債権買取(ファクタリング)の活用

リスク管理
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ファクタリングとは何か

ファクタリングを初めて知ったのは、売上数億円規模の小規模会社を経営しているときだった。詳細には触れないが、取引先の有名企業に対する売掛金が、ファクタリング会社経由で振り込まれたことがあった。「これは一体何なのか」と、興味を持ったことを覚えている。

企業間の取り引きは即時の現金決済ではなく、信用取引によって成立することが多くある。これは古くから行われてきた商慣行だが、キャッシュフローが重視される現在、企業は売掛金を少しでも早く現金に換えたいと考える。また、長引く不況により企業の倒産が相次ぐ中、優良と思っていた取引先が突然倒産してしまうこともあり、貸倒れのリスクは大きくなっている。

ファクタリングの利用が注目された背景には、こういったことがある。

ファクタリングは「債権買取」と訳される。一般的なファクタリングの流れは、「ファクター」と呼ばれるファクタリング業者が、企業の売掛債権や受取手形を買い取り、手数料を割り引いた買取代金を当該企業に支払うこととなる。

売掛債権を譲渡した利用者にファクターが支払う代金は、手数料が引かれる額であるため、もともとの売掛債権より少なくなる。しかし、利用者は売掛債権を早期に現金化できる点や、貸倒リスクが回避できる点などから、ファクタリングを利用することの意義は大きい。

また、資産となる売掛債権を譲渡することによって、バランスシートが改善されることや、企業がファクターを利用することにより、ファクターの調査機能を活用して、第三者的な視点から売掛債権の評価ができるなどのメリットもある。

業界の自主規制機関による定義

一般社団法人日本ファクタリング業協会という自主規制機関が定義するファクタリングは以下のように説明されている。

ファクタリングとは、売掛債権買取業務のことを言います。決済期日前に売掛債権を第三者に譲渡するなどの方法を用いて資金を調達することを指します。企業の売掛債権を総合的に管理するサービスです。

調達できる資金の額は、売掛債権のリスク(信用力)に大きく依存します。

売掛債権買取は、売掛債権が発生した直後からできるわけではなく、検収が終了して売掛債権の額面が確定した後になされるのが一般的です。

欧米で発達した貿易金融システムで売掛金を主な対象として譲り受けること(「債権譲渡」)によって、支払人の信用リスクと回収管理業務を合わせ引き受ける総合的な債権管理サービスです。ファクタリング会社を「債権買取会社」というのはこのためです。

引用: 一般社団法人日本ファクタリング業協会:ファクタリングとは

ファクタリングのスキーム

ファクター(ファクタリング業者)の業務は売掛債権の譲り受けや回収代行だが、細かく整理すると以下の4つの機能になる。

  1. 金融機能:売掛債権を買い取る業務
  2. 債権回収機能:売掛債権を持つ企業に代わって債権を回収する業務
  3. 貸倒負担機能:売掛債権が不渡りになっても償還請求しない機能
  4. 信用調査機能:債務者に対する調査業務

一口にファクタリング業務といってもその仕組みはさまざまだ。「ファクターが企業の売掛債権などを引き受ける」といった基本は変わらないものの、下記の2条件などによっていくつかのバリエーションがある。

  1. 売掛債権の買取代金の支払い時期
  2. 償還請求権の有無

まず、上記の1. の買取代金の支払い時期については以下の2つのバリエーションがある。

  • 買い取り後、すぐに支払うタイプ
  • 買い取り後、一定期間後に支払うタイプ

また、2. の償還請求権の有無については、以下の違いがある。

  • 償還請求権有り:買掛債務者が破綻した場合、企業はファクターに売った売掛債権を再度買い取らなければならない
  • 償還請求権無し:買掛債務者が破綻しても、貸倒れリスクはファクターが負う

金融機関のファクタリング業務への取組み

日本では、1970年代に金融機関系やメーカー系のファクターの設立が相次いだらしい。ただし、当時は「売掛債権を譲渡することに抵抗を感じる企業が多かった」ことと、「債権譲渡に関する法整備が進んでいなかった」といった状況であったため、ファクタリングはそれほど普及せず金融機関の補完業務の一つとての位置付けに留まっていたという。

日本でファクタリングが受け入れにくかった理由のひとつが、手形中心の金融市場だ。当時は手形で取引して、資金が必要になれば割り引いて調達していた。そのため、債権を現金化したいというニーズは手形取引が中心になり、ファクタリングによる資金化は広がりにくくなってしまっていた。手形の商慣習が根強かったことによって、ファクタリングというもの自体の知名度も広がらなかった。

近年になってファクタリング市場が規模を広げているのは、手形による商取引が薄れ始めたことも要因と考えられる。手形取引のピークは1990年の約4797兆円。翌年のバブル経済崩壊以降、手形取引は急速に減少し、2018年には約261億円だった。全盛期から94%以上も減少しているのだ。

こうした中、金融機関はファクタリングサービスを強化する動きを見せた。金融機関再編の激しさを目の当たりにして、企業は取り引きする金融機関を選別するようになった。顧客離れを防ぎたい金融機関は、インターネットによるビジネス情報の提供やファクタリング業務の強化によって顧客囲い込みの努力をしている。

ファクタリングの内容も変化している。ファクタリングが開始された当時は償還請求権有りのファクタリングが多かったが、今では償還請求権無しが主流。先述の通り、償還請求権無しのサービスは債務者が破綻した場合の貸倒れリスクをファクター(ファクタリング業者)が負うといったもの。この仕組みでなければさまざなま売掛債権の早期の現金化、貸倒れリスクの回避といった利用企業のニーズに応えられない状況になっている。

日本と世界のファクタリング市場

オランダのアムステルダムに本部があるファクタリング団体FCIの調査データによれば、2019年における日本のファクタリングの市場規模は約500億ドル。日本では、2011年に約1,112億ドルであったのをピークにファクタリングの市場規模が減少していき、2017年くらいまで下がり続けた。その後、中小企業庁が債権の積極活用を提言したことで、2017年~2018年にかけてファクタリング市場規模が大きく成長を見せ、約500億ドルに復活したというのが大きな流れだ。

これに対して、ファクタリングの発祥の地としての歴史を持つヨーロッパにおいては、イギリスが約3,300億ドル、フランスが約3,500億ドル、ドイツが約2,800億ドル、イタリアが約2,700億ドル。中国は4,000億ドルを超えており、欧州先進国と中国には圧倒的な差をつけられている。

日本でのファクタリング普及のネックになっているのは、前述の「手形の習慣」以外には、「法整備の遅れ」があるといわれる。経済産業省は、ファクタリング業務が行いやすいように、これまで「債権譲渡の対抗要件に関する民法特例法」「根抵当権付き債権譲渡円滑化法」「債権管理回収業(サービサー)法」などの法律を相次いで施行した。

新型コロナウイルス感染症に拡大に伴い、日本で初めて緊急事態宣言が出されたのが2020年3月だった。その翌月、2020年4月に改正民法が施行され、従来はファクタリングに制限をかけてきた、債権譲渡を制限する特約付きの債権であっても譲渡ができるようになった。

日本では売掛金の取引において、第三者には譲渡しないといった特約を付けるのが商慣習として根付いていた。そのため、これまではファクタリングを利用する際は、譲渡禁止特約が付いていない売掛債権に限られていた。法改正と同時に、経済産業省が資金調達目的の債権譲渡は譲渡禁止特約が付いていても契約の解除や損害賠償の対象とはならないこと、売掛先にとって譲渡されても特段の不利益がないにもかかわらず、ファクタリングを行った企業に対して、取引の打ち切りや解除を行うことは権利濫用にあたるという法務省の見解を公表したことで、譲渡制限特約の有無を問わず、ファクタリングがしやすい環境が整った。

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