環境に応じて変化する組織

経営戦略
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組織の形成

会社にしろ公的機関にしろ、なぜ「組織」をつくるのだろうか。ひとりで何もかもやるより合理的で成果が出やすいからなのか。

社会に出てすぐに就職すると、組織があるのは当然なので、このような疑問を持つことはないだろう。ところが、独立してひとりでスモールビジネスを立ち上げ、それを発展させる段階になると必ず「組織をつくる意義」を考えることになる。

経営の神様、ピーター・F・ドラッカーは、組織についての名言をいくつか残しているので、それを紹介しておこう。

人のマネジメントとは、人の強みを発揮させることである。人は弱い。悲しいほどに弱い。問題を起こす。人とは費用であり、脅威である。しかし人はこれらのことゆえに雇われるのではない。人が雇われるのは、強みのゆえであり能力のゆえである。
組織の目的は人の強みを生産に結びつけ、人の弱みを中和することにある。

P.F.ドラッカー 「創造する経営者」

組織の優秀さとは、凡人をして非凡な働きをなさしめることにある。

P.F.ドラッカー 「マネジメント」

組織形成の基本は分業だ。例えば、ものづくり職人が独立した場合は、自ら営業を行って注文をとり、必要な材料を手配し、工事や製造も行う。これがスモールビジネスとして組織になった時には、営業・購買・製造などへと分化し、機能別組織が形成される。

さらに事業が拡大していくと組織も膨らみ、組織間の意思疎通や利害調整などの課題が発生するようになる。このような課題に対応するために、スタッフ組織が必要となり、組織はさらに複雑化することになる。その後、組織は生き物のように「分化と統合」を繰り返していくことになる。

主な組織形態

多くの企業では、いわゆる「ピラミッド型」の組織を形成している。ピラミッド組織の原型は軍隊や鉄道会社にあるといわれている。「上意下達」といって、上層の命令を下位・下層へと伝えて、意思の疎通を図るのに適した組織形態だからだ。

しかしながら、産業社会のソフト化の流れや意思決定のスピードアップ、あるいは企業のポスト不足などに対応するために、一部では組織のフラット化も進んでいる。ここでは、よく耳にする組織形態の概略を解説する。

職能別組織

スモールビジネスが数人の規模から拡大し、50人程度になった場合、仕入、製造、販売、財務、総務といったような機能の分化が起こる。このように、組織をその果たす機能・役割によって分化させたものを職能別組織、または機能別組織という。

この組織の特徴は、最終的な意思決定が経営トップ(社長)に集中するという点にある。各々の職能別組織のトップ(営業部長など)は与えられた職能に関する個別の意思決定をするが、全社的な意思決定は経営トップの役割となる。この組織は、事業環境が安定し、事業分野が限定されている企業にとってはとても効率的といわれている。

しかしながら、機能分化によって部門間のコミュニケーションが不足し、販売と製造が対立するなどの問題が発生することもある。また、事業規模が拡大し経営が多角化した場合などには、職能単位での意思決定を集約しても、会社全体での方向性を見失う可能性がある。

さらに、職能別組織の責任者は専門性を深めることはできるものの、事業の全体像を見る機会が少ないため、次代の経営者を育てるということが難しいともいわれている。このため、職能別組織では、組織横断的な人事ローテーションが課題となることがある。

事業部制組織

企業が成長し、経営の多角化や地域的な拡大を図った場合、職能別組織では成長への対応が困難になってくる。例えば製品の多角化により、複数の製品を製造する場合には、同一の製造部門に複数のラインを持つことはマネジメントを複雑にする可能性が出てくる。

事業部制組織は、事業に関して製品開発から販売までを垂直的に統合し、併せて人事・経理などの機能も組織内に包含する事業部が複数存在する形態だ。事業部はあたかも一つの企業のように権限と責任を持って行動することになる。

事業部制組織は、製品の幅が限られて製造から販売までの一環体制が保たれるため、市場の声を反映しやすいという利点がある。一方で、事業部が独立採算制で運営され他の事業部との競争があるため、短期的な収益を追いがちな面もある。長期的な視野からのマネジメントが欠如しがちな点が、事業部制組織の最大の課題といわれる。

このような課題に対処するために、長期的な視野から事業ポートフォリオを作成する経営企画部門や、基礎的研究部門を置くような事例もみられる。

スモールビジネスにおいては大企業のような事業部制組織を作るケースは少ない。ただ、過去に成熟産業の分野で業績を伸ばした中小企業で、その分野を縮小して事業部門とし、別分野の事業部門を新たに設けるといった事例は数多くみられる。

大企業では、事業部制組織がさらに独立性を高め、企業のなかに事業領域ごとに独立した仮想的な会社組織を設置した「社内カンパニー組織」という形態もある。。経営資源の効率化、意思決定の迅速化、創造性の発揮を促進することが目的で、バーチャルカンパニー組織ともいう。

プロジェクト・チーム

明確な目的を持ち、ある一定の期間を設けて編成される組織が「プロジェクト・チーム(PT)」です。プロジェクト・チームは、その組織を必要とする期間が有限である場合や、既存の組織の枠内では対処することが難しい課題などを取り扱う場合に組織されます。

一般的に、プロジェクト・チームの構成メンバーは新規事業の検討や経営ビジョンの策定などのプロジェクトの目的に応じて、組織横断的に選任されます。構成メンバーは本来業務との兼務の形態をとることが多く、特に、優秀なメンバーは本来の組織が手放すことを嫌がるため兼務となりがちです。

ただし、兼務形態の場合はどちらに比重を置くかという問題も発生します。目に見える成果を上げることが困難なテーマの場合、本来業務へ逃げてしまうこともあり、また、構成メンバーそれぞれの部門利益代表となってしまうといった問題も発生します。

これらの課題に対処していくためには、プロジェクト・マネージャーのリーダーシップと適切な業績評価システムが非常に重要です。

マトリックス組織

マトリックス組織は比較的新しい組織の考え方だ。この組織はひとことで言えば、1人の組織構成員が同時に二つの組織に所属する形態。日本では本格的な導入事例は少ないようだが、兼務形態のプロジェクトチームはこれに近いものといえる。

職能別組織にしても事業部制組織にしても、指揮命令系統は一元的だが、マトリックス組織においては、1人の構成員が構造的に2人の上司を持ち、二つの命令系統によってコントロールされることになりる。

マトリックス組織の分かりやすい事例としては、車の開発生産体制があげられる。新車の開発においては、プロトタイプの設計から本格的な製造ラインまで、多くの職能部門が関与する。マーケティング・設計・試作・テスト・生産準備・本格生産まで多くの職能別組織の構成員が新車開発のプロジェクトマネージャーの下で、業務を推進する。

マトリックス組織は指揮命令系統が二元的であり、運用は決して容易ではないが、成功すると大きな成果を収めるといわれている。成功のためには、あらかじめ職能別組織の長がマトリックス組織の役割を深く理解する必要がある。

■クロスファンクショナルチーム

マトリックス組織のような横断的組織で、21世紀初頭に話題になった組織形態に「クロスファンクショナルチーム(CFT)」がある。当時、経営危機に陥っていた日産自動車では、組織横断的なチームであるCFTで、「事業の発展」「購買」「製造物流」など9つのテーマ別に各部門から人材を集め、業績回復に向けたさまざまな提案を行った。

ラインとスタッフ組織

製造業における製造部門と営業部門、流通業における仕入部門や販売部門など、企業の目的を直接的に達成するのがラインだ。一方、企画部門、研究開発部門、広告宣伝部門、管理部門など、ラインに助言を与え支援する部門をスタッフという。

ラインのことを「直接部門」、スタッフのことを「間接部門」という呼び方で区別することもある。また、事業部制組織などでは、各事業部にその事業部に関するスタッフ組織があるが、これを全社スタッフと区別して「ラインスタッフ」と呼ぶこともある。

一般的に事業規模が拡大し、企業経営に必要な専門的知識や経験が増すと、スタッフの数が増加する傾向にある。しかし、スタッフは企業の収益に直接的に貢献しないため、コストセンターとして位置付けられ、ラインとスタッフの要員バランスが課題となることが多い。

高収益時にスタッフ部門を強化したものの、収益が低下した場合に、間接コスト削減のためにスタッフからラインへの配置転換を行うといった光景は、あちらこちらでよく見かける。

外部組織活用

小規模会社に代表されるスモールビジネスの強みのひとつは、個々人が組織に埋没せず、しかも組織全体が固い結束をもって事業を進めるところにある。会社の向かうところが一人ひとりに正しく理解され、同じ目標に向かって一丸となってまい進するところがスモールビジネスの良さでもある。

しかしながら、規模の拡大にしたがって、組織は自然に何層かのピラミッド構造になってしまう。100人から300人規模では、複数の管理層が存在し、本来の強みであるはずの「風通しの良さ」がなくなってしまうことがある。

小規模会社の環境

スモールビジネスの組織を考えた場合、内部組織と同等あるいはそれ以上に大切なのが外部組織だ。小規模会社は、大企業に比べて規模が小さいために取引上不利をこうむることが少なくない。このため「協同組合」などを組織し、不利を克服する努力が続けられてきた。

今では、インターネットとそこにつながる様々なネットワークをフルに活用することで、中小企業や小規模会社でも世界的な規模での事業を展開している会社がいくつもある。また、外部組織を有効活用し、機動力を活かして、独自の技術を武器としてグローバルな事業展開を見せる有力な会社もある。

しかしながら、一般的にはまだまだスモールビジネスが活用できる資源には限界があり、その限界を打破する工夫が必要になる。外部組織の活用がその解決策になり得るのだ。

外部組織の活用

外部組織と積極的に接する機会を持ち、相互理解のうえでコラボレーションすることが、スモールビジネスには必要だ。

具体的な方法としては、先に述べた「協同組合」はもとより、外部専門能力の活用の観点から「公設試験研究機関」や「大学」に研究開発を委託したり、製品の販売を「専門商社」に任せるといった方法がある。また、新規事業のアイデアを模索して、異業種企業と接触したり、共同事業化を行う例もある。

異業種交流については、取引金融機関の主催する「交流会」なども有効といえる。金融機関の持っている幅広い情報網から有効なパートナーが見つかる可能性もある。また、各地の商工会議所、商工会、中小企業団体中央会などにも、同じような機能を求めることができる。

このほか、スモールビジネスの外部組織としては、商店街、ボランタリーチェーン、フランチャイズ・チェーンなどもある。

会社によっては、自社の専門性を高め、コアとなる基本的な機能を磨いて、その他の機能は外部の専門機関を活用するというケースも増えてきている。いわゆる「戦略的アウトソーシング」を有効活用することにより高い生産性を上げている会社もある。

いずれにしても、経営資源が限られた小規模会社にとっては、自社にとって最も有効な外部組織の活用はどのようなものかということを検討し、戦略的な外部組織化を図っていくことが重要だ。

理想の組織形態とは

「理想の組織を求めること」は経営者にとって永遠の課題だ。しかし、現実には、たったひとつの理想の組織を見いだすことは不可能といえる。「組織は環境に応じて組み替えられていくもの」であり、現実の環境が刻々と変化する以上、理想の組織も常に変化せざるを得ない。

また、ビジネスは外部環境だけではなく、内部環境の変化により、常に自らの組織の改変を迫られる。例えば、一緒に働く仲間は、5年後には5歳年を取る。まさに、組織は生き物であり、時代と共に変化していくものなのだ。

昭和の高度成長下における日本の製造業は、積極的な事業拡大・多角化の中、事業部制組織を多く導入した。この組織形態は、パナソニックの創業者である松下幸之助氏の創設によるものともいわれ、「大量生産・大量消費」の時代に適した経営モデルとして機能した。製販一体と独立採算制を基本とし、意思決定の速さなどがメリットで、日本の製造業の強さの源泉ともいわれた。

しかしながら、その後のパナソニックは「ドメイン制」の導入などで従来の事業部制を大きく変更し、今でも10年スパンで組織形態を大きく変更している。

競争のグローバル化、異業種からの参入や新たなビジネスモデルの出現、インターネットの進展によるスピードの変化など、ビジネスを取り巻く環境は急速に変化しており、変化への対応力が組織形態を考えるポイントとなる。

メディアでは、毎年のように革新な組織のあり方が紹介される。単に新しい組織の理想形を追い続けるのではなく、環境の変化を見極め、その対応に適合した内部組織の改編や外部組織の活用が強いスモールビジネスをつくることになるだろう。

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