日本発のブランド価値評価法

計画づくり
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ブランドについて

ビジネスを始める場合に、これまで見たことも聞いたこともない全く新しい製品やサービスを開発することができれば素晴らしいが、現実には極めて難しい。すでに存在しているモノやサービスを、高品質で提供したり、ひとケタ安価に提供したり、驚くような短期間で提供するといった、新しい価値の提案が新ビジネスの本質だ。

ただし、より良い商品やサービスは、それを作るだけで売れるということは少ない。多くの人に新しい価値を持つ商品やサービスの購買や利用をしてもらえるように、それらをブランド化する必要がある。なぜならブランドは、顧客が購買や利用の判断材料の1つとすることが多いからだ。逆に言えば、商品やサービスをブランド化することで、競合他社との区別化もできるということだ。

さまざまなブランド

ブランドとは商品・サービスを表す名称・商標であり、これにより他社との区別が容易になる。

ブランドはブランド製品などの流通範囲によって、ナショナル・ブランドとプライベート・ブランドとに分けることができる。ナショナル・ブランドは流通範囲を制限することなく流通する製品などに付けられるブランド名であり、多くのブランドがこれに含まれる。一方、プライベート・ブランドは、百貨店や量販店などの流通業者が自己の流通網で流通させる製品などに付けられたブランド名だ。

またブランドは、それが示す対象によって、コーポレート・ブランドとプロダクト・ブランドとに区分することができる。コーポレート・ブランドとは企業名、企業ロゴなどが競争優位性をもたらすブランドであり、プロダクト・ブランドは製品名、製品ロゴなどが競争優位性をもたらすブランドだ。

有名ブランドと無名ブランドの同じような内容の商品が同一価格で店頭に並んでいた場合、消費者は有名ブランド商品を選ぶ傾向にある。特に、日本人はブランドが好きで、商品知識がなくてもブランド知識が豊富な人は多い。消費者は中身が同じでも、無名ブランドに比べたら有名ブランドの方が高品質であると判断する。

有名ブランドが持つ信用力、品質の信頼感、好イメージは消費者に安心感を与える。この判断の背景には「有名ブランド商品の方が、より多くの人が採用しているから安全性・信頼度が高いであろう」「このブランドの商品は以前に購入したことがあるから安心できる」という判断がある。消費者心理は「同じものを購入するなら、有名ブランド商品の方がよい」となってしまうのだ。

ブランド開発

一般的には、市場分析や競合分析などによって、新ブランドを開発する。新ブランド開発に当たっては、品質、機能性、デザインなどの商品コンセプトを決定し、それに基づいた商品開発を行う。この商品コンセプトがブランドの基本コンセプトの中核となる。

つまり、消費者ニーズや新商品の市場での位置付けをし、どのような特徴を大きく打ち出すかを検討し、ブランド・イメージを決定するというのが一般的な手順だ。その後、ブランド・イメージに基づいてネーミングやロゴマークなどのブランド・デザインを実施しする。

ブランド認知

開発したブランドは市場に認知してもらう必要がある。ブランドのイメージや競合商品の広告動向分析に基づく広告コンセプト、媒体計画などの広告戦略、プロモーション戦略、さらに新商品の売上予測、販売チャネル計画などの策定・実施といったマーケティング活動を行う。

消費者の消費行動は、認知→ 関心→ 評価→ 利用→ 再評価→ 再利用(顧客化)という段階を経ることになる。

この段階順に考えると、まず消費者に認知されるには、広告宣伝活動は不可欠で、さらに関心を得るには一層の広告宣伝活動の継続が必要となる。認知~関心を高める手段として、広範な広告宣伝が用いられる。目に触れ、耳にする機会が多いほど、人間は記憶するからだ。

無名ブランドを広く認知させるには大量の広告宣伝活動を必要とする。ブランドの認知度が低ければ低いほど、広告宣伝活動に要するコストは大きくなる。ただし、一度有名ブランドとして消費者に認知されてしまえば、ブランドそのものの認知のためのコストは不要になり、新商品や新サービスの広告宣伝だけを行えばよいことになる。

ブランド資産

マーケティング活動によって、ブランドの認知率を向上させ、ブランドイメージを確立していく。そして、ブランドマネジメントの目的である「ブランド資産」を形成し、それを高めていくことになる。

例えば、どこの企業の商品も似たようなもので差異が見当たらないとなると、その商品は価格競争に巻き込まれてしまう。大差がないのなら価格の安いものを買ったほうが得と消費者が考えるからだ。しかし、強いブランドは、価格以外のところで消費者に満足を与える。強いブランドは、価格競争とは無縁の世界の存在であり、どのブランドを保有する企業に高収益をもたらすことになる。

高級ブランドは、価格が高いことが他商品との差異化につながっていく。高価格がステータスとなり、そのステータスこそが他社商品との大きな差異だからだ。従って、値崩れを起こして低価格化した時点で、ステータスとしてのブランド価値は崩壊してしまう。高級ブランド商品は高いから売れるのであって、安くなったら売れなくなる。

ブランド価値の最大化戦略

どんなビジネスでもブランドの価値を最大化する経営戦略を考えるはずだ。そのためにまず、ブランドの商品カテゴリーを設定する。そのブランドはどのような商品または商品群のブランドであるのかを決めなければならない。

次に、メインターゲットを明確にする。誰が買い、誰が使うのかを想定し、中核となる顧客層を明確にするのだ。こうすることで、ネーミング、デザイン、品質・機能、価格設定を絞り込むことができる。

市場には同様の製品を同様の顧客層にした競合他社が必ず存在する。競合ブランドが存在し、それらとの差異化が必要となる場合、ブランドの位置付け、メインターゲットの再調整などのポジション設定が必要になる。ブランドの提供価値は、機能的な価値のほかに情緒的・情動的価値が重要になる。「所有しているだけで満足で幸せになる」というのが、情緒的・情動的価値の代表格だろう。品質・機能は同様であっても、有名ブランドであれば顧客に与える価値は大きく高まるものなのだ。

一度構築されたブランドも常に維持管理に努めないと陳腐化する危険が大きい。消費者ニーズの変化、競合他社の動向などに留意し、ブランドの陳腐化を防ぐ継続的な努力が必要となる。

引用:経済産業省 企業法制研究会「ブランド価値評価研究会報告書」

日本発ブランド価値評価法

強いブランドは企業にとって最重要の資産だ。間違いなく大きな経営資源となるはず。しかし、企業の会計において、ブランド価値を算定して資産計上する制度はない。

ブランドの価値測定は、定量化が難しいことで有名なテーマだ。世界中で多くの専門家がこの資産価値を分析するためのツールを開発したが、それを測定するための決定打もなければ、皆が合意した方法もない。

経産省の価値評価研究会

ところが日本では、経済産業省がブランド価値評価研究会を立ち上げ、価値評価モデルなどを考え、2002年6月に「ブランド価値評価研究会報告書」を発表した。以降はその報告書の概要とポイントを説明したい。

経済産業省がブランド価値評価研究会を立ち上げた背景には、企業の経営資源が金融資産や設備資産などの有形の経営資源のほかに知的財産、研究開発、ノウハウなどの無形の経営資源の重要性が増してきたことがある。ブランド重視の企業経営、企業集団内でのブランド使用料実務、ブランドの資産計上を含めたディスクロージャーの方法などについては、今後、検討を重ねていく必要がある。ブランド価値評価研究会の報告書は、こうした今後の検討の座標軸として位置付けることができるとしている。

先に結論を見てみよう。まず、この研究会では「ブランド価値の算出モデル」を提言しているが、このモデルではブランド価値を以下の3要素で算出している。

  • PD:プレステージ・ドライバー(権威、名声)
  • LD:ロイヤルティー・ドライバー(忠誠、愛着)
  • ED:エクスパンション・ドライバー(拡大、発展)

そして、上記3要素を用いたブランド価値評価モデルによる「ブランド価値:BV」を以下で算出する。

BV=PD/r×LD×ED

但し、r:割引率とする。

この報告書では、r(割引率)を、便宜上20年ものの国債の利率に対応する割引率を選択するものとしている。また、将来キャッシュフローは永続するものとみなしているようだ。結論はシンプルな方程式だが、各要素については説明が不足しているので、もう少し詳しく触れておく。

■PD:プレステージ・ドライバー

プレステージ・ドライバーは、ブランドの信頼性が高ければ他社よりも安定した高い価格で商品などを販売することができることに着目した要素であり、価格優位性を表わす。価格優位性とは、商品の品質や機能が同じであってもブランド商品はノンブランド商品よりも高い価格で販売できることを表わす。

従って、価格優位性のあるブランド商品の単価はノンブランド商品の単価を超過することになり、これは超過利益として将来のキャッシュフローの増加額となる。

引用:経済産業省 企業法制研究会「ブランド価値評価研究会報告書」

■LD:ロイヤルティー・ドライバー

リピーターまたはロイヤルティーの高い顧客が安定的に存在することによって長期間にわたって一定の安定した販売量を確保することができる。これに着目した要素がロイヤルティー・ドライバーだ。顧客は、ブランドから利益を得ることができると判断する限り、当該ブランド製品を継続して購入する。

プレステージ・ドライバーにロイヤルティー・ドライバーを乗じることにより、ブランドから得られる現在および将来のキャッシュフローのうち、安定的で確実性の高い部分を評価することができる。

引用:経済産業省 企業法制研究会「ブランド価値評価研究会報告書」

■ED:エクスパンション・ドライバー

ステータスの高いブランドは認知度が高く、本来の業種または本来の市場にとどまらずに、類似業種、異業種、海外などへ進出することができる。このブランドの拡張力に着目した要素がエクスパンション・ドライバーだ。プレステージ・ドライバーおよびロイヤルティー・ドライバーに乗じることによって、ブランド拡張によるキャッシュフローの期待成長を評価することができる。

引用:経済産業省 企業法制研究会「ブランド価値評価研究会報告書」

■BV:ブランド価値

各ドライバーの算出式に従って値を計算し、それを、先述の「BV=PD/r×LD×ED」に当てはめると、企業別のプランド価値が計算できる。

プレステージ・ドライバーについてだけは、「基準企業」を設定して、そこの数値を基準とした計算をしなくてはいけないことになっている。「ブランド価値評価研究会報告書」では、経済産業省の企業法制研究会が試算した「業種別の基準値一覧」が公表されている。これを元に、評価しようとしている企業の業種の基準値を設定する。基準値に関しては、このコラムでは割愛する。

各ドライバーの詳細な計算式や、この業種別基準値、また、実際の計算例などについては、「ブランド価値評価研究会報告書」に詳しく記載されているので、興味があれば参考にされたい。このコラム執筆時点では、経済産業省ホームページの「白書・報告書」コーナーか、慶應義塾大学商学部のアーカイブに報告書PDFファイルがある。

ブランド使用料の実務

ブランド利用料には、主としてブランド使用(許諾)料とブランド管理料とがある。「ブランド価値評価研究会報告書」に示されている「ブランド評価モデル」を採用したブランド使用料の合理的な算定方法を説明しておこう。

ブランド使用料

ブランド使用料はブランドを使用する企業がブランドを使用することによって享受できると考えられる額(ブランド価値)とするのが合理的。従って、ブランド利益についても「ブランド価値評価研究会報告書」の「ブランド評価モデル」を採用して求めることができる。

具体的には、ブランド価値評価モデルにおける期待キャッシュフローの算式にブランドを使用する各社の財務データを代入し、以下で算出できる。

ブランド利益=PD×LD×ED

ブランド管理料

ブランド管理料については、広く企業集団全体で使用するブランド(コーポレート・ブランド)の維持、管理、向上に要する費用の総額を、ブランドを使用する企業のブランド利益に応じて配賦し、その配賦された額と実際に支出した額との差額をブランド管理業務を主として行っている企業に支払うことが合理的と考えられている。報告書にある具体的な算定方法は以下の通り。

引用:経済産業省 企業法制研究会「ブランド価値評価研究会報告書」

報告書によると、ブランド使用料の実務については、留意すべき点があるという。

「ブランド価値評価モデル」は連結をベースとして算定することを前提としているのに対して、ブランド利益計算では各社の単体ベースで算定しているところから、同一の企業集団に属する各社のブランド利益の合計が企業集団全体の期待キャッシュ・フローに等しくなるようにするために、ブランド利益の計算にあたり、各社の外販のデータを利用して売上高および売上原価の値を算定するなどの実務上の調整を行う必要がある。この点に留意すべきだそうだ。

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