中小企業の海外子会社

中小企業経営
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中小企業の海外子会社

2020年から世界的に広がった新型コロナ感染症の流行により、既にグローバル化していた経済の流れがさまざまな分野でストップしてしまっている。それ以前は、中小規模の会社や、もっと小さい小規模事業者でも海外に拠点を設けるケースは珍しくなかった。

例えば、新型コロナ感染症流行の直前、2019年4月に中小企業庁が公開した「2019年版 中小企業白書」には、小さな会社でも海外子会社を保有する割合が増えているという前向きな調査データが以下のように示されている。

次に、中小企業の海外直接投資の状況を確認する。第3-1-33図は、大企業と中小企業の海外現地法人の保有率の推移である。これを見ると、海外子会社を保有する中小企業の割合は、増加傾向にあり直近では14.2%の中小企業が海外子会社を保有している。

また、第3-1-34図は海外直接投資を行っている企業が進出した国・地域の推移である。これを見ると、2000年代前半までは中国への進出が約50%を占めていたが、その後、中国に設立される子会社の数は緩やかに減少している。これに対して、ASEANを始めとしたアジア諸国への進出が増加しており、この中でも、タイ、インドネシア、ベトナムへの進出割合が高くなっている。

引用:中小企業庁「2019年版 中小企業白書」:第3部 中小企業・小規模企業経営者に期待される自己変革 3 グローバル化
引用:中小企業庁「2019年版 中小企業白書」:第3部 中小企業・小規模企業経営者に期待される自己変革 3 グローバル化

新型コロナ感染症の終息後には、ふたたび海外を視野に入れた幅広い視点でのマーケティングが求められるようになるだろう。「海外進出を成功させるために、どのような点に留意すればよいのか」を知ることの意義は小規模会社の経営者であっても決して小さくはない。

今回は、子会社として200人規模の海外生産工場を新設することを想定し、経営を開始する際に必要な事項を考えてみる。

実際の海外進出は、進出国、業種、経済情勢、海外工場の規模など個々の条件を踏まえたうえで慎重に検討する必要があり、ここで扱うのは極めて基本的な事項だけだ。従って「ひとつの参考」として読んでほしい。

子会社組織の構築

まずは、海外子会社を「株式会社」として組織する場合のつくりかたをざっと眺めてみる。

株主総会

海外子会社といえども年1回の定時総会を開催し、決算および利益処分の承認、取締役の選出・改選などを行う。また、資本金の減資、重要設備の増設、企業の合併・買収、新規事業、定款の変更といった重要事項については、臨時株主総会を開催して決議する必要がある。

取締役会

子会社経営の意思決定機関。株主総会で選任された取締役が、取締役会の議決が必要な事項について、通常過半数の賛成をもって決議、決定する。

日本では、取締役会の互選により社長など代表権のある役員を選出し、各取締役の担当業務や権限などを決めて日常業務を執行させる。取締役会における決議で有効となる事項についても定款で明記する必要がある。

なお、米国商法系の国々では、取締役(Director)と役員(Officer)との区別がある。役員(Officer)は取締役会により選任され、日常業務を執行する存在なので、社長(President)であっても取締役(Director)である必要はない。

社長

日本では社長が会社の「最高責任者」であるのが通常。会長は元社長の引退後の名誉職であることが多く、実際にはそれほど権限を持っていないことが多い。

一方、米国では会長(Chairman of the Board)が社長(President)より大きな権限を持っていることが多くある。これを明確にするために、会長は経営の実権を持つ「CEO(Chief Executive Officer:経営最高責任者)」を兼務することが多くある。

この場合、社長は執行の責任者である「COO(Chief Operating Officer:経営執行責任者)」を兼務するのが通常だ。CEOなどの職位呼称を設け、実際に選任することで指揮命令系統の明確化、経営の責任体制の明確化を図っている。最近は、日本でも多くの企業がCEOやCOOなどを導入している。

また、英国商法系の国々では日本の社長に当たる役職を「Managing Director」と呼ぶ。日本では常務取締役をManaging Directorと英訳することが多いので、本質的に違うということに注意が必要だ。
従って、日本の親企業から最高責任者を派遣する場合は、下記タイトルで選出するとスムーズに運ぶだろう。

  • 米国商法系の国:President またはCEO
  • 英国商法系の国:Managing Director

生産部長の選任

200人規模程度の海外生産工場を前提とした場合、生産、販売、人事総務経理担当の部長などの人材の中で生産部長が最も重要なポストとなる。

日本企業の競争原理は高品質、低コストの生産活動にあると考えると、いかに早く、日本工場に近いレベルで生産活動を軌道に乗せるかが最重要課題になるだろう。そのキーマンとなるのが生産部長というポスト。従って、生産部長には日本人が就任するのが通常となる。社長(日本人)が技術者の場合は社長が生産部長(工場長)を兼務してもよいだろう。

人事・総務・経理部長の選任

人事、総務に関しては現地の事情に精通した現地採用者を起用するのが望ましい。ただし、経理(資金管理を含む)に関しては日本本社の原価計算システムや本社からの資金援助などの関連から、設立当初は、本社から社員を派遣した方が無難だといわれる。

生産管理・購買・品質管理課長の選任

生産管理課、購買課、品質管理課は生産部門に欠かせない組織だ。最終的には現地採用者を登用するものの、現地中堅幹部の能力が明らかでない工場設立当初は、生産部長が生産管理課長などを兼務する方が無難。ただし、現地の事情に精通し、管理能力にも優れているなど生産管理課長に適任の人材がいるのであれば、その社員が生産管理・購買・品質管理課長が3つのポストを兼務してもよいだろう。

生産が軌道に乗った後は、現地採用者の中から幹部候補者を選び、日本で研修させるなどしてから生産管理課長などのポストに配置する。

主任や班長の選任

主任も生産管理課などと同様に設立当初は日本人を登用し、その後、日本での研修を終えた現地採用者を登用していくのがよいだろう。

班長(グループリーダー)の最も重要な役割は、技能、技術を社員に丁寧に教えること。海外では自分が持っている技能や知識を他人に教えると損をすると考える場合も多いので、班長を現地採用者とする場合は、事前に班長の役割を十分に認識させることが大切になってくる。

組織構築時に注意すべきこと

命令系統の明確化

海外子会社組織を構築する際にまず重要なのは指揮命令系統を明確にすること。

日本では、営業部長が人事課長に仕事を頼むなど、部署に関係なく立場の上の者が命令を出すことがある。部署は違っても、立場が上の人から頼まれれば断れないため、人事課長は営業部長の命令に従うことがある。

しかし、海外ではこうした命令は好ましくないとされている。仮に、進出先で営業部長が人事課長に命令した場合、うちの課長は他部署の命令に従ったということで人事課長の権限が弱まり、人事部全体の士気に影響する場合がある。

進出先で、異なる部署間での命令が必要な場合は、営業部長から人事部長に指示を出してもらうなどの方法をとり「同じ役職の社員がやり取り」することが大切。

組織の簡素化

海外子会社では、社長が社員一人ひとりの勤務状況や工場全体の生産動向を把握できるようにするために、組織は可能な限り簡素化することが重要。

例えば、工場設立当初は決済権限を社長に集中する体制を目指し、あらゆる情報が社長の耳に入るような中央集権型の組織を作る。このような組織の場合、社長には、情報を的確に処理できる能力が求められる。

また、懸案事項を会議ではなく社長の決断で決定することもあるため、強力なリーダーシップも必要となるだろう。社長のワンマンな組織は、現在の日本の会社組織とは相反するかもしれないが、海外進出の際は効果を発揮することも多い。

なお、社長不在に工場機能がストップすることを防ぐため、社長不在時に代行責任者を決め、権限を明確することを忘れてはいけない。

経営理念の定着

重要なポストは日本人

海外工場は、社長を含め全員が現地スタッフで運営されるのが理想的。人件費を抑えることもできるし、海外工場が独自に正しい判断を下せるようになれば日本の本社の負担も軽減される。

しかし、現実には経営理念や生産計画、事業展開を周知徹底したとしても、重要ポストをすべて現地採用者に任せるのは不安だろう。そのため、工場の経営が軌道に乗るにつれて日本人の数は減少していくものの、ゼロになることはほとんどないようだ。

技術者は少しずつ現地採用

工場設立当初は、できるだけ多くの日本人技術者を派遣し機械のトラブルなど万一の事態に備える。技術者の海外常勤が厳しいようなら、2~3ケ月の出張を交代で行うのもよい。

これと並行して、現地採用者を日本での研修に参加させる。現地採用者が十分なスキルを習得した後は、日本人技術者の人数を少しずつ減らしていく。

本社経営理念の定着

日本本社の経営理念を海外工場に徹底することは非常に大切だ。日本と海外では、指揮命令、納期、コスト意識などが異なると考えていい。このギャップを埋めなければスムーズな経営は難しくなるはずだ。

日本本社の経営理念の徹底は、工場設立当初の日本人が多い時期からはじめることが大切。また、説明会や資料だけでなく日々の業務の中で態度として示すのが理想。この際、日本本社の経営理念を理解し技術を習得すれば、日本人は帰国し、ポストは自分達のものとなること説明したほうがよい。現地採用者に経営管理意識を持たせるようにできれば素晴らしい。

このことは、現地採用者が日本での研修を受けているときにも実施する。日本での研修に参加している現地採用者は将来の幹部候補生であることが多いので、経営理念の徹底はより重要となる。

現地人スタッフの補佐役

現地人スタッフの補佐役の重要性

海外工場では日本人が重要なポストに就き、工場を運営するのが通常。これは、工場の士気や機械故障などのリスクヘッジのためにほかならない。しかし、すべての人材を日本人にしても運営はうまくいかない。海外子会社では必ず現地人スタッフの補佐役が必要となる。

各国にはそれぞれの文化・風潮があり、その国の人間でなければ「勘どころ」がなかなかつかめない。そこで、日本と現地の「橋渡し役」となる現地人スタッフの補佐役が欠かせない。

現地人スタッフの補佐役の役割

現地人スタッフの補佐役としては、技術系よりも文科系で、学歴は大卒、人事総務関連に従事していた人材が適していると聞くことがある。こうした人材は、現地に豊富な人脈を持つと同時に現地採用者に対する強い発言力も持っているというのがその理由だ。また、工場設立当初からの関わりになるため、日本本社の経営理念も時間をかけて理解させることができ、最終的に社長や生産部長の参謀に育てることも可能だろう。

ただし、補佐役として適任な人材を見つけ出すことは容易ではない。特にアジア地域では、よい補佐役を探すのは経営者の頭の痛い問題のひとつといわれている。海外進出を決定したなら、事前に補佐役の候補を選んでおくという順序のほうがうまくいくだろう。

その他の留意点

能力・成果主義の人事体系

海外子会社では、年功序列的な人事体系ではなく、能力・成果主義的な人事体系を導入することが大切。海外では賃金に対する意識が強く、あいまいな賃金決定や昇進基準は不信感の原因となってしまう。そのため、人事部門に現地採用者を配置するなどして、公平で透明性のある人事体系を構築するほうが好ましい。

また、重要ポストに日本人が就いていることに不満を感じているようなら、現地採用者のスキルが向上し、生産が軌道に乗れば現地採用者をどんどん重要ポストに登用していくことを伝えるようにする。

終身雇用を前提とする

日本流に終身雇用を前提とすると、あまり仕事しない社員も解雇しないということになる。

終身雇用が深く根付くと、現地採用者は「定年まで雇用を保証してくれる」といった誤解をするかもしれない。こうした誤解を払拭するためにも、会社が欲しているのはあくまでも仕事ができる社員であり、それ以外とは契約を更新しないといった姿勢を示すことが大事になってくる。

発言権を与える

工場設立当初、重要な事項は社長や数人の日本人幹部で決定することになる。しかし、この体制を続け、現地採用者が全く発言できないのはあとから問題となるだろう。

現地採用者の責任と権限を明確に伝えたうえで、必要な時は遠慮なく発言できるような環境を整える。また、日本人幹部の決定事項に関しても、議事録を作成するなどして現地採用者に伝え、意思の疎通を図ることも欠かせない。

あいまいな指示を避ける

経営側からの指示が明確でないと、現地採用者は不安や不信を感じる。海外では、「何を言ったか」よりも「相手がどう受け取ったか」を重視すると指示の仕方も変わるだろう。

例えば、日本人にありがちな「これをできるだけ早く処理してくれ」ではなく、「これを午後4時までに処理してくれ」という表現で分かりやすくするような心がけが現地での仕事をスムーズにする。

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