M&A超入門:会社や事業の売買は普通のこと

M&A
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M&Aが普通になった

45~55歳の10年間で、事業の売買と会社の売買を4つ経験した。そのうち2つは自分自身が中心となって行った。それまでM&Aなんて他人事だと思っていたが、当事者になったのだ。今ではスモールビジネスにとって普通になってしまったM&Aだが、最初は雲をつかむような話ばかりだったというのが実感だ。

M=合併とA=買収

M&Aとは、Mergers & Acquisitionsの略称で「企業の合併と買収」と訳されるのが一般的だ。
まず、「M=合併」と「A=買収」について整理してみることにする。

M&Aという言葉は「M=合併」と「A=買収」を一括りにしているが、その内容は全く異なる。
合併の場合、合併される会社は消滅してしまうが、買収の場合、買収される会社の株式の所有者(株主)が変わるだけで、会社そのものは存続する。
また、合併では株主総会の特別決議といった厳格な会社法上の手続きが要求されるが、一般的な買収は、買収される会社の株主との事前交渉・合意、契約、対価の支払といったものが基本的な流れとなり、合併ほど厳格な会社法上の手続きは要求されない。
さらに買収の場合、その買収目的に応じて買収する持ち分を100%、3分の2、過半数などと決めることができる。そのため、合併のように常に100%を自社に取り込むことに比べれば、さまざまな面で自由度は高まる。

スモールビジネスにも普及

M&Aと聞くと、企業の乗っ取りを連想するかもしれない。特に米国では、強引な企業乗っ取りをテーマにした書物や映画が出たこともあり、M&Aのイメージは必ずしも良いとはいえない面がある。

しかし、実際は友好的な話し合いで行われるM&Aが多いのが現状だ。私が経験した4つのM&Aもそうだった。友好的な話し合いによるM&Aは、企業の持続的な成長発展のために欠かすことができない重要な戦略の一つと言える。

また、M&Aに関する正しい知識を身に付けることは、リスク回避の意味でも大切である。実際にM&Aをやってみると、「人材や組織活性化の問題」「事業の価値評価」「将来の企業戦略設計」「税制や法規制」など、経営に欠かせない多くの問題を解決する必要があるため、その道の専門家を起用し、万全を期さなければならない。ということは、当事者もM&Aの基本的な知識を有していなければ何も判断できないということだ。

ひと昔前、M&Aは大企業を中心に行われているイメージがあった。現在では、中堅・中小企業やベンチャー企業がM&Aによる企業の発展を目指すケースが多くあるのは言うまでもない。例えば、後継者がいないという問題を抱えた中小企業が、M&Aによる企業存続と経営者のリタイアを目指すという話は、うちの親戚でも聞いたケースだ。

ユニークな技術でベンチャー企業を設立したものの、不景気から思うような資金調達ができずに短期間で廃業を余儀なくされるケースも多い。今後は、こうしたベンチャー企業が、企業の発展・存続のためにM&Aを利用していくケースが増えていくのは確実だ。

買収側からみたM&Aの動機

企業買収側のM&Aの動機は、おおよそ5つだと言われている。著名なベンチャー起業家が「この買収によって時間を買うんです」と言うのを聞いたことがあるだろう。

  1. 節約
    自社の技術開発や市場・販売ルートの新規開拓を独自で展開するより、既にそれらを有している企業を買収したほうが「時間とコスト」の節約になる場合
  2. 相乗効果
    自社の既存事業と買収した企業の事業を組み合わせることで「相乗効果」を目指す場合
  3. 業界政策
    シェアを拡大し、業界での勢力を拡大したい場合
  4. 救済
    子会社や関係会社、取引先を救済するために吸収合併する場合
  5. 企業政策
    株式公開などをひかえ、自社の財務バランスを強化したい場合

節約が動機

節約動機は、M&Aの典型的な目的だ。例えば、自社の企画力と営業力を一から育成するより、中堅の広告代理店を買収したほうが、コストと時間を節約でき、広告宣伝力も強化できるといった動機が典型だろう。

しかし、実際に節約の効果を得るのは難しいと言われている。売り手が買い手の節約に積極的に協力しない限り、効果を得られないからだ。買収される企業のキーマンが、この買収を嫌って辞職したという話はよく耳にする。また、企業の評価を誤り、節約のつもりだったのに、逆に赤字部門をつくってしまったというケースも多い。

相乗効果が動機

相乗効果の典型は、「開発力は優れているが販売力に乏しい企業」と「販売力は優れているが開発力に乏しい企業」が相互補てんを目指す場合だ。どちらが買収側になるかはケースバイケースだが、規模が大きく、資金力のある企業が買収側になるのが一般的だと思う。

ただし、LBOという手法を用いて、小さい企業が大きい企業を買収することもある。「LBO」とは、Leveraged Buy Out(レバレッジド・バイ・アウト)の略称。レバレッジとは「テコ」のことで、「LBO」には小さい力で大きな買い物をするというニュアンスがあり、小さな企業が大きな企業を買収する時に用いられる。LBO事例としては、2006年、携帯電話市場への参入のためにソフトバンクがボーダフォン日本法人をM&Aしたケースがある。

業界政策が動機

金融業界やIT業界、製薬業界には非常に多い印象がある。金融に関しては、持っている貯金通帳の銀行名がこの30年で何度変わったことか。証券会社や保険会社もよくM&Aする。ただ、非常に活発に見えた損害保険業界のM&Aは、国内市場が飽和していることもあり、3大損害保険会社への再編成をもってほぼ終了といわれている。

IT業界は業界内のM&Aが多すぎて、日常茶飯事といえるだろう。米国の巨大IT企業「GAFAM」構成企業のグーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフトの企業買収は異常な数だし、米IBM、オラクル、独SAPも数10社を買収している。日本でもNTTデータや富士通、NEC、楽天、ヤフーなどはかなり積極的にM&Aを実施している。

救済が動機

救済が動機となる典型は、メーカーが、経営不振に陥った有力取引先を救済する場合だ。救済目的でM&Aを行う場合は、救済対象企業の株式を買収し、子会社化したうえで、融資や保証を行うケースも少なくない。救済が動機でM&Aを行う企業は、積極的な事業展開を目的にするのではなく、放っておけば、いずれ自社にもリスクが及ぶと考え、自社を擁護するのが目的であることが多い。

企業政策が動機

企業政策が動機のケースもある。企業グループ全体の経営効率の向上や本体企業の株式公開を目的に、M&Aの形式で、高業績の子会社や関係会社を吸収合併し、逆に自社の不採算部門を売却することで企業体質を強化するといった場合だ。ただしこれは、純粋な意味でのM&Aというより、M&Aの手法を活用したグループ戦略といった色彩が強いといえる。

M&Aの形態

前述の通り、M&Aという言葉は「M=合併」と「A=買収」を一括りにしているが、その内容は全く異なる。形態についても「M=合併」と「A=買収」を別々に見ていくことにしよう。

M=合併

M=合併とは、文字通り2つ以上の企業がひとつの企業になることだ。一般的には、新設合併と吸収合併に大別される。以下に要点だけ書いておく。

新設合併

新設合併とは、その名の通り、会社を新設すること。合併する2 社がそれぞれ解散消滅した後に、新会社を設立することでひとつになるやり方。

吸収合併

吸収合併とは、吸収する側の企業が存続し、吸収される側の企業が消滅するやり方の合併。世の中のM&Aでいう合併の多くは吸収合併を指す。

A=買収

A=買収とは、対象の経営権や営業権を、それに見合う対価で獲得すること。企業の買収方法には、資産の取得(営業譲渡)による方法と株式取得による方法がある。少しだけ詳しくみてみよう。

営業譲渡

買収方法の営業譲渡では、対象企業の不動産などを買うのではなく、営業用財産(顧客、工場、店舗など)、無形財産(技術、特許権など)、人的財産(従業員や人脈など)といった、企業経営上で必要な資源をすべて財産として譲り受けることになる。譲り渡す側の企業の立場から、「営業譲渡」と呼ばれるようだ。譲り受ける側の企業も「営業譲渡を受ける」と表現するのが一般的だ。また、通常の営業譲渡は以下のような特徴を持っている。

  • 「営業譲渡する」企業は、そのまま「法人」として存続し、株主の株式もそのままである
  • 「営業譲渡を受ける」企業は、「営業譲渡する企業」の事業の全部または一部を取得し、原則として債権者の同意を条件に債務を引き継ぐ

株式取得

買収方法の株式取得には、ざっくり以下の3つの方法がある。

  • 大株主からの株式取得:買収する企業の大株主と交渉し、その株式を譲り受ける
  • 株式買付:買収する企業の株式が公開されている場合、証券市場から株式を入手する
  • 第三者割当増資:買収する企業が新株か新株予約権の発行を行い、それを買収側の企業が取得

私が経験した2回目のM&Aはの上場企業だったため、株式公開買付(TOB:Take Over Bid)という方法が採用された。TOBについてここで詳細には触れないが、一部の株主だけが得をしたり、買収する側だけが得をすることのないように様々な規制があることだけは知っておいてほしい。

M&Aを検討する時に考慮すべき項目

最後に、M&Aを行う際に留意すべき基本的な事項を紹介する。M&Aには、「買い手」と「売り手」が存在するが、各々の立場によって検討すべき内容は異なる。

買収者が検討すべきこと

買い手、即ち買収する側の者が検討すべき重要なポイントは以下の通り。

  1. 目的:買収によってどんな利益やメリットを得ようとしているか
  2. 売り手の選定:買収対象はどの企業か
  3. 価値評価:買収対象の価値はどのくらいかの客観的な評価
  4. 買収方法:どのような方法で買収するか
  5. 資金調達:買収資金をどのように調達するか
  6. 専門家の起用:仲介者や専門家は誰をいつ起用するか
  7. 制約克服:「法的規制」や「税法上の問題」など障害がある場合にどう乗り越えるか
  8. 事業計画:買収後の総合的な事業運営をどう実施するか

これらポイントのうち『専門家の起用』については、買収者の目的や事情によって重要度が異なることは言うまでもない。例えば、買収対象が関連会社や関係の深い取引先の場合、専門家の起用のタイミングは、ある程度M&Aの構想が煮詰まってからでも十分間に合うはず。逆に言えば、買収対象が面識のない企業や突然紹介を受けた企業、あるいはこれから探すなどという場合は、できるだけ早い時期から、コンサルティング会社などの支援を得ることが成功のための要件になる。

売却者が検討すべきこと


買収される側の検討すべきポイントとして以下が考えられる。

  1. 目的:売却によってどんな利益やメリットが得られるか、またはどんな損失を回避できるか
  2. 買い手の選定:誰に売却するか
  3. 売却価格設定:売却によって得るものは何か、また失うものは何か
  4. 実質収入確保:税制などの問題で、売却メリットが害されないか
  5. 専門家の起用:仲介者や専門家は誰をいつ起用するか
  6. 事業計画や資金運用計画:売却後の計画

こちらも同様で、『専門家の起用』が最重要項目となる。ほとんどのケースで、売却者は早く対価を得たいと考える傾向がある。売買は個別交渉になるのが普通なので、早く売りたいという気持ちが強いほど買収者に弱みを付け込まれる危険性が大きくなる。そこで、専門家による客観的で冷静な評価が重要であることに異論をはさむ余地はない。

知識の有無が明暗を分ける

M&Aを学校で習う機会は極めて少ない。それなのに、これからますますM&Aは普通のことになっていくはずだ。会社や事業の売買については、機会をみつけて学び続けてほしい。少しの知識の有無が、人生の明暗を分けることにつながることもあるだろう。

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