数値を用いて伝達することの重要性

生産性向上
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効果的に情報伝達する手段

ほかの人に何かを伝えたいとき、しかもその時間が限られている場合には、数値を端的に伝達することが最も効果的な手段だと考えている。テレビ、ラジオ、インターネットなどのニュースメディアの報道では、例えば地震発生時においては場所と震度の数値、新型コロナ感染症の状況においては、感染者数と死亡者数といった数値によって、正確な情報を短時間で伝えている。昔と違って、今では天気予報も「降水確率」という数値が普通に使われている。

プライベートな情報伝達では、「東京ドームにコンサートを見に行ったけど、すごくたくさんの人が来ていた」という会話が一般的だ。この話を家族から聞かされたとき、ある人は「5万人くらい来ていたのかな」と感じるかもしれないし、別の人は「2万人以上は来ていたのかな」と感じるかもしれない。このように「すごくたくさん」の持つ意味は、人それぞれによって違いがある。

こういう情報伝達は、ビジネスでは致命的になることがある。今回は、ビジネスの世界における、「数値を用いて報告・伝達することの重要性」を考えてみたい。

数値の重要性を再認識

前述の通り、ニュースメディアの報道では数値によって正確な情報を短時間で伝えている。そこで、202X年7月30日から8月2日にかけて台風Y号の影響により西日本が豪雨に見舞われるという架空の災害時の報道内容を比較してみよう。

■テレビ局Aのニュース報道

「台風Y号の影響による記録的な豪雨被害で、四国地方では各地で土砂崩れが発生、それにより数多くの人が孤立しました。しかし、天候が回復したことにより、まずはそのうちの数名が自治体や陸上自衛隊などの必死の救助により救出されました。」

■テレビ局Bのニュース報道

「四国地方を襲った台風Y号による豪雨被害で、最も被害の大きかった徳島県〇〇市など4カ所では、土砂崩れにより病人や観光客ら計75人が孤立しました。しかし、天候が回復した8月3日朝、県や陸上自衛隊のヘリコプターなどで、そのうちの20人がまず救助されました。」

どちらの報道がニュースとして価値が高いかは、同時に流される画像などとの兼ね合いもあり、意見が分かれるだろう。しかしながら、少なくとも経営や販売というビジネスの視点からみれば、数値により具体性を持たせたテレビ局Bのニュース報道の方が優れているのは間違いない。

テレビ局Aは、具体的な数値化がなされていないが、撮影したニュース映像と合わせて視聴者に「記録的な豪雨による被害」という情感を強調することは可能だ。

情報の意味合い

メディアのニュース報道をはじめとする世の中の多くの情報は、次の2つの要素を含んでいる。

  • 定量情報:数値による情報。計算結果や測定結果など
  • 定性情報:主に言葉や文章によって伝達される事象の様子や思考など。音声や画像・映像は定性情報に属する

定量情報は数字によって表現されるので、その内容は常に「明瞭」。これに反して、定性情報は言葉や記号・音声・画像・映像あるいは振動などさまざまな方法で表現され、その内容も複雑で、伝え方と伝わり方が必ずしも一致しないケースもある。

ビジネスの世界では「数字」が重要な役割を演じる。通常、経営に関する資料は数字化されているが、コミュニケーションに関する情報はほとんど「言葉」になっている。言葉であるため、人によって意識的に言葉を使い分けたり、受け手との意識に温度差があって「誤認・誤解」が生ずることも多くある。

ビジネスにおける伝達行為では適切な表現・表示が要求されるが、「言葉」や「文章」だけでは受け手側に正確に伝わらない。そこで、それを補うために正確な数値が意味を持ってくることになる。

避けたい「あいまい言葉」

ビジネスに鈍感で情報センスのないひとは往々にして正確性に欠ける言葉を使いがちだ。例えば、量を表す場合に「およそ」「だいたい」「ほとんど」「たくさん」「かなり」「わずか」「ちょっと」などを使う。頻度や時間を表す場合に「たまに」「まもなく」「すぐに」などとあいまいな言葉を使用する。

あいまいな言葉を使用するのがいけないと言っているわけではない。交渉の場で「明確な答えを見出せないため返答を避けたい」ケースであれば、このようなあいまいな言葉で、その場をしのぐことは往々にしてあることだ。しかし、相手方が知りたい基本的な情報を、正確に伝えられないのでは信用を落としてしまう。

感じ方の違いは大きい

例えば、ひとによって時間の概念についてどれほど誤差があるのかをみてみよう。ある意識調査によると、時間に対する許容誤差の感覚は次のようになっているらしい。

■朝一番、アサイチとは何時ですか?

  • 9時00分:53%
  • 9時30分:14.3%
  • 10時00分:10.8%

■夕方とは何時ですか?

  • 16時00分:31.4%
  • 17時00分:35.2%
  • 18時00分:15.7%

■「ちょっと出かけます」の「ちょっと」とは何分ですか?

  • 10分:12.1%
  • 30分:37.2%
  • 60分:20.6%

人によってこんなにも解釈の違いがある。「少しお待ちください」といわれて、随分長い時間を待たされた、という経験は多くの人がもっているだろう。時間に限らず、量・数・重量・速度・長さなど、とにかく数値化することを習慣づけるようにしてみよう。こうすることでビジネスに必要な情報センスが大幅にアップするはずだ。

事実伝達は正確+数値+感情抜き

営業会議での報告例を使って、数値を使う効果を考えてみよう。まず最初に、極端だがありがちな報告例を示す。

「今月のZ社に対する実績ですが、何度も訪問アプローチを実行していますが、かなりの当社商品を在庫として保有しているうえに、エリア内の販促活動もイマイチの成果です。当社への追加発注はしばらく先になりそうです」

なんとなくうまくいっていない感じは分かるが、実際にどんな状況なのかさっぱり分からない。こんな営業会議がしょっちゅう行われていて、誰も「おかしい」と感じない場合、ビジネスの世界では「時間のムダ」と言われる。次に別の報告例を以下に示す。

「Z社の状況を報告します。今月の訪問回数は5回でした。先方担当者から当社商品の在庫は60日分あると聞きました。販促活動には特に力をいれておらず、この四半期は現状のままでいくようです。これらを合わせて考えれば、追加受注は60日後になるでしょう。私としてはZ社に『共同で販促活動を実施したい』と提案したいのですが、その予算は取れますでしょうか」

後者の報告は「かなり」とか「しばらく」というあいまいな言葉が使われず、さらに無用な修飾語は省かれ、具体的な数値で語られているため、Z社の様子がはっきりと伝わるはずだ。会議出席者はZ社の状況を明確に把握することができるだろう。また、Z社から追加受注するための担当者の意見も語られているので、今後社としてどのような対応をしていくかの議論もしやすくなる。この営業担当者は、事実を正確に伝えることができ、かつその対応策を考えていることから、ビジネスに必要な情報センスが高いといえる。

この営業担当者はZ社を訪問した際に、「販売状況」「在庫状況」「今後の販売体制」をすべて聞き出している。そして恐らく、すべてを単刀直入に聞き出したわけではない。「先月・先々月の販売実績はどうでしたか?」「先月・先々月の競合商品の販売実績はどうでしたか?」「今月に入っての販売状況はどうですか?」などさまざまな質問を投げ掛けたであろうことは容易に想像できる。

この営業担当者は、先方が「そこそこです」と返答した際には「金額ベースでいくらになりましたか」あるいは「何個販売できましたか」など数値を聞き出したはず。さらに、販売状況や在庫情報を正確に推測できる情報を得るまでZ社を訪問したのだろう。そして「それでは弊社商品の在庫は60日分、○○個あるわけですね」と投げ掛け、確認をしたはず。

Z社の販促活動についても、実態を知るためにこれと同じようなアプローチをしているはずだ。さらにはZ社担当者から「費用折半なら、共同での販促活動を検討するよ」という意見を聞き出しているのかもしれない。

数値の使い方

あいまいな感覚を表現したり、当事者の心の動きを修飾語で演出するのは、話し手の心情を伝えはするが、対象となる案件の内容や事実を何も語ってはいない。話し手も聞き手も言葉によるコミュニケーションの場合、以下の事項には注意が必要だ。

■定量情報なのに、あいまいな言葉で表現されている

  • それは「いくつ」「どれだけなのか」を数値で表現する

■語尾が「…と思います」や「…のようです」「…のはずです」での場合

  • 事実なのか、私見なのかを明確にして伝える
  • 事実であれば語尾を断定して伝え直す
  • 私見や推測であれば「意見」として別扱いにする

■数字の後に附随する「助詞」は話し手の心境を表すのでなるべく使用しない

  • 「40%にも及びます」「40%しかありません」という伝達は「40%です」とする
  • 同じ量であるにもかかわらず、話し手の評価基準によって「多すぎる」と感じたり、「これでは足りない」と感じたりしてしまう。この「感じ」を強く強調したい場合には、意見として表現する。

数値を明確化する

「長電話と感じるのは何分からか?」という質問に、年代間で大きなギャップがあるということが、ある時計会社の調べで確認されている。以下がその結果だ。

  • 27歳以上:16分以上は長電話
  • 26歳以下:37分までは長電話とは思わない

もっと若い18~20歳であれば「1時間なんて短い」といわれてしまうかもしれない。従って、「長電話は止めるように」と注意をしたところで問題は解決しない。そもそも「長電話」という基準そのものが異なっているからだ。

そこで、個々の解釈を統一するため、例えば「15分以上の通話が予定されそうなときは、あらかじめ隣席の人に言っておくように」と数値だけは明確にして通達する。これで社内共通の基準ができる。

電話だけでなく、「外出時間」「発言時間」「事務処理の許容時間」などにも時間に関するものはすべて数値で明確化してしまうことにする。これだけでも数値に対する感覚が変わっていくはずだ。

交渉の際、「もう少し何とかなりませんか」という値引き交渉では話が前に進まない。もっと明確に「あと2%の値引きをお願いします」という具合で数値で主張するように、社員全体の意識を統一していくことが必要となるだろう。

コミュニケーション・数値・推論・確認

前述の営業担当者のように情報センスが高い人材を育成したいのなら、表現方法(コミュニケーション)を勉強させ、表現を数値で補う訓練をすることから始める。これらが身につけば、数値を使用すれば効果的な報告やプレゼンができることを学べて営業成績が徐々に上がっていくはず。

そして、さまざまな数値を統合・分析し、相手の実情を考慮にいれ推論を働かせ、確認までできるように成長するだろう。

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