ベンチマーキング導入で業績改善

業務改善
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ベンチマーキング

既に何度かご登場いただいているピーター・F・ドラッカー氏は、「分権化」「目標管理」「民営化」「ベンチマーキング」「コア・コンピタンス」など、マネジメントの主な概念と手法を生み、発展させたマネジメントの父と言われる。今回は、このうち「ベンチマーキング」の概略を取り上げてみたい。

ベンチマーキングは、1993年の中頃からビジネス界を席巻した「リエンジニアリング」の支援手段としてアメリカで注目され、重要視されるようになった業績改善の実践手法だ。

ベンチマーキングとは、体系的で継続的な測定プロセスのこと。業界一のビジネスリーダー(ベストプラクティス)と自社の組織のビジネスプロセスを継続的に比較、測定することにより、業績改善に向けた組織行動を促すための情報を得るプロセスといわれる。

つまり、自社の方式、プロセス、手続き、サービスのパフォーマンスを同じパフォーマンスの範囲で、すべての面で自社より優れている企業(ベストプラクティス)に照らして測定するプロセス。自社の業績を向上するには、いかに継続的な改善を行い、いかに顧客満足を達成していくかがポイントとなる。

ここまで読むと、「なんのことはない、同業の優れた企業の業務プロセスをマネすればいいのか」と考えがちだが、それは半分正解で、半分不正解。模倣やマネは極めて大切だし、今では日本を代表する自動車会社や小売り、電器メーカーも、最初は模倣から始まり、最後はそれを超えるイノベーションを実現している。だが、マネするだけでは業績改善することはない。

中小規模事業者のスモールビジネスで「ベンチマーキング」が適用可能かというと、現実問題としてはかなり難しいと考えるが、手法として概要を知っておいて損はない。

ベンチマーキングの過程

ベンチマーキングは、基本的にPDCAの4段階、すなわちプラン(PLAN)→ドゥ(DO)→チェック(CHECK)→アクション(ACTION)の経営管理のサイクルに従って行われる。

調査計画の策定

第1の段階、つまり調査計画策定の段階では、調査すべきプロセスを選択し、定義し、プロセス・パフォーマンスの測定基準を明確にし、プロセスでの自社能力を評価し、そしてどの企業を調査すべきかを決定する。従って、第1段階では、以下2点がポイントになる。

  • 何をベンチマーキングすべきか
  • どの企業をベンチマーキングすべきか

調査の実施

第2段階は調査の実施だ。1次調査と2次調査がある。

この段階には目標とする企業の特定のプロセスに関して公表されている資料を調査することも含まれている。多くの企業は、各企業について新聞や業界紙で何が報じられたかに気づいていない場合が多いため、直接その企業にコンタクトする前にできる限りの情報を得ておくことが大切だ。企業との直接コンタクトには、電話やメールによる取材、書面による質問、あるいはさらに踏み込んだ調査のためには、訪問による調査などがある。

データ分析

ベンチマーキングの第3段階では、調査で明らかになったことと改善案を決定するために、集めたデータを分析する。

この分析には2通りの方法がある。ひとつは計画段階で定めたベンチマーキング測定基準により、目標企業とのパフォーマンス・ギャップの大きさを明らかにすることであり、もうひとつは目標企業でパフォーマンス改善を促進したプロセス・イネイブラーは何であったかを見つけること。

ここで出てきた、「パフォーマンス・ギャップ」とは特定の活動に対するベンチマークで、他社との比較によって、はっきりとしたパフォーマンス差異を示す。また、「プロセス・イネイブラー」は、完全なパフォーマンスの実行を促進し、決定的成功要因の助けとなるプロセス、実践方法、あるいは手法で業績が達成された要因となった特性のこと。

改善の実施

ベンチマーキングの最終段階は、適切なベンチマーキングのプロセス・イネイブラーを適用し、改善し、実施することだ。ベンチマーキングの目的は、組織の向上を通じて、その組織を変革することにある。

ベンチマーキングの導入

調査計画策定

■何についてベンチマーキングするかを決定

前述したようにベンチマーキングの第1段階は計画だ。この計画を立てるには、まず自社の置かれた経営環境を理解しなければならない。これによって自社のキー・ビジネス・プロセスの発見と現在の問題の所在に関する理解が得られるはずだ。そしてベンチマーキングの対象プロセスの選択基準となる要素の設定が可能となる。

経営環境分析に必要な要因は次の通り5種類が考えられる。

  1. 市場シェアを変動させる競争相手
  2. 安全、環境、健康、慣行、品質および行政指導にかかる規制機関
  3. 業種別主要顧客
  4. 自社の製品やサービスのために戦略的技術を提供してくれる重要な供給者
  5. 業界の業績の先行きを示す経済指標および経済動向など

経営環境の把握がすめば、具体的なベンチマーキング対象を決定するために次の段階に進む。

■顧客のニーズを見極める

ベンチマーキングは顧客の視点で対象プロセスをとらえることが重要。基本的なビジネス・プロセスのモデルは、事業にかかる物と情報の流れに一致する。

自社の外部顧客は必ずしも自社製品の消費者とは限らない。例えば、上場企業の財務上での業績における顧客は、株式市場のアナリスト、経営ジャーナリスト、役員、株主などが考えられる。

従業員の安全・保険の制度の顧客には、従業員の家族以外に、労働基準監督署、自治体や病院の救急隊、自社施設周辺の住民までも含むことになる。

顧客のニーズを検討するには、これらの顧客を具体的に見定めなければならない。以下に参考として「顧客セグメンテーション・モデル」のひとつの例を示しておく。

顧客セグメンテーション・モデルの例

■ビジネス・モデルを理解する

ベンチマーキング活動を経営改善活動の中心に位置づけるためにはビジネス・モデルを理解しておく必要がある。

自社の事業を市場セグメンテーションの視点から評価し、自社事業に対する要望、認識、期待、不満などに関する情報収集から、キー・ビジネスの顧客と業者を見極める。情報、物、経営管理など経営資源のフローに関するすべてのビジネス・システムをモデル化しておく。

■プロセスのプロフィールをつくる

ビジネス・モデルの理解が終わったら、キー・ビジネスとの比較を行うための内部的な測定基準線を設ける必要がある。これをプロセス・パフォーマンス・プロフィールとよぶ。プロセス・パフォーマンスの目標は次の3つに要約される。

  1. 歩留まり率:歩留まり率は、業務処理をどれだけ欠陥なしに遂行できるかというプロセス効果に対する尺度
  2. コスト・パフォーマンス率:コスト・パフォーマンスは、より低いコストでより高いアウトプットを生み出す能力を意味するプロセスの経済性の尺度
  3. サイクルタイム:ジャスト・イン・タイム生産方式の考え方。サイクルタイムは、それぞれに業務処理に費やされる時間でされ表されるプロセス効果の尺度

■ベンチマーキング計画を作成する

ベンチマーキング計画は、自社がやり遂げたいビジネス活動のフローと研究を実施するうえでのガイドラインだ。作成しなければならないガイドラインは、次のようなものがあげられる。

  1. 研究活動の顧客(主導者あるいはスポンサー)と、それらの顧客が望む参画の方法や両者の関係の持ち方の確認
  2. 緊急性や活動を完了すべき時期
  3. プロジェクトの日程と期待成果
  4. 活動に対する経営者の見方の傾向、偏見、先入観に関する説明(このプロセスのついての従来の尺度は何か、彼らが経済的だと思っている目標パフォーマンス、彼らが各プロセスに投入する資源に関する制限など)
  5. 研究活動を推進するチーム・メンバーの推薦理由と、研究活動を実施するのに必要な時間と予算を確保するための経営者の意識的巻き込み

ベンチマーク企業の調査

■調査の方向づけ

ベンチマーキング活動にとって難しいのが、調査のフェーズだ。ベンチマーキング・チームは、プロセス比較の対象として最も適切な外部企業を決定するために、社内におけるプロセス研究によって得た知識を活用することになる。これらの企業に関する公開されている資料調査を行い、訪問の承諾時に行う設問を作成しなければならない。

このフェーズの目的は、目標とするベンチマーク企業の事業パフォーマンスの全体が描けるよう、さまざまな事業源からの情報を収集することだ。

■自社情報の収集

まずはベンチマーク企業について、自社が持つ情報を収集する。この情報は前述したビジネス環境、顧客セグメンテーション、プロセス・プロフィールを理解する過程で用いた内部のプロセスに関する資料や市場調査から入手する。

この情報を整理する方法としては、初期の調査で得た競合企業や業界一の企業のそれぞれについて相対的パフォーマンス尺度とプロセスのステップを図表化するのが最も分かりやすい。

■2次情報を活用する

競合企業の公表されている情報を図書館、諸団体、コンサルタントなどから入手する。

■2次情報をまとめる

資料を調査した結果は、選定したプロセス・パフォーマンス指標のそれぞれについて、企業別のパフォーマンスとしてまとめ上げる必要がある。まとめる指標の項目には以下のようなものがある。これらを表としてまとめ、自社と比較する。

  1. 経営資本利益率
  2. 市場占有率
  3. 自己資本比率
  4. 在庫比率(対売上高比率)
  5. 従業員1人当たり売上高
  6. 製造間接費
  7. 資本利益率(対売上高比率)
  8. 研究開発費(対売上高比率)
  9. 研究開発投資効率
  10. 新製品創出サイクルタイム
  11. 予測サイクルタイム
  12. 受注ターン・アラウンド・タイム
  13. 資材発注リードタイム
  14. 生産サイクルタイム
  15. 顧客対応時間
  16. 顧客クレーム(対出荷率)
  17. 返品率(対出荷率)
  18. 品質保証率(対売上高比率)
  19. サプライヤーへの部品返品率
  20. 良品率

■ベストの訪問企業を選ぶ

前段階までに行った分析に基づいて、ベンチマーキングのための協力が得られれば訪問企業を選ぶ。しかし、「あなたの会社が上手くいっている理由を教えてくれ」と協力を仰ぐわけなので、そんなに簡単ではないだろう。従って、実際には社内資料と公表資料などからベンチマーキング企業を選ぶことになるはずだ。

収集したデータを分析する

■現状を評価する

ベンチマーク企業のデータを収集したあと、プロセス・パフォーマンスの差の原因や確認したパフォーマンスとプロセス・ギャップの自社に対するインパクトを認識する必要がある。そのツールとして簡単な品質管理の手法、例えば、データの層別化、特性要因図、関連ダイアグラム、親近相関図などによって分析する。

■データを層別化する

収集したデータをプロセス・ギャップの結果とその要因について層別化する。このための有効な方法として特性要因図またはフィッシュボーン(魚の骨)図を用いる。 特性要因図によって、収集したデータで得た諸関係を一目にして理解でき、隠れた相互関係を発見する糸口となる。

■ギャップを明確にする

パフォーマンスとプロセスのギャップを分析するために、収集した情報により自社とベンチマーキング企業とを比較する。比較を行うことで、ベンチマーク企業は実施しているが、自社は実施していないことが明確になってくる。

■イネイブラーを見極める

イネイブラーとは、ベンチマーキングのプロセスを成功に導くための方法だ。ベンチマーキング分析において、プロセス・パフォーマンスの測定結果を解析し、同時にキー・プロセス・イネイブラーを見つけなければならない。

ベンチマーキングの実施

ベンチマーキングを実施するということは、同じ業界、同じ業務プロセスの「ベストプラクティス」に近づける作業を実施するというとだ。行動計画を立案し、あとは実行に移すだけとなる。

■行動計画を作成する

特定のイネイブラーを実施するために行動計画を作成する。その計画は会社が定めた方針に依る。方針決定は同時にプロセスの目的と目標を設定することと並行して行われる。

■目標を設定する

上記の通り、行動計画の方針と同時に目的と目標を設定することも重要。特に目標はベンチマーク企業(つまり、ベストプラクティス)のデータを分析することによって具体的に設定する。

■計画を実施する

行動計画とリンクして、詳細な実施計画書を作成し、計画を実施する。各計画ごとに担当するチームと責任者を決める必要があるだろう。完了予定期間やと途中のチェックといったマイルストーンを設けることで全体の進捗を管理できる。

■組織的支援を得る

ベンチマーキングは業績向上のための経営改善手法だ。従って、この実施のためには経営に関わるすべての関係者の参画が必要といえる。大企業では、トップ・マネジメントの理解・協力が必須といわれているが、もしこれを中小規模事業者で実施する場合は、トップが総責任者になるくらいの体制でないと実施は難しいだろう。

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