡便さや、資産・保守体制のアウトソーシング化等がメリットとして認識されており、「非常に効果があった」又は「ある程度効果があった」とする企業は、導入企業全体の88.2%に上った。
テレワークにしろ、クラウドサービスにしろ、急速にインターネット利用による「リモート化」が進んだということを示している。そして、インターネットを利用する機器はPCではなくスマートフォンが中心的になってきている。
ネットの重要性が増しているこの機会に、「会社の顔」となっているホームページを見直す動きがあると聞いている。今回はその「ホームページ見直し」について考えてみたい。
会社のホームページ開設状況
すべての会社がホームページを開設しているかというと、そうではない。総務省の「令和2年通信利用動向調査」(企業編)の結果によると、自社のホームページを開設している企業の割合は全体で90.1%。以下のようにいずれの業種でも開設率は85%を超えている。
企業の9割というのは予想より多い。ところが実は、この総務省の通信利用動向調査は、常用雇用者が100人以上の企業を対象とした調査なので、いわゆるスモールビジネス(小規模事業者)の実態に即しているわけではない。15年以上前の話だが、当時の国民生活金融公庫(今の日本政策金融公庫)の調査では、従業員30人以下の企業のホームページ開設率は15%前後だと聞いたことがある。
現状を分析したさまざまな調査、例えば、中小企業庁の調査、信金中央金庫の調査、アイ・モバイル株式会社の独自調査などを総合すると、小規模事業者については大雑把に約5割がホームページを開設しているようだ。今のところまだ低い状況にある。しかし、いずれ9割の開設率になるのは疑いがない。
インターネット上での情報発信は、会社として必要最低限のいわば「ビジネスの基本」になっていくだろうと言われていたが、それがコロナ禍で加速した。
しかし、ホームページを作ってみたのはいいものの、単なる会社のプロフィールが羅列してあるだけの内容だったり、その後更新もせず作りっ放しで放置しているといった企業も少なくない。ホームページを見直すに際し、チェックするポイントを挙げ、またそれを生かすためにはどういった対策をすべきなのかを考えてみたい。
ホームページ評価ポイントと対策
企業のホームページが、どの程度その企業にとって価値があるのかということは、分かりにくい。そこで、まずは自社のホームページのどこに注目して評価すればいいか、そのポイントと対策を簡単にまとめてみる。
まとめの前に、以降の用語が混乱しないように言葉について説明しておく。
「ホームページ」とは、インターネット上にあるWebページを指す。 「Webサイト」とは、目的や意味を持った複数のWebページの「集合体」を指す。 一般的には、ホームページとWebサイトは同義の言葉として用いられているが、ここでは、Webページを「ページ」もしくは「ホームページ」、企業が開設しているWebページの集合体を「サイト」もしくは「Webサイト」と記述する。
Webサイト開設の目的が明確か
評価の最初は「目的の確認」だ。何のためにWebサイトを開設したのか、その目的に適したWebサイトになっているのかをいま一度確認してみよう。
■Webサイトの開設目的
- 企業PR・企業案内のため
- 顧客・取引先へ自社の窓口を明示するため、顧客サポートのため
- 自社のイメージアップのため
- 人材募集のため
- IR(株主や投資家に対する情報提供活動)のため
- 自社の商品やサービスを広報するため
- 自社のWebサイト上で商品を宣伝・販売するため
Webサイトは開設する目的によって内容を変えていく必要がある。開設目的に合わない内容をサイト上に用意することは、ホームページの作成に多くのコストや時間がかかってしまい、無駄を生み出すことにつながる。
しかし、ホームページの本質が「情報公開」にあることを考えると、上記に挙げたような内容はほとんどすべての項目が目的として合致するということもあるだろう。そのような場合は以降のポイントに注意して評価する。
ターゲットは明確か
ターゲットの想定はWebサイト開設目的と非常に大きく関係する。インターネットのホームページは世界中の誰もが見ることができるため、基本的にはあらゆる世代の不特定多数に対して開かれたページ。
しかし、例えば日本語で書かれたページを閲覧するのはほとんどが日本人であって、ほかの国の人はあまり閲覧しないことは容易に想像できる。それと同様、日本人をターゲットにしたWebサイトでも、その対象が主婦であったり、高齢者であったり、あるいは業界関係者であったりとさまざまだ。すべての世代の人々にまんべんなくページを見てもらうことを想定し、作成するのは正しい考え方とはいえない。
ターゲットを明確にしたうえで、想定するターゲット層に合わせた言葉遣いやサイトのカラーイメージなど、いわばWebサイトの持つ「雰囲気」を十分考慮してページを作成する必要がある。この点が不明確な場合は、Webサイトを訪れて欲しいターゲット層がどういった層なのか再度確認し、その内容が不適切な場合はWebサイト全体の内容を見直す必要がある。
サイト構成は分かりやすいか
Webサイトの中を行き来しているうちに、「自分がサイトのどこにいるのか、あるいは目的のページがどこにあるのか、まるで分からなくなった」という経験があるだろう。これは、Webサイトを構築する側に問題があるケースが多い。
こうしたサイトは、作り手が自分本位の場合が多く、そもそもサイト訪問者の視点に立ってサイト設計を考えていない。Webサイトがまるで迷路のように入り組んでいると、多くの場合そのWebサイトを訪れた人はサイトの閲覧自体を止めてしまう。
また、検索サイトを経由して企業のWebサイトを訪れるのが「普通のこと」だと考えてみよう。これらの検索サイトから企業のWebサイトを訪れる人は、自分が探したい事柄に関連する言葉が記載されているページへ直接ジャンプしてくる。そして、そのページは必ずしも企業サイトのトップ画面であるとは限らない。いきなりWebサイトの深い階層ページにアクセスするということも十分に考えられる。
このため、自社のWebサイトを見た人がホームページの内容に興味を持ち、サイトを開設している企業がどんな企業なのかを知りたいと思ったとき、どこに企業概要のページがあるのかすぐに探し出せるような仕組みが必要となる。すぐに見つけられなければ、せっかく自社のWebサイトを訪れてくれた人を、みすみす逃してしまう結果になってしまう。
このようなケースを想定し、自社のWebサイトのどのページを開いていてもサイト上での位置が分かるように、全体の構成を簡単に把握できるサイトマップなどを用意したうえで、すべてのページからサイトマップへアクセスできるリンクを用意しておくといった工夫が必要となるだろう。
好印象を与える工夫はあるか
自社のWebサイトが訪問者にとって良いイメージを抱かれるかどうかは、サイトへの訪問者を増やすためには大きなポイント。最初の見た目が悪ければ、多くの人はそのサイトを繰り返し訪れてみたいとは思わない。
Webサイトのイメージは、デザインやレイアウト上のセンスが問われることになる。わかりやすい例としては、以下の5つは「サイト訪問者に優しい」といえるだろう。
- 分かりやすいグラフィック・図表を用いる
- 各ページの操作性が統一されている
- サイト全体でのデザインの統一性が保たれている
- 文字を詰め込みすぎない
- ホームページが安全であること
これらは経験や美術的なセンス、さらにはUI/UXと呼ばれる分野の技術の要素もあって、プロが作ったものと素人が作ったものでは大きな差がある。自社内だけでは十分なものが作成できない場合は、ホームページ作成をプロに依頼することも選択肢のひとつだ。UI/UXについて詳細は省略するが、「訪問者に優しい」 デザインの考え方とそれを実現する技術だと理解してほしい。
「安全であること」も印象を左右する要素だ。今のブラウザーは、かつて圧倒的に多かった「http://」のWebサイトへのアクセス時に「安全ではありません」と表記する。ユーザーが安全にWebサイトを閲覧できるように「常時SSL化(https化)」するのは必須だと考えてほしい。
認知度を高める取り組みは
インターネット上に自社のWebサイトを開設したばかりでまだ誰もサイトのアドレスを知らないときには、訪問者はほとんどいない。多くの人にそのサイトを訪れてもらうにはどうすればいいだろうか。
名刺や電子メールの署名に自社のWebサイトのアドレスを記載して、取引先などに配布するという方法がある。しかし、これは主に事業がB2Bの時であって、Webサイトのターゲット層が最終消費者であるB2Cの場合はこの方法ではあまり効果がない。Webサイトのターゲット層を十分考慮したうえで、最も有効な告知方法を検討してみる必要がある。
以下に自社のWebサイトに対する新規訪問者を増やすための方法例を示す。
■インターネット上での方法
- 検索サイトに上位表示されるような工夫をする
- 有料のネット広告スペースに広告を出す
- ほかの大手サイトと相互リンクする
- リンク集への登録
- 電子メールによる広報
- メールマガジンを開設して宣伝する
- SNSでサイトの話題を取り上げてもらう
■インターネット以外での方法
- 名刺に記載して配る
- テレビなどのほかの媒体で広告する
サイト再訪問者の増加策はあるか
企業がWebサイトを開設した目的を十分に達成するためには、多くの人に自社のWebサイトを訪問してもらう必要がある。しかし、一度訪れてもらうことに成功しても、繰り返し訪問してもらわなければ効果は十分とはいえない。
自分が訪問者の立場になって考えてみると、よく訪問するサイトがある。これは誰でも同じだ。どうしてそのサイトを何度も訪れるようになったのかを考えて、その動機となった理由を考えてみると、例えば以下のようなものが見つかるだろう。
■特定のWebサイトへ繰り返し訪問する理由
- 新しい話題が頻繁に提供されている
- 細かな製品サポート・技術情報が提供されている
- 欲しい商品のページがある
- 検索機能が有効に使える
- 有用な情報が集まっている
- 商品と交換できるポイントが集められる
毎日のように検索サイトを訪れる人は多い。これは、その用途が「特定のキーワードに関連するページを探す」といった目的に特化されており、また、さまざまな情報が総合的に集まった「ポータルサイト」として利便性が高いことが、多くの人に支持されているからだ。
多くの人にとって「便利」であると感じてもらうことのできるページを提供することが、何度も自社のWebサイトを訪れてもらうために必要不可欠な要素といえるだろう。
「便利」であるためには、サイトを訪れた人がより多くの情報を得ることができなければならない。そこで、サイトで提供すべき情報を豊富に用意するなど、サイト訪問者を飽きさせない仕組みが必要となる。さらには、頻繁に、しかも継続的に情報の更新を行うことが重要だ。いつ訪問しても新しい情報が提供されているのであれば、必ず「何か新しい情報はないかな」と考えて繰り返しサイトを訪問する人が増えてくる。
アクセス解析を生かしているか
上記のようなさまざまな工夫をしてアクセスを増加させることに成功しても、いったい誰がどのくらいの頻度で自社のWebサイトを訪れているのか全く把握していないのでは、今後の対策をどのようにとるかの方針を決定することができない。
自社にアクセスしてくる訪問者について、サーバーに残されたログを解析することで、訪問者を知る必要がある。Webサイトのホスティングを行っている業者のサービスメニューには解析サービスが含まれているはずだ。
アクセス解析を行うことで、自社のWebサイトへのアクセス数の推移や、訪問者がどのサイトから自社サイトを訪れたのかなどを知ることができ、今後の対策の参考にすることができる。
問合せ対応体制は整っているか
問合せ用のページを掲載していない会社はみたことがない。しかし、サイト訪問者からの問合せに対し返答に何日もかかるようでは、企業としての誠意を疑われることにもなりかねない。迅速に問合せ対応できれば、顧客の満足度を上げることができ、自社の評価を上げることが可能だ。
迅速な問合せ対応は、どうしても人間がやらなければならないわけではない。FAQ(よくある質問)のページを充実して、たいていのことはそこで解決できる工夫をしたり、チャットボットが質問に自動回答する仕組みも今では非常に安価に利用できる。
Webサイトを見て問合せをしてきた顧客への対応は非常に大事だ。FAQや自動回答を使い、それに加えて対応部署やルールを明確にし、全体として顧客満足度を向上できるように考えるといいだろう。
環境変化には対応すべき
前述の項目をチェックして、自社のWebサイトがどういう状況にあるか、何が問題かをおおむね把握できると思う。この結果をもとに、不十分なポイントを強化していくことで、Webサイトを開設した効果を上げることができるはずだ。
ただ、インターネット上で使われている技術は日進月歩で進歩しており、前述のチェック項目は将来にわたっても有効であるとは限らない。むしろ、どんどん変化していくと考えるべきだろう。ほかの多くのWebサイトで見られる新しい表現手法やそこで使われている技術、検索エンジンのルール変更など、いわばインターネット上の「トレンド」をある程度知っておく必要がある。それらのサイトを参考にしつつ、自社のWebサイトをどう変えていくか、常に考えておく必要がある。
スマートフォン最適化
ごく最近の環境変化としては、検索エンジンの「Google」が、モバイル・ファースト・インデックスへの強制移行を発表し、2021年3月から実施したことだろう。これは、せっかく開設したホームページでも、それがスマートフォン用に「最適化」されていない場合は、検索表示の順番が大きく下がってしまうことを意味すると考えていい。
PC用に作成したホームページは、そのままスマホで閲覧可能だが、最適化されているわけではない。スマホでは指で縦方向にスクロールするのが普通。横長画面のPCでマウスでクリックするように作られたホームページはスマホでは非常に使いにくい。
Googleのいう「スマートフォンに最適化されたホームページ」とは、おそらく以下のイメージだ。
- 文字や画像がスマートフォンサイズの画面でもしっかり認識できる
- スマートフォンの画面幅から内容がはみ出ない
- スマートフォン独自の操作方法に対応した操作が可能
これを実現する方法は、おおざっぱに言えば2つある。以下の通りだ。
- レスポンシブデザイン:PCやタブレット、スマートフォンなど異なる画面幅を基準に表示を変化させることで、幅広いデバイスで見やすい最適な表示を実現するデザイン手法
- PC用/スマホ用を別々に準備:画面幅の異なるデバイスごとに専用ホームページを用意し、それを振り分ける方法
どちらの手法にも長所短所があるが、Googleが推奨しているのは「レスポンシブデザイン」だ。ちなみにこの「びじぱぱ□ノート」はレスポンシブデザインとなっている。
インターネット利用機器は、すでにスマホがPCを上回っている。会社ホームページ見直しに際し、こうした大きな環境変化への対応が重要であることはいうまでもない。