ロジカルシンキングを道具として使おう

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ロジカルシンキングとは何か

今では考えられないが、新卒として入社した会社では1年近い新入社員研修があった。研修センターで2週間の集合研修を行い、その後は配属先で2週間のOJTがある。そしてまた研修センターで2週間といった具合に繰り返すのだ。集合研修では、詰め込むだけ詰め込んだインプットを、ロールプレイングによりアウトプットすることで、使えるスキルとして定着させる。そんな研修だ。

このアウトプットのときに、散々言われたのが「この説明はロジカルか?」「この提案シナリオはロジカルか?」ということだった。要は、言いたいことを正しく伝えるとか、相手のいうことを正確に把握するための道具として論理的にものごとを捉えることが必須だということだ。

この研修から10年以上経過したとき、ロジカルシンキングがブームになり、すっかり市民権を得たように思う。ものごとをスッキリ整理し、無駄なく考えるには役立つ道具でもあるので、ぜひとも基本的な知識は持っておいてほしい。

論理的思考のための手法

ロジカルシンキングを日本語に直訳すれば「論理的思考」ということになる。ロジカルシンキングとはまさにこの意味通り、ものごとを論理的に考え、それをコミュニケーションの場で生かすための技術に関する手法だ。ロジカルシンキングは、もともと米国のコンサルティング会社であるマッキンゼーが提唱した問題解決のための思考手法のひとつ。現在では、論理的な考え方の道筋を指し示すものとして、「論理的思考」を実現するためのさまざまな視点・用語を用いたロジカルシンキングの手法を解説した書籍などが出版されている。

ロジカルシンキングが必要な理由

社会人として、他人とのコミュニケーションで最も大切なことは、いいたいことを正確に相手に伝え、相手のいいたいことを正確に理解することだ。ビジネスにおいて、取引先や社内の上司、同僚、部下など、さまざまな利害関係を持つコミュニケーション相手に、自分のいいたいことを可能な限り分かりやすく伝え、理解して納得してもらうことが、仕事を円滑に進めるために極めて重要であることは分かるだろう。

しかし、現実には「思っていることが相手にうまく伝わらない」「相手をうまく説得できない」、あるいは「相手のいわんとすることがよく理解できない」という場面が少なくない。これは、正確なコミュニケーションにとって必要な「論理的な思考」ができていないことが多いためだと言われている。

日本人は「ディベート」と呼ばれる論争ゲームなどに接する機会が少なく、欧米人などに比べて論理的な思考が苦手であるといわれている。また、日本人同士のコミュニケーションでは「阿吽の呼吸」や「以心伝心」といった言葉に代表される従来型の伝統的な慣習によって、言葉にせずとも何となく意思の疎通ができているという認識もある。

しかし、今では日本人同士ですら「阿吽の呼吸」や「以心伝心」が通じなくなってきてる。海外で育った皆さんとのコミュニケーションなら全く通じないと言って良いだろう。阿吽の呼吸や以心伝心などを重要視する旧来の日本型コミュニケーションは素晴らしい文化ではあるが、グローバルな視点と明確な論理に立脚し、相手を納得させることのできるコミュニケーションの重要性がますますが高まってきているのも間違いない事実。

思い違いや勘違い、抜け・漏れのない意思の疎通を図るためには、曖昧な表現を避け、お互いが正確で論理的なコミュニケーションを心がける必要がある。そのための道具が、ロジカルシンキングという手法だ。

ロジカルシンキングの目的

「論理的思考」などと言うと物々しい感じだが、コミュニケーションの道具としてのロジカルシンキングの目的は2つしかない。それは「結局何を伝えたいかを明確にすること」と「どんな反応であれば成功かを明確にすること」だけだ。

何を伝えたいかを明確にする

ロジカルシンキングにおいて最初に意識すべき点は、そのコミュニケーションにおいて自分が相手に伝えるべきテーマは何かを明確にすることだ。コミュニケーションの手段には会話のほかにも文書や報告などさまざまなものがあるが、どのような場合においても伝えるべきテーマが「ずれ」ていては伝えたいことは相手に伝わらない。自分では、説明した内容が非常に価値を持った情報だと考えていても、相手にとっては知りたい情報でなければコミュニケーションそのものが一方通行になってしまう。

例えば、クラウドサービスのセールスを行うときに、相手が最も知りたいことが「導入によるコストダウン効果」だと予想できたとする。それに対して、クラウドサービスの機能や操作性のよさをいくら強調してもピントの外れたやり取りになるだけだ。IT業界ではよくある話だ。もちろん、機能や操作性のよさは導入に当たっての重要な要素だが、それはあくまでも「コストダウン効果」を前提としたうえでの副次的な要素でしかない。

コミュニケーションを行う時には、伝えるべきことの価値やその方法以前に、そのテーマが果たして適切な選択であるのかということを優先して考えることがロジカルシンキングの目的となる。

どんな反応であれば成功かを明確にする

コミュニケーションにおけるもうひとつの重要なことは、自分が相手に期待する反応を明確にしておくことだ。ミーティングやプレゼンテーションで何かを説明したり提案書などを作成するということは、相手に内容を理解してもらい、最終的には何らかの反応を引き出すことを目的とするはず。この点を忘れてしまっては、コミュニケーションはただの一方的な独りよがりの行動となってしう。コミュニケーションを行うに際しては、事前の段階で相手からどんな反応を引き出せば成功なのかということを、あらかじめ想定しておくことが重要だ。

先ほどの例であれば、伝えるべきテーマを「クラウドサービス導入によるコスト削減効果」と定め、さらに「コストダウン効果を相手に認識してもらい、その効果についての意見を引き出す」という相手の反応を想定するのが、ロジカルシンキングの方法論だ。

これに対して、「クラウドサービス導入によるコスト削減効果」というテーマを伝えることばかりを考えていては、相手がそれを理解できているか、理解できたとしてもそれに対してどのような意見を持っているのかを知ることはできない。コミュニケーションが独りよがりにならないためにも、相手の反応を想定して事前にプランを立てる必要がある。

伝えることはあくまでも相手に「理解してもらう」ための手段であり、目的は「反応や回答を得る」ことにあるのだ。ちなみに、1年近い新入社員で教わったのは、「必ず最後に ” Ask for order ” しなさい」ということだった。要するに「買っていただけますよね?」に対する反応を想定して全てのコミュニケーションを組み立てるということだ。

論理的思考のための技術

ロジカルシンキングは、もともと米国のコンサルティング会社であるマッキンゼーが提唱した問題解決のための思考手法のひとつであると述べた。現在では様々な技術が存在するが、これを最初に提唱したことに敬意を表して、マッキンゼーのものを紹介したい。

重複・漏れ・ずれをなくす「MECE」

MECEは「ミッシー」と読む。マッキンゼーが命名したロジカルシンキングのキーとなる概念のひとつだ。伝えたいことを伝えるときに、同じ話を繰り返してしまう「重複」、肝心の点を説明していないといった「漏れ」、見当違いの点を強調してしまう「ずれ」があっては、相手の理解を得ることはできない。

重複・漏れ・ずれがあっても相手がそれを認識できるのは、それまでに蓄積してきた理解や経験によって現在話題となっている主題の概要をつかんでいるためであろう。映画の話をするときにその映画を観たことのある人ならば、ストーリーや映画の中の人間関係が分かっているために多少の重複・漏れ・ずれがあっても自分の中で補完しながら話を理解することができるが、その映画を観たことがない人に対して突然作品中の伏線に関する矛盾の話をしても、当然のことながら理解できないはずだ。

打ち合わせや連絡などの現場で、お互いが理解したように思えていても、重複・漏れ・ずれがあったために相手に間違って伝わっていたり、相手の望むことを勘違いして仕事を進めてしまうことがある。

MECEは、Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive の略で、そのままでは、重複なく、全く漏れなくという意味の言葉だが、マッキンゼーではこれを「ある事柄を重なりなく、しかも漏れのない部分の集合体としてとらえること」と意味付けている。つまり、MECEとは現在テーマとなっている事象について、それを全体集合としてとらえたうえで、さらに漏れや重複のないように分類するという考え方だ。

MECEの手法による分類方法は、大きく以下の2 種類に分けられる。

  1. 完全に要素分解できるもの
  2. これを押さえておけば、大きな重複・漏れはない約束ごとになっているもの

「1. 完全に要素分解できるもの」の例としては、年齢、性別、都道府県などの地域が代表的なものとして挙げられる。こうした切り口なら、さまざまな事象を完全に漏れなく、重複なく分類可能だ。このほかにも、企業ならば売上高や従業員数による分類など、完全に要素分解できる分類方式の切り口は数多くある。

「2. これを押さえておけば、大きな重複・漏れはない約束ごと」というのは、完全に重複や漏れがないとは証明できないものの、広く一般的に用いられている切り口で事象を分類するというものだ。この分類方法の例として、具体的には以下のようなものが挙げられる。

市場全体を把握する3C/4C

顧客(Customer)、競合(Competitor)、自社(Company)、そして流通チャネル(Channel)という、市場を構成する3つないし4つの要素に分類することで、一応は市場全体を網羅することができ、自社を取り巻く現況をおおむね重複なく・漏れなく把握することができる。

マーケティング状況を把握する4P

4Pとはマーケティング上重要とされる要素のことで、商品(Product)、価格(Price)、チャネル(Place)、訴求方法(Promotion)の4つを示す。こちらについても4つの要素に分類して考えることで現況を重複なく・漏れなく把握することができる。

「これを押さえておけば、大きな重複・漏れはない約束ごと」という切り口には特別なルールはなく、主観に傾きすぎた曖昧さを可能な限り排除すれば、どのような分類も可能だ。「過去・現在・未来」や「短期・中期・長期」、「質・量」など様々なものが考えられる。

MECEは、論理的な思考を行うための考え方の訓練といえる。MECEの技術によって伝えたいことを重複なく、漏れなく分解し、思考の落とし穴をふさぎながら全体を網羅的に把握できるだろう。

話の飛びをなくす「So What?/Why So?」

「あの人は話が飛んでいる」とか「論理に飛躍があるね」という言葉は聞くことがあるだろう。三段論法で、『AはBより重い』『BはCより重い』『だからAはCより重い』という誰でも分かる話をしたいときに、真ん中を抜いてしまうと『AはBより重い』『だからAはCより重い』となって、聞いているほうは論理の飛躍を感じてしまう。これが「話の飛び」だ。

ここまで単純な話ではないが、実際には前述した「何を伝えたいか」と「どんな反応であれば成功か」の設定を間違ったため、相手に判断の根拠となる事柄を理解してもらえないなどの理由で話の飛びが発生することは少なくない。こうした「話の飛び」をなくすための技術が「So What?/Why So?」だ。

So What?とは、それまでに話した内容や提示した情報の中から「結局どういうことなのか?」を抽出する作業で、Why So?とは、So What?で抽出された結論に対して「なぜそうなのか?」を検証・確認する作業となる。

いくつかの情報を提示したうえで結論となる部分を導き出すSo What?とは、ものごとを要約する作業であるといえる。そして、Why So?とは、要約した内容が間違っていないかを確認するためにもう一度それまで述べてきたことや情報を見直すことだと考えよう。

ネットニュースを読むときや日常的な会話・報告の中で、日ごろから「結局どういうことなのか?」ということを常に考える訓練と、その結論に対して「なぜそうなのか?」を検証することが、「So What?/Why So?」の能力を高めるためには重要となるのは言うまでもない。

「横の法則」と「縦の法則」によって組み立てられる論理

マッキンゼーのロジカルシンキングでは、そのときの課題に対してMECEを「横の法則」、So What?/Why So?を「縦の法則」法則として、立体的に論理を組み上げる。下の図はメーカーが新製品を開発する際に、会議でその方向性を発言する際の論理モデルをイメージして書いてみた。

ロジカルシンキングの論理モデル例


論理を組み上げる時にチェックしておくべきポイントとなるのは以下の3点だ。

  1. 結論がテーマの回答になっている
  2. 結論を頂点として各要素にSo What?/Why So?の関係が成立している
  3. 横方向に並んだ複数の要素でMECEが成立している

この論理モデルでは、「新製品開発の方向性」というテーマに対して、市場把握の3Cを分類方法として選んだ「MECE」による考え方を横軸にして、縦軸では「So What?/Why So?」を繰り返して結論を導き出す。MECEを使いこなすことで論理を組み立てる判断材料となる情報を重複なく、漏れなく、ずれなく網羅したうえで、So What?/Why So?によって「結局どういうことなのか?」「なぜそうなのか?」を検証しながら、飛びのない論理を構築するというのがロジカルシンキングにおける思考の手順となる。

2種類の論理構築パターン

ロジカルシンキングにおける論理構築のパターンには、「並列型」と「解説型」の2種類のパターンがある。

並列型とは、結論を頂点にしてそれをMECEを横軸にした複数の根拠が支えるというパターン。ロジカルシンキングの基本パターンと考えて良い。メーカーの新製品開発で示した論理モデルも、並列型の論理構築パターンとなっている。

解説型は、横の法則となるMECEの分類を以下の3種類に設定する。

  • 課題に対する結論を導き出すために相手と共有しておくべき「事実」
  • 「事実」から結論を導き出すための伝え手としての「判断基準」
  • 「事実」を「判断基準」で判断した結果、どのように評価されるのかという「判断内容」

解説型の論理構築パターンでは、「事実」→「判断基準」→「判断内容」という、演繹的な思考の流れを根拠としながら、最終的にはSo What?/Why So?を行いながら一つの結論へと導かれるという流れになる。メーカーの新製品開発で示した論理モデル例について、解説型による論理モデルを書いてみると下記の図になる。

解説型ロジカルシンキングの論理モデル例

並列型、解説型の2 種類の論理構築パターンを組み合わせることで、どのような課題に対しても論理的に思考を組み立てることが可能となる。

道具として使ってみよう

ロジカルシンキングの基本的な概念について簡単に解説した。オンライン書店を覗いてみると、マッキンゼーの手法によるロジカルシンキングの詳しい内容の解説本はもちろんのこと、マッキンゼー以外の手法によるロジカルシンキング本も、たくさんでている。

ロジカルシンキングは単なる思考の道具、コミュニケーションの道具に過ぎないが、使ってみてうまくいくなら儲けものだ。無駄な時間を省くための先人の知恵として知っておいて損はない。

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